第42話 女教皇



 なぜこの世界は、こうも問題が頻発するのか???

 俺は前世で何か罪を犯してしまったのでしょうか????



 


 パーティー会場で捕まるという前代未聞の事態になった俺は、城の一室で軟禁されていた。

 時刻は翌日。もはや夕暮れである。


 部屋の中には、クリスティアーネと俺。

 外にも何人かの騎士がいて、部屋は完全に防備されている。

 

「では、当日の流れを」

「……はい。会場に連れられたら――」


 かくかくしかじか。

 適当に作り話を話す。


 休憩を挟んで、かれこれもう4,5回は同じ話をしている。

 ……よかった。こんなこともあろうかと、リエラと散々一問一答を繰り返した甲斐があり、ついにはクリスティアーネも納得したようだった。


 クリスティアーネが眉をひそめ、1人ごとのようにつぶやく。


「たしかに……発言に矛盾は感じられませんね。むしろ、なんとか助かった、という印象さえ受けます。たしかに。冷静に考えればランドール公爵家のご子息ともあろう者が、まさかジェネシスの手先になるとは考えづらい」


 そうそう、そうなんですよ。

 納得してもらえたようで良かった。


 辺りはもうすっかり日が落ちている。

 

「はい。すみません。どうやら信ぴょう性のない噂だったようです。我々としても一時的に拘束する必要があり……申し訳ございません」


 と、頭を下げるクリスティアーネ。

 問題ない。どこから湧いて出た噂かわからないけど、どうやら疑いは晴れたようで――


 そこまで言って、クリスティアーネが真っ直ぐに告げてきた。


「ですので、後は王都に来ていただき、証明をしていただければ、と思います」

「証明……?」


 少し嫌な予感がしつつ、聞き返す。

 

「ええ。王都にある、魔道具――『真実の瞳』による証明です」

「えっ」


 ――『真実の瞳』。

 その言葉を聞いた瞬間、俺は固まった。


 なぜならそのアーティファクトはある意味クズトスにとってトラウマだからである。







 アーティファクト、『真実の瞳』。それは王国の中央騎士団が所持する最上位のアーティファクトである。

 その効果は、対象者が100%真実を告げてしまうこと。


 つまり、超高性能な嘘発見器のようなものである。


 作中でいくらマヌケなクズトスとて、さすがに自分の悪事を自分で暴露するわけがない。

 そんなときに効果を発揮するのがこの『真実の瞳』だ。


 哀れなクズトスは、自分の地位に絶対の信頼を置いていたが、この魔道具で自白してしまう。

 

 むしろ、クズトスを失脚させるために作られたんじゃない?レベルのありがたいアーティファクトなのだ。


 

 ……冷や汗が俺の背中を伝った。


 冷静に状況を整理してみよう。

 向かい側にいるクリスティアーネの様子を見る。疑っている感じはしないし、彼女は俺のことを真面目にサポートするつもりで、『真実の瞳』を使わせてくれるというのだろう。


 が、俺はジェネシスである。

 この前割と暴れてしまったジェネシスは俺である。

 

 つまり、このまま王都にノコノコ行くとバレる。正体が。


「……? どうされたのですか?」


 俺の異変を察知したのか、クリスティアーネが眉をひそめる。

 が、それを気にならないほどに俺は焦っていた。


選択肢その1:王都に行ってアーティファクトを受ける

→ジェネシスだとバレて死亡


選択肢その2:王都に行かずアーティファクトの検査を受けない

→疑いは晴れず怪しいまま。というか、むしろもっと怪しい


 待て待て待て……もしかして、結構詰んでないか??? 

 これ。


「い、いえ……そのジェネシスというのは、それほど危ない輩なのでしょうか?」


 俺は願っていた。

 ジェネシスなんというのは、ちょっとした愉快犯で、きっと王国はそんなに気にしてないはず――


「ええ。第1級の危険人物です。単に王国に危害を与えるのみならず近くの村では、ジェネシスを祭って英雄視する動きまであるとか。民の離反工作まで仕掛けている……心底、恐ろしい人物です」

「……へ、へぇ」


 離 反 工 作 !?!?


 クリスティアーネの方を見るが、彼女の眼は真剣マジであった。


 ヤバい。ジェネシスなんて、適当な格好であの場限りのノリだったのに、とんでもない事態に発展しつつある。

 しかも、あのマヌケ(エンリケ)のせいで始まった祭りは、なんと王国から民を離反させるために工作だったらしい。


 初耳だ。


 俺はこんなにも原作のフォローしているはずなのに、なぜ王国から蛇蝎のごとく嫌われているのだろうか???


「……っ!!」


 というか、さらに恐ろしいことに気がついてしまった。そもそも俺はジーク君の前で捕まっているのだ。


 


 そして、どう考えても普通の人間なら王都に行くべきなのに行かない??

 ……あ、怪しすぎる……あまりにも。

 

 ジーク君の好感度を上げ、修行に専念させるだけの楽な作戦、『ジャッジメント計画』。

 ところが、こっちが今まさに『ジャッジ』されつつある。


「顔色が優れないようですが……体調が悪いなら無理せずとも。休憩をお取りしましょうか?」

「い、い、いえ。ちょっと確認しても良いですか?」

「……え、ええ」

 

 困惑気味に答えるクリスティアーネ。


「僕が疑われているって話ですが、いつごろからある話なのでしょうか?」


 震える声で聞き返す。とりあえず情報を集めるしかない。

 というか、あまりにも急すぎるだろその噂。


「……そうですね」


 難しそうな顔のクリスティアーネ。

 少し考えた後に、彼女が言った。


「正直、私も最近耳にした話です。なので詳しくは、このエラステアにきてから、でしょうか。噂が立ち、しかもそれがジェネシス関係だということで、お話を聞くに至った次第です」


 エラステアに来てから。

 つまり、帝国との会議が始まってから。


 ……怪しくないか???


「さらにお伺いしますが……今日の会議ってどうなってます?」

「今日の会議なら――申し訳ないですが、この件でそこまで進んでいないようです」


 そして、進まない会議。

 レインだって「きな臭い」と言っていた。あまりにも王国側に甘すぎる、とも。


 そう。

 冷静に考えると、この会議自体、おかしくないか???

 

 


 そして本来


 さらに関係ないや、と


 心臓が早鐘を打つ。


 ものすごい勘違いをしているような感覚。

 なにか、ボタンを掛け違えているかのような感覚。



 原作では無かった会議だったけど呼び出されて、ラッキー?


 いや、むしろこれって、ジェネシスに関係しているのでは???

 ジェネシスで暴れたのが何かしらのトリガーになっている……??


 まずいまずいまずい。

 なんだかものすごいまずい気がしてきた。


「す、すみません。ジーク君!! もしくはレインさんと連絡をさせてください!!!!」

「なっ!! 落ち着いてください」


 困った様子のクリスティアーネが制止してくる。

 ただ、まずい。


 俺の想像、予感が正しければ。

 

 足の引っ張り合いが大好き。みんなどいつもこいつも自分の利益しか考えていないのが、『ラスアカ』クオリティ。

 絶対ろくなことには――



 その時。

 城が震えた。


「……なっ!!」


 誰も動けない。

 こちらの腕をつかんだクリスティアーネですら。


 そして、魔力が集まってくるのを感じる。

 中心点は、今俺がいる城そのもの。

 

 まずいまずい、まずい。


 俺は知っていた。

 強大な魔法であればあるほどに、余波が大きい。


 こんな地響きが鳴るほどの魔法なんて――


 そして。


 ――城を強大な魔力が覆った。






 目を開ける。

 

「一体……何が……」


 クリスティアーネが言う。

 しかし見上げると、空は一変していた。


「は……?」


 呆然とするクリスティアーネ。

 

 歴戦の猛者たるクリスティアーネが絶句するほどの光景。

 それはそうだ。


 


 俺は知っていた。

 いや、この魔法をこんな魔法を、使えるのは1人しか知らない。


 でもそれは、原作開始後のはずが――


 辺りの環境を変化させるほどの高等魔法。

 思い当たる名前をぽつりとつぶやく。


「……第8位階、『フォール・オブ・エデン/楽園堕とし』」


 作中でこの魔法を使用した魔法使いは一人しかいない。



 アルカナの【女教皇】――エルド・フォン・フォーエンハイム。

 帝国最強を謳われる死霊魔法使い、である。


 辺りに漂う不気味な魔力。

 俺は思った。


 うん。

 

「なんで????????????????」





――――――――――――――――


何となくググったら、【女教皇】の意味は聡明・知性らしい。

……よし合ってるな





★クズレス★


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