第44話 集いし者たち
「え、お前なんでここにいるの?」
俺は思わず聞き返していた。
エンリケは、あたかも「ヒーローは遅れてくるもんだぜ」みたいなアホ面をしてるが、俺はエンリケがいることなんか1ミリも知らない。
「いやあ実はよ。屋敷を出て行った後、近くのギルドに行ってみたんだ」
「ほう」
「すると、どこのギルドでもこの会議の話で盛り上がっててな。まあ……俺もお伴しないわけには行かねえだろ?」
恥ずかしそうに、「なんて言っても、まあ、坊ちゃんに付いていけるのは俺くらいだろうよ」とそっぽ向いて頭をかくエンリケ。
「…………キッツ」
な、なんて痛々しい男なんだ。
おっさんのデレなんて1ミリも需要がないし、いや別にお前のような雑魚冒険者がいなくともなんとかなるんだが……と思ったが、そこはぐっとこらえ、続きを聞く。
「で、このエラステアに着いたんだが……門をくぐる時に名乗っちゃまずいなと思ってよ」
「なんで?」
「だって、俺はあの『鬼人』だぜ? そりゃ知られているだろうから、ここで名前を名乗るとちょいと面倒なことになると思ってな。まあ坊ちゃんが動き出す時には、拘束なんぞ外せば良いだけの話だし、ここで捕まってたって訳だ」
「そ、そうか」
自慢げに話すエンリケ。
俺は第8位階魔法とは別の意味で寒気がとまらなかった。
……こいつ、自分が有名人か何かだとでも思っているだろうか??
お前の名前を聞いたところで、そんなFラン冒険者の名前を聞いてびびる人間はこの世にいないだろう。
久々に会ったばかりだが、背筋を冷たい汗が覆う。
この自意識過剰っぷり。
俺は久々に『ホンモノ』を味わっていた。
これに比べれば、ジーク君の女装趣味だって可愛いものである。
そもそもアレは似合ってるし、個人の趣味の範囲内だ。
しかし。『奇人エンリケ』
超絶弩弓の痛い男。遅すぎた中二病患者。
実力はFランクだが、その中二病っぷりはもはや――
「Sランクというわけか……」
俺のつぶやきを聞き、エンリケがニヤリと笑う。
「そういうこったな」
……なぜか、牢屋が急に冷え込んできた気がした。
◆
さて。
アホは置いておいて、今の状況を整理すべきだろう。
とりあえず、リサーチをスタート。
「エンリケ。この状況に何か覚えはあるか?」
「いや、全くわからん。ただ――」
意味深なエンリケ。
俺はほんの少し期待してしまった。
「ッ! 何かわかったのか?」
そうそう。
いくら中二病とはいえ、エンリケもそれなりに歳を食っている。
少しは役に―
「いや、ここの飯はかなり旨かったぜ。多分、上の連中は会議とやらで連日いい飯を食っていたんだろうな」
……誰かこいつを殴らなかったことを褒めてほしい。
そして、よくわかった。
エンリケはマジで使えない、と。
というか、そもそも変な祭りを興して、ムダに王国上層部からにらまれる原因を作ったのはこいつのせいでは?
そうだ。最悪こいつをジェネシスとして突き出すという手も……。
想像してみる。
『真実の瞳』の前に連れ出されるエンリケ。
『カッカッカッカ! 俺はあの奇人・エンリケだぁ!! ああ?? ジェネシスの正体?? 坊ちゃんだぜ!!』
……ダメだ。
全然ごまかせる気がしない。馬鹿のせいで余計、話がややこしくなりそうだ。
無能な味方は敵より厄介、とはよく言ったものである。
と、その時。
「ん?」
「ああ、なんだ?」
外で魔力が高まりを感じた。
同時にエンリケと寝転がったままの俺も反応する。
……誰だ?
誰かが助けに来てくれた??
いやそれはない。
考えての通り、俺たちに味方はいない。今のところ帝国も敵。さらに自慢じゃないが、本来味方であるはずの王国の中央騎士団からも絶賛疑われている最中だ。
ジーク君とレインも味方と言えば味方だが、ここの場所を知っているはずが――
そして次の瞬間。
『サンダーランス・ツヴァイ/電撃の双槍』
ドンッ、と大きな衝撃が牢を襲った。
牢の中に爆音が鳴り響き、煙が立ちこめる。
「えっほ。ったく誰だよ!!!」
エンリケが吠える。
煙さを我慢して顔を上げると、牢の壁には大穴が開いていた。
そして、2人の人物の影。
「ウルトス様! ご無事ですか」
そのうちの1人――リエラがこちらに駆け寄ってくる。
しかし、俺の目はもう1人の人物に釘付けだった。
「……まったく。噂に聞いていたが、本当に品性のない男だねえ。下がって良いぞ」
甲冑の鎧の男の後ろから、この場に似つかわしくないほど、上品な――というか鼻につく声が聞こえてきた。
ハンカチで手を拭きながら現れたその男。
一見爽やかな風貌。
だが、その笑みはどこか人を食ったような顔であり、つまり、表現するなら死ぬほどいけ好かない笑みだった。
おかしい。なぜこいつがここにいる??
俺は頬をぴくつかせながら、もう1人に呼びかけた。
「なんで、ここいやがるんですかねぇ……?」
なぜなら、その人物がここにいるはずが無いからだ。
「なぜ、ここにいるか?? いやですねえ」
俺の目の前に立つ男は、俺の冷たい目線を何事も無かったかのように受け流し、にっこりと笑った。
「主の危機には馳せ参じる。臣下として当たり前、至極当然のことではないですか」
仰々しく礼をする、いかにもうさんくさい男。
二度と会うはずのない人物。
俺は苦々しくその名を告げた。
「市長……いや、グレゴリオ」
そして、同時にあまりにもタイミング良く現れた旧敵を見て、俺は確信した。
――こいつ、何か知っていやがるな、と。
――――――――――――――――――――――――――――
エンリケ
→ツンデレ系ヒロイン
グレゴリオ
→「うさんくさい」という現象が人になったような男。
※
本日、久々にTwitterにログインしてみた。
「あなたがフォローし返していない欄」みたいなところに、『クズレス』のイラストを担当していただいたkodamazon先生の名前があった。
自分は12月1日に発売してから適当につぶやいて以来Twitterにログインしていない。
つまり、だいたいの作家がイラストを書いてくださったイラストレーターの方に速攻で感謝を述べているのに、自分はあちらからわざわざフォローしてくださったkodamazon先生のことを1ヶ月間の長きにわたってシカトしていたらしい。
……kodamazon先生、大好きです。
★クズレス・オブリージュ第1巻発売中!!!!★
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