第28話 言い訳
「では、ウルトス殿。貴殿が逃げ回っていたところで、気が付いたらすべてのアンデットが倒れていた、と」
「え、えぇ……もう無我夢中で何も覚えていないのですが……」
「そうですか。他に、怪しい人物を見かけたりは?」
「たしか人影……らしきものを見たような記憶があります」
「……人影?? ……そうですか。なるほど、ご協力ありがとうございます」
難しい顔をした騎士が、聞き取り調査をして去っていく。
扉が閉まった。
「ふぅ」
これにて、ジャッジメント計画――完。
俺は、より豪華になった部屋で一息ついた。
窓からはエラステアの聖堂が見える。
あの事件――つまり、俺がリッチと遭遇した事件から2日ほどたった。
あれから俺は治療を受け、ベッドで寝かされっぱなしという状況になっていた。
もちろん目立った外傷はなかったのだが、前に泊まっていたホテルから警備上の理由でお城の方に移されてしまった。
しかも、外に出るときは必ず護衛付きという不自由っぷり。
まあ、すでに目標を達成したからいいのだけど。
ベッドで首を回してみる。
「割と調子はいいかな」
そんなペナルティもあったが、2日にわたって惰眠を貪ったおかげで非常に調子はいい。
ジーク君の好感度も上がっただろうし、もはや気分爽快。
エラステアに来る途中の胃痛・頭痛も完全に消え去っている。
体調は未だかつてないくらい完璧である。
そして、今のところジーク君やレインは顔を見せに来ていない。
が、俺はあの事件のことを聞かれる度に、
「逃げ回っていて気が付いたらアンデットが倒されていた」
という言い訳を繰り返していた。
色々上手い言い訳を作ろうと思ったが、下手に言い訳をするより、知らぬ存ぜぬで通そうという魂胆である。
だからこそ、俺はこう言いふらすことにした。
――何者が勝手にアンデットを倒して、消えた。
これだ。
正直言って、まず誰だよそいつ、となるのだが、やはりここは『ラスアカ』の世界。
考えてみれば、創作物だと、過去に村を謎の人物に襲われた、とか謎のモンスターに襲われて~とかは割とよくあるパターンである。
俺に話を聞きに来た人間は、みんな一様に「誰だそいつは……?」みたいな顔をして帰っていったが、まあこれも世界の平和のため、きっと許してくれるだろう。
そんなことを考えていると――
「ウルトス様! 大丈夫ですか?」
扉に目を向けると金髪の美しいメイドがいた。
「お、リエラ」
手を上げる。
リエラも同じように城の方に移ってきていたらしい。さすがに突如として謎の魔物に襲われた悲しき坊っちゃんこと、俺と同じ部屋ではないが、かいがいしく部屋に世話をしに来てくれている。
「また聞かれてらしたんですか? リッチの件」
ちなみにリエラは「俺がアンデットに襲われた」と聞いた瞬間、問題ないと即座に判断したらしい。
「でも、よく俺がなんともないってわかってたよね」
「ええ。なんといってもウルトス様は、『ジェネシック・レコード』ですべての可能性を予知していますから。『死者の饗宴』……すなわちリッチの登場もすでに予期されていたのです!」
なぜか眼を閉じドヤ顔で、うんうん頷くリエラ。
「ま、まあね……」
そんなこと言ってたなあ……。
……ありがたいんだけど、信頼が痛いよリエラ。
全部適当なのに。
「でも、『死者の饗宴』というからには、もっと大規模なものを想像していましたが……それこそ街中にアンデットとか――」
「リエラ。やめようストップ」
「???」
そして、怖い。
リエラのワクワクした表情と反比例するように、俺の顔は強張っていた。
……街中にアンデット??
リッチは何とかピンチをチャンスにできたが、そんなのが起こってしまったら、それこそ原作崩壊待ったなしの状況だ。
「リエラ。あまり不確定な未来を語ってはいけない。未来とは己の手で切り開くものだからね」
「……っ! たしかにそうですね、失礼しました」
名言っぽい感じで、余計なフラグを立てないようにリエラに頼む。
まあ、ジェネシック・レコードとか言って未来をペラペラ語っていた人間が言うのもあれだが……。
反省した。
今後は調子に乗ってあまり適当なことを言わないようにしよう。
◆
そして、少し経ちリエラも買い物に行ってしまった。
再び1人部屋に残された俺が疑問に思っていたのは、あのリッチのことだった。
なんでこの場所にリッチがいたのだろうか?
自然発生……という線もなくはない。
たしかにアンデッドは自然発生する。
が、あの状況。
あそこは人気がなかったものの、別に墓地や墓所というわけでもない。
そもそも街中でアンデッドが発生する?
いや、この場合、自然発生というよりはむしろ――
その時。
扉を控えめに叩くような音が聞こえた。
「どうぞー」
中に入ってきたのは、レインとジーク君。
お、やっと来てくれた。
随分と待ちわびてたよ。
「ウルトス……その……大丈夫……?」
ジーク君が顔を伏せながら訊ねてくる。
……あれなんかテンション低くない??
「いやいや、いい感じ。魔法のお陰ですっかり完治だよ」
ジーク君のテンションの低さに疑問を持ちつつ、ぐるぐると肩を回し、調子いいですよアピール。
本当に調子よかったので明るく告げる。
「いやー、あれがリッチかあ。初めてのアンデットって怖かったな~。足ガタガタだよ」
せっかく仲よくなれたんだし、イケイケで再会を喜ぶ。
「まあ僕はあまり役に立たなかったけど……ははっ」
しれっと自虐ネタ。
こういう情けない部分も見せておくのがモブポイントである。
もはやあんな雑魚リッチなど、笑い話。
そして俺の想定だと、2人ともアンデッドにビビる俺を笑ってくれるはずだった。
レインが、
『ハッハッハ。なんだウルトス君。あんなアンデットごときに、やられるとは鍛え方が足りないぞ』と笑い、
ジーク君も、
『まったく……ウルトスったら、もう仕方ない親友だなぁ』
という完璧なコミュニケーションが達成される。
そう。
笑いに包まれる部屋になる予定。
……のはずなのだが。
「………………」
「………………」
俺の言葉を聞き、なぜか手で顔を覆うレインと、涙目でこちらを睨みつけてくるジーク君。
静寂が部屋を包む。
「………………」
「………………」
……えっ。
なに、このお通夜みたいな雰囲気。
――――――――――――――――――――
問1:「この時のウルトスの様子を見たレインとジーク君の心情をこたえなさい」
問2:「この地獄の空気を作り出した張本人は誰だと思いますか? 思い当たる人物の名を1人あげましょう」
プロットがないから今後の展開を考えると恐怖を感じています。
こんな訳の分からない構成の作品にしたのは誰なんだよ……(困惑)
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