第17話 男同士の、裸の付き合い(と主人公が思っているだけ)


 ――


 一見するとバカバカしいが、俺は本気だった。

 というのも、『ラスアカ』は18禁のゲームらしく、そういうシステムがあったからである。


 その名も『お風呂システム』。

 何ともひねりのないシステム名だが、これが意外と好評だった。


 例えば、とある施設に止まったりすると「風呂に入る」という選択肢を選べる。

 

 そうすると、選んだキャラと一緒に風呂に入れるのである。

 しかも、好感度がアップしたり、能力がアップしたりアイテムをもらえたり、と数々のメリットがあるというおまけつき。

 

 そして、このシステムのポイントは同性でも使える、というところにある。

 場合によっては、男主人公のジーク君で、男キャラともお風呂に入れるのである。

 

 ちなみに男キャラからは風呂で「戦いのコツ」みたいなものを教えてくれるのだが……まあ、もちろん、誰がわざわざ女の子がカワイイゲームで、男の姿が見たいのか。


 女主人公にしてカワイイ女の子とあえていちゃつく……的なプレイヤーもいたが、大多数のプレイヤーは、もっぱら男主人公にして女の子といちゃつくために入っていた。

 

 だからこそ。

 俺は思っていた。


 『ラスアカ』の世界なら、一緒に風呂に入ることで好感度を稼ぎ、仲良くなれるのではないか? と。


 そもそも俺はいわゆる知識チート的なことは好きではない。

 知識チートで「ヒャッハーー!!」とか「領地を発展させてやるぜ!」なんて目立つことをするのはアホだ。


 人生命が大事。

 目立たずに生き残れれば、それでよいのである。


 が、今は主人公が、そもそも世界のために闘ってくれないという、この先を知ってる人間からすると、だいぶ絶望的な状況になってしまっている。


 もはや方法を選んでいられない。


 そして運良く、このホテルには高級浴場があった。

 完璧なタイミング。


 試してみる価値はあるだろう。


「って感じなんだけど……ん?」


 とシステムのことをぼかしつつ、風呂に一緒に入れば仲良くなれるだぜ? 的なことを言ったのだが、肝心のリエラさんは物凄い微妙な表情をしていた。

 というか目が冷たい。


「ふぅん……ウルトス様は私を差し置いて、そんなぽっと出の人と風呂に入ろうとするんですね、ふぅん~~」


 髪をクルクルといじってそっぽを向くリエラ。

 なんか発言が怖い。


 今まで一番、やさぐれた顔をしているかもしれない。

 待て待て。


「いやいやいや、だってねえ。メイドと一緒に入るのはさ、評判がちょっと……」


 考えてみても欲しい。

 こんな真面目な場所に来て、メイドと一緒に風呂入るってまた悪評が立つじゃないか。

 しかも異性のメイド。どう見たってよろしくない。


 俺が今からやるのは健全そのもの。 

 男同士の付き合いである。


「まあ、待っててよ。さっくり終わらしてくるからさ」


 俺はホテルの部屋を出て、横の部屋へと向かった。

 レインたちは、一応護衛扱いなのですぐ横の部屋にいる。


 考えてみれば、今のジーク君は虫の居所が悪いだけだったのかもしれない。


 そもそも、あんだけゲーム中で風呂に入って女の子とイチャイチャしていたのは他の誰でもないジーク君の方だ。

  今は単なる美少年のジーク君も、そのうち女性と風呂に入ってキャッキャウフフをするのである。


 つまり、そんなチャラチャラした主人公が、風呂が嫌いなわけがない。


「失礼します」


 成功を確信しながら、隣の部屋の扉を開く。

 すると、中にはジーク君とレイン、そしておつきの騎士と全員が揃っていた。


「ん? 何か用かな、ウルトス君。この都市は、防壁もしっかりしているし検閲もある。もうここまでくれば安心だから、どこかに行く場合は、別に我々の許可がなくても――」

「いえ、ジークくんに用があって」


 ジークくんは一番奥のベッドに腰をかけていた。


「ジーク君」


 ……ジークくん。君も風呂、好きだよな???

 俺は爽やかに手を差し出した。


「一緒に風呂入らないかい?」

「は?」

「なっ!?」


 俺がそう言うと、なぜか、周囲の騎士やレインが絶句していた。

 ……なぜだ?


「私たちとじゃなくて……ジークとってことかな?」

 

 唖然とした表情で、恐る恐る聞いてくるレイン。

 もしかして、オッサンたちも一緒に入りたいのだろうか?

 

「ええ、そうです。ジーク君とですね」


 しかし申し訳ない。今回はジーク君と決めてある。


 すると、初めてジーク君がまともに口を開いた。


「……お風呂って……あのお風呂?」

「そうさ!」

「ぼ、僕と……?」

「もちろん、君を誘っているんだからね」


 明らかに混乱した様子のジーク君。

 ……なぜそんな理解不能みたいな顔で、こちらを見てくるのだろうか???


 とはいえ、ここまで来たら押し通すしかない。

 心の中で呼びかける。


 ジーク君。君も嫌いじゃないだろう???


 さあ、始めようじゃないか。

 男同士の、裸の付き合いってやつを――


「さあ一緒に――」


 が、


「……へッ! ヘッ! へ、変態……!」


 俺が最後に目撃したのは、顔を真っ赤にしたジーク君と、こちらに高速で飛んでくる枕の姿だった。





――――――――――――――――――――――――――


主人公→ジーク君を男だと思っているので合法的にセクハラができる。


リエラ→すねた。


レイン、ジークご一行→ナチュラルにとんでもないお誘いをしてきたウルトスに絶句中。




お疲れ様です。

今日はカクヨムの方で、式によばれたみたいなので行ってきたいと思います。

ちなみに、1巻がそろそろ出るのに3章が一切進んでいないことについて、最近プレッシャーがかかってきたのでmそろそろ本気を出そうと思います(遅い)






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