第42話 女教皇
なぜこの世界は、こうも問題が頻発するのか???
俺は前世で何か罪を犯してしまったのでしょうか????
パーティー会場で捕まるという前代未聞の事態になった俺は、城の一室で軟禁されていた。
時刻は翌日。もはや夕暮れである。
部屋の中には、クリスティアーネと俺。
外にも何人かの騎士がいて、部屋は完全に防備されている。
「では、当日の流れを」
「……はい。会場に連れられたら――」
かくかくしかじか。
適当に作り話を話す。
休憩を挟んで、かれこれもう4,5回は同じ話をしている。
……よかった。こんなこともあろうかと、リエラと散々一問一答を繰り返した甲斐があり、ついにはクリスティアーネも納得したようだった。
クリスティアーネが眉をひそめ、1人ごとのようにつぶやく。
「たしかに……発言に矛盾は感じられませんね。むしろ、なんとか助かった、という印象さえ受けます。たしかに。冷静に考えればランドール公爵家のご子息ともあろう者が、まさかジェネシスの手先になるとは考えづらい」
そうそう、そうなんですよ。
納得してもらえたようで良かった。
辺りはもうすっかり日が落ちている。
「はい。すみません。どうやら信ぴょう性のない噂だったようです。我々としても一時的に拘束する必要があり……申し訳ございません」
と、頭を下げるクリスティアーネ。
問題ない。どこから湧いて出た噂かわからないけど、どうやら疑いは晴れたようで――
そこまで言って、クリスティアーネが真っ直ぐに告げてきた。
「ですので、後は王都に来ていただき、証明をしていただければ、と思います」
「証明……?」
少し嫌な予感がしつつ、聞き返す。
「ええ。王都にある、魔道具――『真実の瞳』による証明です」
「えっ」
――『真実の瞳』。
その言葉を聞いた瞬間、俺は固まった。
なぜならそのアーティファクトはある意味クズトスにとってトラウマだからである。
◆
アーティファクト、『真実の瞳』。それは王国の中央騎士団が所持する最上位のアーティファクトである。
その効果は、対象者が100%真実を告げてしまうこと。
つまり、超高性能な嘘発見器のようなものである。
作中でいくらマヌケなクズトスとて、さすがに自分の悪事を自分で暴露するわけがない。
そんなときに効果を発揮するのがこの『真実の瞳』だ。
哀れなクズトスは、自分の地位に絶対の信頼を置いていたが、この魔道具で自白してしまう。
むしろ、クズトスを失脚させるために作られたんじゃない?レベルのありがたいアーティファクトなのだ。
……冷や汗が俺の背中を伝った。
冷静に状況を整理してみよう。
向かい側にいるクリスティアーネの様子を見る。疑っている感じはしないし、彼女は俺のことを真面目にサポートするつもりで、『真実の瞳』を使わせてくれるというのだろう。
が、俺はジェネシスである。
この前割と暴れてしまったジェネシスは俺である。
つまり、このまま王都にノコノコ行くとバレる。正体が。
「……? どうされたのですか?」
俺の異変を察知したのか、クリスティアーネが眉をひそめる。
が、それを気にならないほどに俺は焦っていた。
選択肢その1:王都に行ってアーティファクトを受ける
→ジェネシスだとバレて死亡
選択肢その2:王都に行かずアーティファクトの検査を受けない
→疑いは晴れず怪しいまま。というか、むしろもっと怪しい
待て待て待て……もしかして、結構詰んでないか???
これ。
「い、いえ……そのジェネシスというのは、それほど危ない輩なのでしょうか?」
俺は願っていた。
ジェネシスなんというのは、ちょっとした愉快犯で、きっと王国はそんなに気にしてないはず――
「ええ。第1級の危険人物です。単に王国に危害を与えるのみならず近くの村では、ジェネシスを祭って英雄視する動きまであるとか。民の離反工作まで仕掛けている……心底、恐ろしい人物です」
「……へ、へぇ」
離 反 工 作 !?!?
クリスティアーネの方を見るが、彼女の眼は
ヤバい。ジェネシスなんて、適当な格好であの場限りのノリだったのに、とんでもない事態に発展しつつある。
しかも、あのマヌケ(エンリケ)のせいで始まった祭りは、なんと王国から民を離反させるために工作だったらしい。
初耳だ。
俺はこんなにも原作のフォローしているはずなのに、なぜ王国から蛇蝎のごとく嫌われているのだろうか???
「……っ!!」
というか、さらに恐ろしいことに気がついてしまった。そもそも俺はジーク君の前で捕まっているのだ。
ジーク君だってもちろん、こっちを疑うだろう。
そして、どう考えても普通の人間なら王都に行くべきなのに行かない??
……あ、怪しすぎる……あまりにも。
ジーク君の好感度を上げ、修行に専念させるだけの楽な作戦、『ジャッジメント計画』。
ところが、こっちが今まさに『ジャッジ』されつつある。
「顔色が優れないようですが……体調が悪いなら無理せずとも。休憩をお取りしましょうか?」
「い、い、いえ。ちょっと確認しても良いですか?」
「……え、ええ」
困惑気味に答えるクリスティアーネ。
「僕が疑われているって話ですが、いつごろからある話なのでしょうか?」
震える声で聞き返す。とりあえず情報を集めるしかない。
というか、あまりにも急すぎるだろその噂。
「……そうですね」
難しそうな顔のクリスティアーネ。
少し考えた後に、彼女が言った。
「正直、私も最近耳にした話です。なので詳しくは、このエラステアにきてから、でしょうか。噂が立ち、しかもそれがジェネシス関係だということで、お話を聞くに至った次第です」
エラステアに来てから。
つまり、帝国との会議が始まってから。
……怪しくないか???
「さらにお伺いしますが……今日の会議ってどうなってます?」
「今日の会議なら――申し訳ないですが、この件でそこまで進んでいないようです」
そして、進まない会議。
レインだって「きな臭い」と言っていた。あまりにも王国側に甘すぎる、とも。
そう。
冷静に考えると、この会議自体、おかしくないか???
原作の時間軸ではあり得ない、帝国から持ちかけられた会議。
そして本来エラステアに出るはずのないアンデット。
さらに関係ないや、とスルーしてしまったローブの人物。
心臓が早鐘を打つ。
ものすごい勘違いをしているような感覚。
なにか、ボタンを掛け違えているかのような感覚。
原作では無かった会議だったけど呼び出されて、ラッキー?
いや、むしろこれって、ジェネシスに関係しているのでは???
ジェネシスで暴れたのが何かしらのトリガーになっている……??
まずいまずいまずい。
なんだかものすごいまずい気がしてきた。
「す、すみません。ジーク君!! もしくはレインさんと連絡をさせてください!!!!」
「なっ!! 落ち着いてください」
困った様子のクリスティアーネが制止してくる。
ただ、まずい。
俺の想像、予感が正しければ。
足の引っ張り合いが大好き。みんなどいつもこいつも自分の利益しか考えていないのが、『ラスアカ』クオリティ。
絶対ろくなことには――
その時。
城が震えた。
「……なっ!!」
誰も動けない。
こちらの腕をつかんだクリスティアーネですら。
そして、魔力が集まってくるのを感じる。
中心点は、今俺がいる城そのもの。
まずいまずい、まずい。
俺は知っていた。
強大な魔法であればあるほどに、余波が大きい。
こんな地響きが鳴るほどの魔法なんて――
そして。
――城を強大な魔力が覆った。
◆
目を開ける。
「一体……何が……」
クリスティアーネが言う。
しかし見上げると、空は一変していた。
「は……?」
呆然とするクリスティアーネ。
歴戦の猛者たるクリスティアーネが絶句するほどの光景。
それはそうだ。
空にあるはずの月が真っ赤に染まっていた。
俺は知っていた。
いや、この魔法をこんな魔法を、使えるのは1人しか知らない。
でもそれは、原作開始後のはずが――
辺りの環境を変化させるほどの高等魔法。
思い当たる名前をぽつりとつぶやく。
「……第8位階、『フォール・オブ・エデン/楽園堕とし』」
作中でこの魔法を使用した魔法使いは一人しかいない。
アルカナの【女教皇】――エルド・フォン・フォーエンハイム。
帝国最強を謳われる死霊魔法使い、である。
辺りに漂う不気味な魔力。
俺は思った。
うん。
「なんで????????????????」
――――――――――――――――
何となくググったら、【女教皇】の意味は聡明・知性らしい。
……よし合ってるな
★クズレス★
1巻発売中!
今買うともれなく作者が喜びます!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます