第18話 ジーク視点 変な貴族
――その日の夜。
ジークは夕食の場にも出ず、自身の部屋から夜空を眺めていた。
風が吹き、ジークの銀髪が揺れる。
これまで、強さを追い求めてきた。
村で1人で修行するのを馬鹿にされても。魔力が無くても父のように強くなりたいと必死に努力を重ねてきた。
が、
(なんなんだろう、あの人は……?)
不思議だ。
この旅で一緒になったウルトスという同い年の子は、どうにも変な少年だった。
ジークが嫌みな態度を取っても、ヘラヘラ笑って怒る様子もない。へりくだるだけ。
どちらかと言えば、横にいたメイドのほうがよっぽどイラッとしていそうだった。
ジークも最初は貴族の子息ということで、「適当に返事をしていれば飽きるだろう」と思っていたが、その様子も見えない。さらに今日は昼間から、「一緒に風呂に入らないかい?」と、笑顔でとんでもないことを言ってきたのである。
おかげで、ジークにしては珍しく顔を真っ赤にして枕まで投げてしまった。
(いけない、ダメだこんなんじゃ……!)
呼吸を落ち着けて、頭を振る。
しかし、ジークはウルトスという少年が苦手だった。
道中、魔物と会ったときもみっともなく逃げ回っていたし、そして何よりも――
その時、扉の開く音がした。
「ジーク。夕食に出なかったから食事を持ってきたぞ」
ジークが振り返ると、レインがちょうど部屋に入ってきたところだった。
「なぜ来なかったんだ? ウルトス君も心配していたぞ」
「別に……どうでもいいから」
そんな父に向って、バッサリと切って捨てる。
ジークがどうしてもウルトスを苦手な理由。それは――
「いや、それにしても、やはり彼はいい趣味を持っているな」
と、楽しそうに語るレイン。
「……っ!」
これである。
これがどうしてもジークは嫌だった。
あれほど弱く、魔物に逃げ回っていた少年を、なぜかレインは高評価するのだ。自分は父に追いつくために、あれほど努力してきたのに最近はウルトスのことばかり。
「俺も初めて、彼女――つまり、お前のお母さんと一緒に風呂に入った時なんてな」
「別にそんなの聞いてない」
父がウルトスを褒める。
それがどうにも癇にさわる。
(どう見たって、自分よりも弱いのに……)
「そもそも、あんな弱い人に興味ないから」
「いや、ジーク。それは違う」
レインが宥めるように言った。
「ウルトス君は強いよ。お前はこの前の敗北から少し急ぎ過ぎだ。命も取られなかったんだし……」
――この前の敗北。
胸がざわついた。
正体不明の仮面の男、ジェネシス。村に突如として現れた男とジークは戦い、全く太刀打ちできなかった。
だからこそ、これまで以上に強さを求めなきゃいけない。
そう思ったのだが、父はのんきに「強さばかりを求めるな」という。
(あの父さんが、あの英雄が、そんなひよったことをいうなんて……!)
「なにが? 僕にもっと力があれば、勝てたのに」
レインを睨みつけた。
が、レインは困ったな、と首を振る。
「違うんだジーク、本当に強い人間ってのはそうじゃない」
「……ッ! じゃあなに、僕とあの子が勝負して僕が負けるとでも?」
「いや、勝つのは十中八九お前だ、ジーク」
「だったら、僕の方が――」
レインが遮った。
「勝つのはお前だけど、彼の方が強い。お前はまだ表面的な強さに囚われている。仮に勝つのはお前でも、強力な敵を目の前にした時、きっと先に動けるのは彼の方だ」
「……ッ! 一体どういう……!」
目の前のレインを見る。
レインの眼は真剣だった。
「彼には大切な……守るものがある。そのためにだったら命を懸けられるだろう。そういう人間こそが、本当に強い者なんだ」
「じゃあ、あの子が僕を守るとでも?」
ふん、とせせら笑う。
どう考えても自分の方が強いのに。
「会ったばかりなのにさ」
「まあ、彼はお前のことを守ると思うが」
「くっ……!」
全く躊躇せずに言う父。
侵害だった。
あんなに弱そうな男を、自分が憧れた父がここまで評価している。
「そもそも、なんで構ってくるかもわからないんだけど」
「そりゃお前のことが好き……いや、これは彼の名誉のためにも言わないでおこう。お前は強い。だけど、まだ本当の強さというものが――」
「もういい、外、出てくる」
「おい、まだ話は終わっていないぞ」
父の静止も聞かず、部屋を出る。
これ以上聞きたくなかった。
何が本当の強さなのか。相手に勝つ。それ以外の強さなんて、
「――あるわけないじゃん」
――――――――――――――――――――――――――――――――
ウルトス
→ジェネシス状態でも嫌われ、表の顔でも(八つ当たり気味に)嫌われ始める。いまだかつて、これほどまでに悪役転生系小説で原作主人公に嫌われた人間はいるのか……?
ジーク君
→少々闇堕ち気味のボクッ子。強さに拘り過ぎているため。父に反目中。ウルトスのことを弱いと思っている。
レイン
→娘のことを命を懸けてくれるウルトスに感激し、彼を高く評価。「大切なものを守れるのが強さだ」と発言だけ見ればまっとうなことを言っているのだが、あまり空気が読めないため、娘には響いていない。
リエラ
→一番イラついているのがわかりやすかったメイド。一周回ってドロドロした関係からは一番距離を置けているので多分一番平和。
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(さすがに更新サボりっぱなしだとヤバいと思い、)死ぬ気で更新するので、ぜひお買い求めください。
恋人・友人・家族がいる人は、周囲にプレゼントしてみてもいいかもしれませんね(?)
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