第21話 これだから王国の人間は……!!
天才的策略――ジェネシック・レコード。
大事なのは、未来を見通す力があるかどうかではなく、いかに「未来を見る力」があるように見せられるかということである。
ハッハッハッハ……まだまだ甘いねリエラ。
こっちが一枚上手だ。
と、まあジェネシック・レコードでなんとかリエラに信用してもらえた後、俺は達成感に包まれながら外に出ようとしていた。
街の新鮮な空気を感じる。
街の中心部に目を向けると、高くそびえ立つ城があった。あのお城で偉い人が色々頑張っているらしい。
使わないかなと思いつつ、胸にはカルラ先生にいただいたネックレスも忍ばしてある。
「お、ウルトス君じゃないか」
すると、声を掛けられた。
「あ、レインさん」
目の前の厳つい感じの大男はレイン。
レインも会議に参加しており、結構忙しそうだ。いつもホテルと会議が開催される城を行ったり来たりしている。
「街に出るのかい?」
「ええ。ちょっとこの前の件で、ジーク君に迷惑を掛けてしまったので探しに行こうかなと」
あぁ……と困ったような顔のレイン。
「そうだな……ちょっとあの子は、すまない。少し難しい時期なんだ。ここは警備が万全だから、1人でどこかに行っても大丈夫だとは思うが……この前も1人怪しい男が捕まったと聞く」
「なるほど……怖いですね」
と、心配そうな顔をする。
このエラステアの街は難攻不落の街として知られている。
街の周りの高度な魔法障壁が魔物の侵入を防ぎ、検問もバッチリで怪しい人間は入れない。
中立地帯として外交の場に選ばれるだけはあるのだが……。
「ちなみに、その捕まった人間はどこにいられるんですか?」
「ああ、城の牢屋に収容中さ……まあ普通は、エラステアの外にさえ出なければ安全だし問題ない」
「そうですか……でも安心してください。こう見えても一応、僕も少しですが【風】の魔法を使えます」
「ほう、優秀なんだね」
ちなみに、俺は対外的には【風】魔法の第2位階まで使える、ということにしていた。
学園入学前なら普通よりはちょっと優秀かも……? くらいだ。明らかに原作キャラの天才どもには劣るが、一応こんなもので良いだろう。
それなりに魔法は使えるが実戦経験が無く、戦いとなると足手まとい。
……あまりにも中途半端な強さ。
戦いが起こっても誰もこんな人間呼ぼうとしないだろう。かといって、教育を受けた貴族らしく、それなりに魔法は使えるという絶妙なライン。
これがモブのバランスである。
「では行ってきます!」
意気揚々とレインに告げる。
「あ、わかっているけど、くれぐれも帝国の人間にはちょっかいを出さないように」
「はい! すみません。ありがとうございます。ジーク君を探してきますね」
「ああ、君の思い、届くと良いな」
クックック、とやけに楽しそうなレインが去って行く。
「くっ……! 親子ともども気に入られようとして……!」
と、なぜか悔しそうな顔をするリエラ。
「…………?」
◇ ◇ ◇
まあいい。
帝国の人間には近づくな。
要するに、レインが忠告するほどに帝国の人間と王国の人間は仲が悪いのである。
例えば、宿泊先のホテルだって帝国の人間は王国とは別のところに固まって泊まっている。
そもそも、性格が違う。
帝国の人間は、その名の通り皇帝を中心に、一致団結して1つの目的のために動く……が、我ら王国民は足の引っ張り合い大好き、協調性のかけらもないような人間・貴族が跋扈する国である。
第一、真の王家の血筋を引くイーリスが田舎領地で男爵をやっているのだから、もうよくわからない。
なんなんだよこの国……ちょっとおかしいよ。
とはいえ、国力では常に帝国に圧倒されている王国だが、ぎりぎりいままでは大規模な侵攻は防衛できている。
一方の帝国側も何度かの失敗で一旦王国への侵攻は小休止、といった感じだ。
しかし、裏では王国侵攻に向けて違法な魔法実験などを繰り返したり、強大な魔法詠唱者を何人も集めている。
……本当に帝国も野蛮である。
もう少し冷静にクールに物事を運べないのだろうか???
「ウルトス様……本当にここで大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよ、リエラ」
「そうでしょうか……非常に注目を浴びていると思うのですが……」
というわけで、レインからアドバイスを受け取った俺は帝国側の人間が集まるホテルのほうへと移動していた。
なぜこっちに来たのか?
そもそも基本的に帝国の人間は礼儀を重んじる。
どう考えてもあんなにへそが曲がっていて、やさぐれた女顔の美少年(しかも王国民)がいたら帝国の人間はイラッとくるだろう。
ゲーム本編でも、帝国側は基本王国の人間を見れば絡んでくる。
なので、ここでジークくんに関する情報を仕入れようというわけである。
今回ばかりはジーク君のキャラが濃くて助かった……。
と思っていたら、
「おい、その印章……貴様、王国のランドール家の人間か」
数分でじろじろ見てくる輩が話しかけてきた。
嫌みったらしい態度に、かといってどこかぱっとしない感じの若い使いパシリっぽい男。
帝国風の衣装だが、なんというか、原作キャラっぽい雰囲気もない。
どこからどう見ても立派な三流悪役モブである。
……こういう感じなら、しれっと生き残れるんだろうな。
始めて会った先輩モブの存在にテンションが上がりつつも、
「何ですか」
と俺は短く答えた。
「ふんっ、笑わせるぜ。王国の人間……そしてランドール家か。聞いたことあるぜ。その息子、ウルトスはどうしようも無い馬鹿息子だってな」
わざと周りに聞こえるように吹聴するモブ男。
なるほど、全然痛くも痒くもないが、俺の悪評は国を超え、帝国にまで広がっていたようである。
……クズトス君さあ……。
とはいえ、この男はクズトスの細かい悪事までは知らないようだ。
まあいいや。ビキニアーマーとかそのへんが知られなきゃこっちは――
が、しかし。
そのとき、鋭い言葉が周囲を切り裂いた。
「そのお言葉、撤回してください!」
俺を庇うように出てきたのはリエラだった。
「……リエラ」
「出過ぎた真似をしてすみません。でも私、黙ってられません」
そういったリエラがモブ男に立ち向かう。
突然横から出てきたリエラに、モブ男が見下すような眼を向けた。
「ふん。主人が主人ならメイドもメイドか。評判の悪い主人に仕えて可哀想に」
「そんなことおっしゃらないでくださいっ!」
リエラが精一杯吠える。
「リエラ……」
「私、もうウルトスさまが誤解されるのはもう嫌なのです」
俺が名前をつぶやくと、あくまでも俺の味方です、というように頷くリエラ。
……少し、胸が熱くなった。
その勢いのまま、堂々とリエラが続ける。
「ウルトスのことを『馬鹿息子』とか……『変態息子』とか! いくら他国とはいえ、言って良いことと悪いことがあります」
……ん?
おかしい。俺の聞き間違いだろうか?
いま、新たに悪口が追加された気がする。
だいたい相手のモブの人、「馬鹿息子」としか言ってな――
「たしかにウルトス様はビキニアーマーがお好きです。でもそれは決して不埒な目的ではありません……そう、ウルトス様は、あの無骨な鎧と柔らかい女体が絡みつく――そこに、その相反した風情に、芸術的な意味を見いだしているのです!!!」
「えっ」
「えっ」
突如として放たれた斜め上な発言。
俺とモブ悪役の声が重なった。
「そうですよね? ウルトス様!」
どーん、となぜか胸を張るリエラ。
そのまなざしはキラキラ輝いており、「私、言ってやりました!」みたいな顔をしている。
「……リエラ」
俺はもう1回、彼女の名前を呼んだ。
もうやめてくれ、という感情を込めて。
「止めないでください、ウルトス様。私はもう黙っていられないのです。ウルトス様の評判を貶めるような輩は――」
「……やめようリエラ。評判を貶めるような輩が今のところ1人しか思い浮かばない」
後ろからリエラの服をつまみ、引っ張る。
というか、下手にリエラが「芸術的~」とか謎のフォローを入れたせいで、単にビキニアーマーが好きというより、ヤバい系の変態に進化している気がする。
「こ、これだから王国の野蛮人は、白昼堂々なにを言い出すんだ……」
モブ男もそう言いつつ、完全に2、3歩後ろに下がり始めている。
どう考えても引かれている。
「す、すみません。うちのメイドちょっっっと変わってて……」
「くっ、もういい! ったく王国はどういう教育をしているんだ。この前、街外れで会ったあの無愛想なガキと言い……!」
そう言いながら、去って行く帝国民。
リエラがにこやかに振り返った。
「ウルトス様! ギャフンと言わせましたね」
「いや。ギャフンとっていうか、とんだ変態主従だと思われただけだと思う」
「ええっ!?」
が、まあいい。
収穫はあった。わざわざ恥をさらした甲斐が。
「ふうん」
にやりと笑う。
無愛想なガキ。
「街のはずれ……ね」
――――――――――――――――――――――
『クズレス・オブリージュ』第1巻本日発売です。
みんなでビジュアル化されたエンリケを見よう!!!!
(※もうろくな宣伝文句が思い浮かばなくなってきた)
各種snsでの感想やレビューもお待ちしています。
「クズレス・オブリージュ、2023年の12月1日に発売されたラノベの中だと最高傑作だわ!」とか「このエンリケたまらねえ!」などありましたら、ぜひ書いてください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます