第40話 クズレス・オブリージュ完!!!


 何やかんや問題はあったが、パーティーもついに終わり、


「さて、帰ろうか」


 と言ったものの、俺は心配になっていた。


「……どうしたの?」

「いや、ちょっと会いたくない人を見かけてね……」


 苦い顔する。

 そう、俺はパーティ中に、とある女性を見かけていた。

 

 騎士の制服を着た、聡明そうな藍色の髪の美女。

 その表情は厳しく、まじめの一言に尽きる。


 ……まさか彼女も来ているとは。

 クズトス的にはあまり会いたくなかった相手だ。


 彼女の名は、『クリスティアーネ』。王国中央騎士団所属の副団長である。


 例えるなら、異常に勘の鋭い美女。

 強さはもちろん、頭が切れるという真面目なタイプの美女だ。


 そして何より、そんな彼女もクズトスの没落には一役買ってくれる。

 

 真面目で頭の良い美女と、不真面目で頭の悪いクズトスの相性はそれこそ死ぬほど悪かった。彼女はその地位を行かして、クズトスの悪行を集め、その結果ジーク君によってクズトスは没落させられるのである。


「だ、大丈夫??? 顔真っ青だけど……やっぱ体調悪いんじゃ――」

「も、もちろん」


 手が震える。

 

 ……いやでも、待て。

 自分に言い聞かせる。

 

 よく考えてみよう。

 たしかに公正で頭の良い彼女は、クズトスを死ぬほど嫌っていたし、クズトスを引きずり下ろすときには協力してくれた。


 が、しかし。

 ジーク君に呼びかける。


「ジーク君、俺のこと嫌いじゃないよね?????」

「え、いや、嫌いじゃないけど……」


 よし。


「確認だけど、別に没落させたいとも思ってないよね???」

「そうだけど……というか、ボクどんな人間だと思われてるの……」

「そうだよね、うんうん。友達だもんね、僕ら」


 ジーク君の好感度を確認し、落ち着く。

 後ろで、ジーク君が「……え、今更……」とものすごい渋い表情をしていたが、一旦放っておく。


 そう。

 もはや原作とは違い、俺とジーク君の関係は悪くない。クズトスが悪いことをしていなければ、そもそも絡まれる理由もないじゃ無いか。


 というか、そもそも俺には原作のシナリオが味方しているのである。


 この世界が『ラスアカ』の世界であれば、原作通りに進むはず。

 この前のリヨンでは散々苦労したが、今回ばかりは原作と関係ないから100%安心できる。


 考えてみれば、アルカナ持ちの敵【女教皇】が王都に襲来して暴れ回るのも原作始まってからだし、クズトスがクリスティアーネに嫌われるのだって、ジーク君が学園に入学してから、原作が始まってから、なのである。


 この世界のあらゆる問題は原作後に始まると言っても過言ではない。


 つまり、ジーク君にやる気さえ出してもらえれば、もはやシナリオ的に俺が介入することなど何もないのである。


 会議も明日で終わるみたいだし。


 今度こそ、稀代のクズ悪役『クズトス』の物語はこの辺で終わらせて、これからは、地位はあるが人畜無害なモブ青年貴族・ウルトス=ランドールとしてひっそり生きていこう。


「まあ、じゃあ帰ろっか」


 明るくジーク君を誘う。

 ジーク君に友達だとジャッジしてもらえたのだから、『ジャッジメント計画』もこれにて終了。


 ついに、クズレス・オブリージュ完!


 あばよ、ジーク君。

 彼には数年後に始まる原作で、楽しく頑張ってもらおうじゃないか。


 可愛い女の子を侍らすジーク君を、横目に俺はモブライフを満喫する。

 素晴らしい光景だ。


 面倒ごとはすべてジーク君が背負ってくれる。


 学園で再開したときには、数年前に仲良くなった昔の知り合い枠として、少しばかり甘い汁を吸えたら嬉しいなー

 なんて思っちゃったり――

  







「――動かないでいただきたい」


 緊迫した雰囲気。


 が、しかし。

 そんな俺の夢物語は外に出た瞬間、潰れてしまった。


 なぜなら、俺の周りを武装した騎士が囲んでいたらからである。


 冷や汗がとまらない。

 ……明らかに、「楽しくお話でもしませんか?」という雰囲気ではない。


 周囲をうかがう。

 四方を見るが、逃げ道はない。完全に包囲されていた。


「何を!! ウルトスを放してッ!!」


 ジーク君は暴れすぎて騎士に拘束されている。


 ちらりと近くの騎士の印章を見る。

 

 ……最悪だ。

 レインを始めとするリヨンの騎士団ではない。


 俺はその印章に見覚えがあった。

 屈強な獅子。すなわち、


 そして、騎士の集団をかき分け、とある女性が前に出てきた。


「ランドール公爵家のご子息、ウルトス殿ですね。申し訳ないのですが」


 目の前には、先ほど話した女性・クリスティアーネ。


「先頃リヨンで起こったジェネシスの事件。その容疑者として、貴方を拘束させていただきます」

「……一体、どういうことですか?」


 おかしい。

 ここまでの急展開。聞いてない。


 そして混乱の中、クリスティアーネが決定的な一言を口にした。


「疑いがかかっているのですよ。ウルトス殿。つまり貴方が、ジェネシスの仲間では無いか、と」


 彼女の冷静な目が俺を貫き、


「そん……な」


 ―――絶望したようなジーク君の声が、辺りに響き渡った。








 そして想像を絶する空気の中で、とりあえず俺は思った。


 金輪際、二度と、一生、『パーティー』と名が付く行事には参加しないでおこう、と。



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