第39話 話題が暗い。顔も暗い。


 悲報。原作主人公が全然乗ってこない。


「でも、ウルトスはすごいよね」

  

 さらに、思いのほか全然乗ってこないジーク君に混乱していると、不意にジーク君がゆっくりと語り始めた。


「さっきみたいな修行の話もそうだしさ。本当に……ウルトスはボクなんかよりも、ずっと頑張っててすごいなって」

「いや、そうでもないよ???」

 

 と、返事。本当にそうでもない。

 どう考えても、ジーク君の方が努力努力のヤバい主人公なのだが……。

 

「ボクさ。実は、最初にウルトスのことを馬鹿にしてたんだ」


 とまらないジーク君。

 ジーク君がうつむくと、その眼には涙が光っていた。


「そもそも、魔力が無いとか色々あって……強ければ良いってがむしゃらに思ってたんだけど、ウルトスが頑張っている姿を見たら自分なんか大したことないなって」

「え、いやちょっと」

「全然ダメだね……ボクは。ウルトスからはいつももらってばっかりで正直、この指輪に値するような人間じゃないし」


 まずい、この流れはまずい。

 こんなん全然クズレスできていない。


 暗い暗い暗い。話題が暗い。顔も暗い。


「どうせ、昔憧れていた英雄になんてなれ――」


 いやあああああああああああああああ。




 そして。

 その流れを断ち切るように、パチンと軽い音が鳴った。


「……いったぁ!」


 あ、ヤバ。

 ついジーク君の弱気な発言にデコピンが……。





「な、何するのさ!」


 涙目のジーク君が額を抑え、こちらを見てくる。

 

「…………」


 落ち着け落ち着け。 

 未来の原作主人公にデコピンをしてしまった。 


 今のところ何の罪にもならないし、立場的にはランドール家の子息であるこっちが上だが、ほんの数年後にはジーク君と立場は逆転。

 つまり、確実に歯向かってはならない。


 が、しかし、言わせてもらおう。

 「何をするのさ!」はこっちのセリフだ。


 そもそも、原作主人公が何をそんな弱気なことを言っているのか。

 というか、今はまだ『ラスアカ』世界は平和だが、原作開始くらいから加速度的に治安が悪化し始めて、才能ある化け物(悪役、ヒロインを含む)がいっぱい出てくるのである。


 そんな連中をたたきのめし、世界を救うのはジーク君だ。 


「ダメだよ、ジーク君」

「え……?」

「そうやってくよくよするのは良くない。そもそも、ジーク君のほうがずっとすごいしね」


 真剣な表情で告げる。

 いや、本当にそうだ。


 頼むから世界……と、俺のモブ生活を守ってほしい。


「そんなっ!」


 ジーク君が理解ができないという表情をするが、そのまま続ける。

 というか。


「俺にとっての英雄はジーク君1人だから」


 そう。

 俺の目には焼き付いている。

 

 熱い展開とか、英雄らしく女の子にモテてている姿とか。威張り腐ったクズトスをボコボコにする姿とか。

 ……最後はいいや。


「……友達として、そう思うんだ」


 そして極めつけに、ちょっぴり友達面。

 あわよくば将来偉くなっても、俺を忘れずに贔屓してほしい。まあ、昔の「友達枠」くらいでもいいしさ。


「なにそれ、全然信じられないけど……」


 そこまで言うと、ジーク君の声に力が戻ってきた。

 あきれたような笑顔。


 とはいえ、まだ信じ切ってくれていないみたいなので、ダメ押しをする。


「じゃあ、こうしようよ。その指輪にまだ値しないって言うならさ。

「次はボクが助ける……?」


 思いつき100%の言葉だったが、ジーク君が復唱してくる。

 まあ、その指輪もぶっちゃけ今考えると高いけど、最終的に金が唸るほど入ってくるとゴミ扱いされる悲しきアイテムなのである。

 ……どうせ1回使いっきりだしな。


 我ながら、小ずるいと思いながらも言葉を続ける。

 

「そうそう。今度もし僕が助けを求めたときに、次はジーク君がカッコよく助けに来てくれればいいよ。それこそ、英雄らしくさ」

「……なにそれ」


 これえきれずに、くすっとジーク君が笑う。


「そっか……でも、それもいいかもね」



 

 こうして、俺は良い感じにジーク君と和解した。いいハナシダナー。

 ……若干ジーク君の額がまだ赤いのは気にしないでおこう。あれは不可抗力なのである。


「ちなみに、修行は興味出てきたりする?」

「……なんでそんなこと勧めてくるの?」 


 なるほど、まだ修行方法はクリーンヒットしていないみたいだ。

 まあいいだろう。


「さてね、お腹すいたから、食事取ってくるよ」


 わざとらしく誤魔化し、踵を返す。


 作戦は成功だ。

 とりあえずここで種をまいておけば必要になったとき、すぐさま修行に移れるだろう。

 意外と後でやりたくなったりするかもしれないし。




◆ 




 そうして会も終わりに近づいた頃、ホールの中央から、とあるざわめきが聞こえてきた。


 目を向けると、中央では2人の人物がいた。

 いかにも偉そうに威張り散らす高齢の男性。


 そして、もうひとりはわかりにくいが、フードを被った人物だった。


「誰あれ」

「ああ、あのおじいさんの方が帝国の有名な魔法使いだって。第5位階の魔法使い」

「ふうん」

 

 とりあえず、じろっと眺めてみる。

 第五位階。


 すごい。世間的には中々だ。

 ただ、悲しいかな。『ラスアカ』世界で生き残るにはちと研鑽が足りなさそうである。


「別名『漆黒の魔法使い』だって。お父さんが言ってた」

「知らないかな」

  

 割と中二病くさい異名だったが、『ラスアカ』では見たことがなかったので本当に知らない。

 モブのくせに中々派手なじいさんである。頑張っている。


「あのおじいさんが色々会議でも王国側に嫌な態度を取ってきて、面倒なんだってさ。でも有名な人らしくて対応に困っているんだって」

「へえー随分おっかないね」


 威張り散らすおじいさん――通称『漆黒』のじいさんは、王国側の貴族の誘いを「下らん」と一蹴し、出口へと向かっていった。

 辺りは一瞬ぴりついたが、おじいさんが出て行くとそのまま元の騒々しいパーティーに戻っていた。

 

「……ウルトス? どうしたの、ずっと見つめて」


 扉から勢いよく出て行ったおじいさんをずっと見つめる俺に、ジーク君が不思議そうな顔を浮かべる。


「……ジーク君さ。もう1人の人は?」

「ああ。ローブの人? よくわからないけど、ずっとそばにいて雑用を命じられているらしいよ。でも、お父さんが言うには魔力も感じないから別に一般人だろうって」

「そう」

「……?」

「いや、気のせいかな」

 

 自分で言うのもなんだが、俺は魔力への感度が優れている。

 原作では「魔力の感度」なんてものは特に言及が無かったのだが、ゲームのパラメータには無かっただけでこの世界ではそういう分野もあるらしい。


 エンリケが「俺よりも優れているな」と褒めていたし。

 ……あまり褒められた気がしないのは、エンリケに言われたからだろう。


 なんかアレだ。

 テストの点がものすごい悪いやつに、「お前頭良いな!」と褒められたかのようなあんまり嬉しくない、みたいな。




 そして、そんな俺は非常に微妙な違いを感じていた。

 魔力が無いジーク君と、ここ数日間ずっと接していたからかもしれない。


 たしかに、ジーク君には魔力が無い。

 しかし、さっきの人物は魔力を感じられないというか。


 どっちかというと――




 

 

――――――――――――――――――――



カクヨムコン9も真っ最中ですね。

この前久しぶりにランキングを見たら「クズ貴族がモブになる」みたいな作品を見かけて嬉しくなりました。

たぶんクズレスファンだと思います(違う)




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ちなみによく書籍化した人は「Twitterの宣伝が大事。書道が大事」って言っているんですけど、自分は12月に1回宣伝したのを最後にずっとサボっています。


幼少の頃からの宿題サボったやつは大人になっても変わらないんだなァって……(しみじみ)

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