第19話

「……ウルトス様。あれで本当に成功だったのでしょうか……?」


 ジト目でこちらに尋ねてくるリエラ。

 昼の陽ざしが入る部屋には、俺たち以外誰もいない。


「……ああ、まあな。これも計画のうちだ」

「そうですかね? あまり成功した感じがしないのですが……あの人、完全に顔を真っ赤にしてましたよ」


 微妙な表情で、リエラが首をかしげる。

 あの忌まわしき『お風呂お誘い事件』についてから数日たち、俺は絶賛リエラから詰められていた。


「……そんなことはない。完璧に、一点の曇りもなく、計画通りだ」 

 

 顔をひきつらせながら、適当なことを言ってみる。


 が、もちろん、成功のわけがない。

 ――ジーク君をお風呂に誘う、という作戦はまさかの失敗に終わってしまい、俺はまたもや頭を抱えていた。



◇ ◇ ◇



「しかし、どうしようか」


 と言いつつ、内心で冷や汗が止まらない。

 もうむちゃくちゃである。

 

 レインたちにはその日の夕食で、


「実は冗談なんですよ。ジーク君の笑顔が見たくてね。ははっ(キラン)」


 と、爽やかスマイルで謝っておいた。なので何とか大丈夫だろうとは思っているが……たぶん。


 が、しかし、意外である。 

 本編でどれだけ強い相手にも立ち向かっていた主人公が、まさか同性との風呂も苦手だとは……。

 顔を真っ赤にして枕を投げてくる感じなんて、ジーク君が女顔なのもあって、もはや女子並みの拒否反応だった。


 ……俺、そんなに嫌われてるの? イメージ悪すぎない??

 それなりにクズレス・オブリージュをできたと思っているが、あまりジーク君には伝わっていなかったらしい。


「会議は参加しなくても良くなったけど、ジーク君がどうもなあ……」


 思わず独り言が出てしまう。


 そう。

 ちなみに、父上が俺に参加してほしいと熱望していた会議だったが、早速俺は参加を辞退していた。


 聞けば会議は、帝国と王国間の本当に真面目な会議らしい。


 そもそも帝国と王国は、かつてバチバチに争いをした仲である。そのこともあって、今でも王国と帝国は完全に仲がいいとは言えない。


 何なら、帝国は現在進行形で虎視眈々と王国を狙っており、原作開始後には、ジーク君が学園生活を送っていると、突如として王国に進行してくれるというまったく嬉しくもないサプライズをしてくれる。


 ……こんな地雷だらけの本格的な会議にまだ成人してない息子を放り込むなよ……またランドール公爵家の評判が落ちるじゃん……。


 わが父上は一体何をお考えなのだろうか。そろそろ現実を見てほしいものである。


 というわけで、俺はレインを通じて「絶対に参加しません。会議に息子を出してほしいとかいう父のアホな発言は忘れてください(意訳)」と王国代表側に伝えておいた。


 しかし、やはり貴族同士の仲が悪く、アホが跋扈する王国である。

 なんと王国代表側からは「せっかく来ていただいたのだから、ランドール公爵家のご子息も参加してもらっても~」という意見もあったらしい。

 

 セキュリティ意識とか大丈夫か? 

 そんなんだからグレゴリオみたいな狂人にいいように暗躍されるんだよ……。


◇ ◇ ◇



「で、そもそも、どうされるのですか? 完全にあの人は最近姿を見ませんし……」


 リエラが若干呆れたように言う。

 

 そう。

 あれからというもの、ジーク君は日中ホテルから完全に姿を消すようになってしまった。


 おかげで中々、話す機会もない。


 そして、リエラの追及が厳しくなってきた。

 ジーク君に関係すると、リエラはちょっと厳しくなるみたいである。


 仕方ないじゃん……。

 ジーク君があんなに恥ずかしがり屋さんって知らなかったんだし。


 と思うが、仕方ない。

 こういう時は、勢いでごまかす。これ一択である。


 問題ない。

 なぜなら俺は、あのリヨンでもこうやって切り抜けてきたのだから。


「――リエラ」


 俺はやれやれと立ち上がると、意味もなくカーテンをふぁさっと開けた。

 そのまま静かに空を見る。


 大事なのは雰囲気。そして揺るぎない自信である。

 

「ウルトス様、何を……?」


 俺の意味不明な行動に、リエラの困惑したような声が聞こえた。


「リエラ。これはすべて計算の内だ」

「……!? あの完全に拒否された、お風呂の件がですか?」


 ……完全に拒否された、とか言わないでほしい。

 原作主人公に悲鳴をあげられて、こっちもちょっと傷ついているのである。


 が、気にせず続行。


「ああ、すべてはこの眼にしっかりと見えている。現に、リヨンでの俺の計画は全て当たっていた……そうだな?」

「たしかに、あの時のウルトス様はまるで未来が見えているかのごとく、すべてを的中させていましたが……」


 いいね。真後ろから、リエラの困ったような雰囲気を感じる。

 まあリヨンでは原作のイベントを知っていたからなんですけどね。


 が、しかし。

 ここでリエラに疑問を持たれてしまうのは少し困る。だからちょっと、新技術で工夫させて頂こう。


「リエラ、……?」

「ウルトス様……それはどういう?」


(――【変装】)


 俺はリエラから見えないように補助魔法を唱えた。

 

 変装。見た目を変化させる、というあまり使い道のない補助魔法。

 たしかに戦闘では役に立たないだろう。しかし、こういうのは使いどころが肝心なのだ。


 そして、そのまま意味深に振り返る。


「リエラ、安心してくれ。たとえお風呂の誘いを拒否されようと、たとえ枕が飛んで来ようとも、すべては我が計画のうち。そう――

「えっ、ウルトス様……そ、その眼は……?」


 リエラが息を呑む。

 それはそうだろう。


 困惑するのも無理はない。

 なぜなら振り返ったはず俺の眼は、普段の色とは違い、深紅の赤に染まっていたのだから――


「信じるかい、リエラ?」


 呆気にとられるリエラ。 

 彼女に向かって、俺は微笑みながら尋ねた。


「――こ?」




――――――――――――――――――


ウルトス★邪気眼モード突入。



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可愛い女の子ばっか! まともそうな主人公!!



……これは本当にうちの作品でしょうか?(困惑)

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