第33話 英雄の正体


 俺はジーク君と一緒に街へと出ていた。


 結局、あの状況で俺はツッコむことはできなかった。

 あのテンションのジーク君にツッコむには勇気が足りなかった、というべきか。


 ……うん。

 きっと主人公だったらズバッと言えたかもしれないが、モブの俺ではどうこうできないレベルである。


 横目で、ちらりと白髪の美少女――の振りをしているジーク君を盗み見る。

 見た目だけは超一流だ。


「……大丈夫かな……この格好」

「大丈夫だよ、よく似合っているかな、たぶん……はは」


 ダメだ、どうしてもジーク君に真実を告げられそうにない。

 仕方ないので、話題探しのために、それとなく探りを入れることにした。


「ちなみになんだけど、それってさ。誰に言われてその格好にしてるのかな……?」


 ジーク君の機嫌を損ねないよう、恐る恐る尋ねる。


「う~ん、実はね。実は、お父さんがこういう服装にしなさいって」

「お父さん? あのレインさんが??」

「……うん」


 落ち着かなさそうに、髪の毛を触ったりしているジーク君。

 彼には悪いが、俺はパニック状態だった。


 お父さん。

 つまり、この格好は、あの原作にも出てきていた主人公の父・レインの命によるものらしい。

 ……正気か、あの人???


「……お、お父さんはその格好なんて言っていたの?」


 勇気を絞り出しながら聞いてみる。


「お父さんは、ボクがこういう格好をする方が好きみたいで……実は今までも何度かスカートをはいてみたら?とは言われていて……」

「…………」

 

 顔をゆがめる。

 重症である。


 もはや、驚愕の事実に俺は泣きそうになっていた。

 主犯はまさかのレイン。


 しかも、前からジーク君が女装をするのが好きだという。

 ……やばい、どうしょう。


 最初の頃は、原作主人公とその父親と「コネができて、ラッキー★」とか思っていたが、もはやそういうレベルではない。

『ラスアカ』でもトップクラスにまともな人物、との評価されていた男の真の姿。


 英雄の正体は、自分の息子にスカートをはかせて喜んでいる、というだいぶアレな人物だったのである。

 ……全然知りたくなかった。

 

「大丈夫? 手、震えてるけども……」

「う、うん。ちょっと怖くなってきただけだから」

「……?」


 そして、ほっとしたようなジーク君が追い打ちをかけてきた。


「でもよかった。お父さんの言っていた通りだった……実はお父さんが、『ウルトス君もこの格好をしたら喜ぶよ』って言ってて」

「俺が???? 喜ぶ????」


 さらに衝撃の事実。

 俺はどうやら知らぬ間に、レインから同好の人間だと思われていたらしい。


 ……ここに来てやっとわかった。

 レインが俺に何かと優しい理由が。


『お義父さん』と呼んでくれ、みたいな謎の発言も、きっとそういう同好会に来ないか? という勧誘だったのだろう。

 

 いやもちろん、人の趣味をあれこれ言うべきではない。

 たしか、日本神話でも女装の話があったし、女装というのは歴史ある文化なのかもしれない。

 しかし。


「ちょっと今後は、レインさんとの交流を控えようかな……」

「ええっ!?」


 な、なんで? と眼を白黒させるジーク君にぽつりとつぶやく。

 いや、ジーク君には悪いけど、だいぶ君のお父さんアレだよ????










「歩くの早い?」

「ごめん。ちょっと慣れてなくて……」


 どうやらジーク君は女装のせいでいつもより歩きづらいようである。

 雑踏の中、ジーク君にペースを合わせながら、エラステアのメインストリートを歩く。


 ただ、ジーク君と横並びで歩きながら俺は思いなおしていた。

 

 案外、見方を変えればこれもいいのかもしれない、と。

 まあ、そもそも、一週間程前までは、しゃべる度にシカトされたり、舌打ちをされていたのである。


 それに比べたら、だいぶ進歩しただろう。


 レインにしろジーク君にしろ、好意を持ってくれているのはたしかだ。

 ……まあ言いたいことは色々あるが。


 しかし、どこに行こうか。

 街をぶらつきながら考える。

 

 服を買うとかは、余計に話がややこしくなりそうなのでNG。

 かといって、街の外れまで行くのは良くないだろう。


 そんな感じで悩んでいると、ふとジーク君が口を開いた。


「そういえば、さ。このネックレス……返した方がいい? 一応ずっと持ち歩いているんだけど」

「あ~~」


 ジーク君がどこからかネックレスを取り出した。


 そして言われて思い出した。

 リッチと遭遇したときに渡したネックレスか。


 ……しばし悩む。

 たしかに、あのネックレスは控えめに言っても良い性能をしている。


『カルラ先生の特製・呪いのネックレス』とプレイヤーに噂されたそのネックレスは、毒や混乱状態に対する耐性の付与に加え、あらゆる耐性を付与するという能力を持つ。

 もちろん、耐性を付与するだけで無効化などではないが、それでも世間的には十分レアだろう。


 そもそも強大な魔法詠唱者が、弟子に対し、免許皆伝の際にくれるものはいいものが多い。

 まあ、こっちはお情けでもらえた側だったけど。


「もちろん、すぐに返すけど――」

「いや」


 そして、悩んだ末、俺は


「あげるよ」

 

 とジーク君に行った。


「本当にいいの? たぶんこれって魔力要らなかったから自律式だよね。かなり高価そうだけど……」


 この世界の魔道具には、2種類ある。

 自律型と魔力の供給が必要なタイプの2種類が。


 自律型とは、魔力を必要とせずに効果の付与をしてくれるものである。大多数の魔道具は、魔力を消費して効果を発揮する、というものだが、自律型が魔力を消費することがない。

 つまり、魔力がないがない人間でも扱えるということもあって、基本的に価値が高いとされている。


「いいよ。ジーク君が持っていた方がいいと思う」


 未だに信じられなさそうな顔をしているジーク君に言う。


 まあ実際、ジーク君が持っていた方がいいだろう。

 ジーク君はこれから前線に行って、バンバン戦ってもらわなくちゃ困る。


 ……カルラ先生は…うんまあ、別にお情けでもらったものだし、俺が他人にあげても先生もそこまで困らないだろう。

 むしろ、将来的にジーク君に渡す前に、渡す手間が省けるというものである。

 

 これぞ。


「一石二鳥ってやつだね」

「? まあでも……ありがと」


 大事そうにジーク君がネックレスをしまい込む。

 その様子を見ながら思い出した。


 そう言えば、ジーク君はたしか魔道具が好き。

 魔力がないジーク君は、故郷の村でも魔道具の図鑑で色々調べているほどの魔道具好きである。


 暇を潰せる場所が、1つ思い当たった。


「ジーク君さ。魔道具の店行ってみる?」




――――――――――――――――――――


せっかく命を懸けてくれているのに、変態扱いされているレインさん……

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