第27話 友情フルコンボだドン!!
「魔人……!?」
消えゆくリッチの言葉。
その言葉を聞いた瞬間、俺は一瞬で今まで警戒態勢に入っていた。
魔力をそのままに、油断せずに辺りを見渡す。
「…………」
10秒、20秒、30秒。
「………………」
特段動きはない。
もう一度辺りを油断なく見回して、やっと警戒を解く。
――魔人。
それは『ラスアカ』の中でも最強格の種族である。
人間の及ばぬ魔力。そして、自分勝手に振る舞う尊大な性格。
自身の欲望を優先する種族ゆえに、敵組織として暗躍する魔人も多く、最も危険な種族である。
モブとして生きていくうえで関わり合いたくない種族ナンバーワンである。
だからこそ、リッチがその名を口にしたとき、俺は一気に警戒レベルを引き上げたのだが……。
「いない……か」
特に魔人が出てくる気配も無し。
なぜ、あの場で「魔人」という単語が出てきたのかさっぱりである。
「実はあのリッチが魔人の配下だったとか……? いやでもそれにしては弱すぎるか……?」
あのリッチ。リッチのくせにだいぶ弱かった。
たぶんFランクくらいだろう。
ということは、だ。
脳内で冷静に計算。
おそらく 、この世界の序列は、
最上位クラス(原作でも活躍していた人たち。レイン、カルラ先生などなど)>>>>>>>(越えられない壁)>>>>>>>>>>俺、エンリケ(DかEランク)>>>リッチ(Fランク)>>>ジーク君(今のところ魔力無し一般人)
という感じだろう。
いやでも、今回は奇跡的に弱いリッチに救われた。
ジーク君のことを「女子」呼ばわりしていたし、わりと低レベルな節穴リッチに違いない。
「でも、良い感じだな」
そんなリッチ戦の感想はさておき。
辺りを見渡す。
スケルトンやらアンデッドの残骸。
シンプルだった広場は、ものの見事に激戦の後へと変貌していた。
そして自分の外見もチェック。
服は、激戦でぼろぼろ。元の高そうな服の雰囲気も感じられない。
どう見たって、突如アンデットに襲撃され、友を逃がした少年Aの完成である。
「よし」
とはいえ、まだ、だ。
俺はこんなところで追撃の手を止めるつもりなど毛頭無かった。
そう、ジーク君と過ごしていて気がついた。
彼は死ぬほど頑固だ。めちゃくちゃ頑固。
というかそもそも、考えてレ見れば主人公というのは頑固なもの。
そんな主人公と仲良くなりたいのであれば、最後まで油断せず、徹底的に友情コンボを決める必要がある。
――フィナーレである。
◆
「よし、いくか」
大通りまで、てくてく歩いていく。
やっとのことで、大通りへと出た。
……そもそも無駄に大きいんだよな、エラステアって。
が、
「……おい、君大丈夫か!? 一体何が!?」
ボロボロな俺を見て、ざわつく人々。
当然だろう。そもそも都市自体がきれいなのも相まって、今の俺はあまりにも浮いている格好である。
が、構わずに俺はホテルの方。
つまり、ジーク君がいる方面へと歩いて行く。
そして。
街の人が遠巻きに見つめる中で歩き続ける。
少し時間が経ち、群衆の中から声が聞こえた。
「すまない!! どいてくれ!! その子を保護する!!!」
群衆をかき分けてくる男には見覚えがあった。
……やっぱり来てくれたか、レイン。
「ウルトス!!」
そして、すぐ後ろにジーク君も続く。
「よ、よかった……ぼ、僕のせいで……」
こちらを見て、ほっと一息つくジーク君。
おお、いつになくジーク君が攻撃的じゃない。
ほぼ涙目にも見える。
俺の決死の覚悟は、ジーク君の胸にしかと届いていたらしい。
そして、ジーク君も自分のことを責めているのかもしれない。
大丈夫大丈夫。
君はこのまま真面目にやる気さえ出してくればすぐに強くなれるさ。
俺でさえ倒せたリッチだし。
「なにを言ってるのジーク君。あれは仕方ないよ、むしろ助けを呼んでくれたのはジーク君の活躍だよ?」
ちょっと俯きがちなジーク君に、笑って答える。
今の俺は非常に気分がいい。これで好感度アップは間違いなし。あとは適当にこの街を楽しんでおさらばである。
そして、これから先はもうこのトンデモ主要メンツに関わる必要もない。
我ながらパーフェクト。
つまり、我が人生の目的がほぼ達成されつつあるのだ。
いやあ、色々と長かった。
ジェネシスを名乗って一晩中ひいこら言っていたのも懐かしい。
先ほどまでの焦りは雲散霧消。
これにてどこに出しても恥ずかしくない立派なモブ――ウルトスの完成である。
「で、でも僕のせいで……」
「違うよ。きっとあの場で頑張れたのは、ジーク君のおかげさ。君が後ろにいたおかげで僕も勇気を出せたんだ。ジーク君だって……わかるでしょ?」
いまいち自分自身も何を言っているが意味わからないが、君のことを大切に思っているぜ的なアピール。
クックック。今まで嫌われまくっていた相手が珍しくしおらしくしているのである。こんな絶好の機会を逃すわけにはいかない。
適当に名言っぽいこと吐いとけば納得してくれるだろう。
「……でも」
「でも、じゃない。あの時、僕はジーク君のことを思い出していたんだ。魔物に会っても勇敢に立ち向かっていた君をね……だから、こうして動けたのもジーク君のおかげだよ」
いい感じに、微笑む。
さりげな~く、ジーク君も褒めておく。
これぞモブの処世術である。まあ、ジーク君はこれから普通に超人に片足を突っ込んでいくのだから、今のうちに恩を着せておくのがいいだろう。
「……ウルトス」
呆然とつぶやくジーク君。
レインも俺を見てほっとしたように言った。
「……まあ何はともあれ、良かった。しかし、ウルトス君どうやって――」
そして、ピースはそろった。
「くっ……!」
突然、よろめいて地面に伏せる。
「お、おい!!! ウルトス君、しっかりしろ!!!」
ぼんやり目を開けると、レインとジーク君が俺をのぞき込んでいた。
「……え、どうしたの……ウルトス……??」
「というか、なんだこの血は……? ウルトス君、一体何が……!!!」
気が付けば、空は暗くなっていた。
実に美しい。
街の大通り。そして、倒れた少年。
俺は息も絶え絶えと言った様子でジークに呼びかけた。
「ジーク……君……」
ジーク君。受け取ってほしい。
これが俺にできる最大火力の友情コンボ。
――モブ式奥義『友情のレクイエム』である。
ジーク君めがけて手を持ち上げる。
そのまま俺は、ゆっくりとジーク君の頬に触れた。
「えっ……?」
「よかっ……た……無事……で」
「そ、そんなのどうでもいいよ!!」
ジーク君の目に涙が光った。
「そういえば……名前……初めて……読んでくれた……ね」
「いやだ! ダメだウルトス!! しっかりして!!!」
咳き込みながら笑う。
そう言いながら、ポトリと俺の手が力を失った。
う~む、名場面。
「そ、そんな……なにそれ……ボクが……あああああああああああ!!!」
絶叫するジーク君。
というか今までにないくらい絶叫しているな。
………………?
……なんか、それにしてはリアクション大きすぎる気がしなくもないが……
あまり叫び過ぎると後日、喉痛めるよ?
……ま、まあいいだろう。
そもそもジェネシックレコードに、リッチ乱入、ジーク君との友情など今日は色々と濃すぎた。
「いいから早く!! 治癒魔法使えるやつはいないのか?? 一刻を争うんだ!!!」
頭上で切羽詰まった声が飛び交う。
精神的にどっと疲れた俺は、そのまま眠りに落ちていった。
ジーク君って、意外と声高いんだなーなどと思いつつ。
――――――――――――――――――――
ウルトス
→ジェネシスのトラウマを癒そうと画策しているが、たぶん第三者的には傷口に塩を縫っているだけ。
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