第20話 ジェネシック・レコード【すべてを見通す紅き魔眼】



「なッ……!! そんな……その眼は!?」

 

 信じられないといった表情のリエラ。


「ま、まさか……、ウルトス様は本当にすべてが見えていらっしゃるのですか??」

「ああ、あまり言うまいと思っていたが……これが俺の秘密だ」


 しっかりリエラを見つめつつ、キメ顔をする。


 そして告げた。

 この能力の名を。


。それこそ我が能力――『』」

「ジェ、『ジェネシック・レコード』……!?」


 ここに来て、突如として明かされた驚愕の新設定――『ジェネシック・レコード』。


 ちなみに、元ネタはアカシックレコードというもので、なんか全世界の色々な知識が詰まっているらしい。

 それを謎の仮面の男・ジェネシス風にしたのが、『ジェネシック・レコード』である。


 もちろんそんな能力は一切ない。


「な、なぜそんな重要なことをおっしゃって下さらなかったのですか!?」


 なぜ、ジェネシック・レコードのことを言わなかったか。

 ……リエラ。それはジェネシックレコードがほんの2,3分前に作り出された能力だからさ。



 とはいえ、俺はずっと思っていた。ちょっと雰囲気が足りなくないか? と。


 考えてみよう。


 例えば、リヨンでの一件もそう。

 俺はイーリスに会った時、「裏の裏を見ろ」とかだいぶ適当なことを言ったが、「なんだこいつ」という白けた視線が帰ってくるだけだった。絶対にあの顔信じてくれてない。

 

 ……うん。

 俺は実感した。やはり足りないのは雰囲気である。


 この世界は魔法やら何やらがある世界。

 俺が普通にこれからのシナリオについて語ったところで、あまりに普通。インパクトがなさすぎる。


 もっと特殊な……もっと特別そうな雰囲気がいる。

 

 ――そこで俺が思いついたのが、ほとんど使用者のいない、地味な補助魔法【変装】だった。


 この魔法を使い、目を真っ赤にする。

 ……なぜ真っ赤なのか? 


 簡単だ。


 目を赤くすると、手っ取り早く、なんか危うい特別な雰囲気を出すことができるからである。

 だいたい暴走した主人公はすぐ赤い眼になるし、操られた人間は眼が真っ赤になるのだ。


 つまり、ここで「眼が赤い=特別」という簡単な方程式が成り立つ。



「リエラ。これは本当に信頼できる人間にしか明かせないんだ……」

「たしかにそうですね……。未来を見ることができるなんて、魔法に疎い私ですらあり得ない、と感じるレベルです」


 ……リエラの様子をこっそり伺う。


 だいぶ深刻そうなトーンのリエラ。

 どうやら俺の作戦は成功しているようだった。


「……リヨンの前からふとこの能力に気が付いていた。だが、この力はあまりに危険。だからこそ今まで黙っていたんだ……」

「あぁ、ウルトス様……! そんな秘密を私に……!!」


 本当にいいメイドである。

 目を赤くするなんて厨二病感が強過ぎて心配だったが、リエラにはばっちり刺さっていたらしい。



◇ ◇


「いやでもウルトス様、少しお待ちください」

「ん?」


 衝撃の能力の発表から少したち、疑問を持ったらしいリエラが聞いてきた。


「ウルトス様が『ジェネシック・レコード』をお使いになったということはすなわち、今回も、リヨンと同じようなことが起きるのでしょうか?」

「ん? あ~そうだな」


 ……難しい質問である。

 今回はシナリオが関係ないので、特にリヨンのように動く予定もない。


 とはいえ、ここにきて、リヨンと同じくらいだとちょっとスケールダウンかも知れない。

 まあいい。ここまで来たら全力で乗り切るしか――


「いいだろう。本当に真実を知りたいんだな……リエラ」


 眼を閉じ、何かを感じるような姿勢をとる。

 こういうのは勢いと情熱である。


 何事もなかったら、それはそれで「……『ジェネシック・レコード』の未来が変わった……!? まさか、俺たちは未来を変えられたのか!?」とか適当に抜かしておけば良い。


 ああ、なんて便利なんだ……、ジェネシック・レコード。

 我ながら才能が恐ろしいよ。


「……リヨンは序章に過ぎない」

 

 重々しく言う。


「なっ!? では、いったい何が……?」

「――

「邪悪なる陰謀!? こ、この街でですか!? で、でもこの街は両国の会議中で――」


 邪悪なる陰謀が何かって?


 ……リエラよ、あまり詳細にツッコまないでほしい。

 俺だってなにを言っているか、いまいちわかってないのだから。


宿

「……未来の予言。そして、すべてを見通す紅き瞳……これがウルトス様の『ジェネシック・レコード』……」


 あまりにわけわからない俺の演説と紅い眼に、放心したようなリエラ。


 ちなみに、「英雄=ジークくん」で、大聖堂とはこの街の中心にあるシンボル的な存在である。

 ゲームでもきれいと評判だった。こういう地元ネタも入れておくと信ぴょう性が増すはずだ……たぶん。


 そして、ジークくんも頼むからもう一回頑張ってほしい。お願いだから。




「じゃあ、外に出ようか」


 やりたいことは終わった。

 魔法も解除。紅色の眼が元に戻る。

 

 リエラの中では、あの失敗に終わったお風呂の件もきっと必要だったということになっているだろう。


 ありがとう、ジェネシック・レコード君。我ながら完璧な演出だった。

 いやあ、本当に大満足――


「ウルトス様」


 が、扉に手を掛けようとした瞬間、後ろからリエラの声がした。


「……何かを隠しているのではないですか? その、副作用とか」

「………………」

「『ジェネシック・レコード』はまさに神の領域に達した能力。でも……そんなあまりに強大な能力を使うと――重大な副作用があるのでは?」

「………………」


 ……言われて気がついたが、特に何も考えてなかった。


 重大な副作用。なんだろう?

 寿命を削る、とかだろうか。ちょっと想像してみる。


俺「寿命を削るんだ」

リエラ「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 1.リエラ大パニック

 2.俺、実家連れ戻される

 3.ジャッジメント計画失敗

 4.世界崩壊、巻き込まれて死亡


 ……ダメだ。リエラの性格を考えると、末路まで簡単に想像できる。

 こうなったら……!


 振り返りながら爽やかに告げる。


「いや、ジェネシックレコードの副作用はある……けど、そんなに大したものじゃないさ……使用過ぎると脂っぽいものがきつくなったり……夜、寝つきが悪くなったり、朝、寝起きが悪くなったりする程度なんだ」

「………………」


 沈黙。

 無言のリエラ。視線がまあ痛い。


 さすがに低リスクが過ぎるか……?

 あまりにも安全策を取りすぎて、逆に怪しくなってしまったような気がする。


 だいたい、未来を見る能力の副作用が胃もたれとか寝起きの問題って……。


 恐る恐るリエラの様子を見る。

 さすがに、こんなのは誰でも違和感を――


「わかりました! ジェネシック・レコードにはそんな恐ろしい副作用があったとは……ウルトス様、何かありましたらこのリエラに何でもお申し付けください!!」


 ぐっとガッツポーズを取るリエラ。

 むしろやる気が出たようだ。


「……ああ、うん。そうだな、まあ、今度から朝布団をかぶってたらジェネシック・レコードの副作用ってことで……」


 ……まあ、なんだ。俺はいいんだけどさ。

 

 リエラ。

 メイドとして、本当にそれでいいのかい????


◇ ◇ ◇




「でも、あのジークって人とはどうやって仲良くされるのですか?」


 ジェネシック・レコードの説明が終わり、部屋を出た。

 横にいたリエラが尋ねてくる。


 まあ心配しないでほしい。こう見えても策はある。


 俺はさらっと言った。


「帝国の貴族と王国の人間は仲が悪い」

「ああ、なるほど」


 リエラが手を叩く。


「帝国の人間を利用するのですね」




――――――――――――――――――――――――――――――――――


能力紹介(嘘)


ジェネシック・レコード【すべてを見通す紅き魔眼】

未来のあらゆる選択肢を見ることができ、その中から最善の未来を引き寄せる能力。

使用者はまさしく神の領域に達することが出来るが、その代わり、胃もたれや寝起きが悪くなったりするなど強大な力の反動が待っている。

能力を使用する際には、その日の夕食や翌日の予定に注意すること。




『クズレス・オブリージュ』第1巻、2日後発売。

いやあ自作品が発売されるってめちゃくちゃ怖いですね。最近、現実逃避のために死ぬほど執筆速度が上がっています(※最初からその速度で書け)

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