【2巻&コミカライズ】クズレス・オブリージュ~18禁ゲー世界のクズ悪役に転生してしまった俺は、原作知識の力でどうしてもモブ人生をつかみ取りたい~
第15話 ウルトス君……君ってやつは…… side:レイン
第15話 ウルトス君……君ってやつは…… side:レイン
「まさか、ウルトス君。君は……うちのジークレインのために、命を懸けられるとでもいうのか……娘の夢を信じ切っていると……??」
とある少年との邂逅を果たしたレインは絶句していた。
なぜか「頭いったぁ……」と頭を抱えながら戻っていく少年を呆然と見つめる。
頭を殴られたような気分だった。
たしかにレインは、年頃の娘が、しかも魔力がないのにもかかわらず、自分のまねをして剣術の特訓をすることには反対していた。
しかし、そんなレインに対し、今日会ったばかりの少年がこう言い放ったのである。
――ジーク君は英雄になる人ですから、と。
思わず、レインは息をのんでしまった。
それほどに少年の眼は真っ直ぐだった。
まるで、娘が本当にそうなるかと知っているような曇りなき、その瞳。
普通の人間は、レインを前にすると少しは躊躇するはず。けれど彼は、一切、こちらに遠慮などしていなかった。
そして、彼はこう続けた。
――約束しますよ。もしジーク君が英雄になれなければ、僕が命を懸けたっていいです。
レインでさえ、数々の戦場を駆け抜けた英雄でさえ、そんな生半可なことは容易には言えない。
しかし、ランドール公爵家の息子は真剣に告げたのである。
「たしかに……そうかもしれないないな、ウルトス君。私が一番……娘を信じてやれなかったのかもしれない……」
もはや、居なくなってしまった少年に対し、レインはつぶやいた。
自分が一番娘を信じてやれなかったのではないか。
このままいけば、自分は娘のことを否定してしまっていたのかもしれない。レインは自分を叱ってくれた少年に感謝していた。
そして、同時にレインは舌を巻いていた。
こちらの誤りを正し、レインに己の失敗を間違いを教えてくれた。
それだけではなく、今日の様子を見ると、ウルトス自身は、ジークレインに話しかけても全く反応してもらえていなかったのである。
そう。
それはつまり、あの少年は、あんな態度を取られたにもかかわらず、娘の側に立ったということ。
おそらく娘に好かれたいだけならば、娘の前でこの話をすべきだったはず。
しかし、少年は娘に今夜のことを告げることはないだろう。なぜか、レインには確信があった。
なんという冷静な対応。しかも、あんな態度の娘に対して。
人知れず、レインは納得していた。
「なるほど。これが天才というやつか」
そもそも、レインはランドール公爵からウルトスの噂を聞いてはいた。
リヨンの事件の後始末で色々と動きがあった後、ランドール公爵はレインに言った。
我が息子、ウルトスは、世間では「卑猥な鎧好き」な少年だという噂が立っているが、それは違う。実は、とんでもないほど天才なのだ、と。
ランドール公爵は悪い人ではないのだが、ちょっと物事を信じすぎるアレなタイプである。貴族としては珍しくいい人なのだが……。
だからこそ、その息子ウルトスに、レインも大した期待をしていなかった。
が、噂は本物だった。
あの年にふさわしくない鋭い眼力。冷静な思考力。
まさしく、ランドール家の麒麟児。
見た感じだと、娘のジークレインとは違って戦いは苦手そうだった。穏やかな雰囲気の少年だ。
最後に「頭が痛い」と言っていたし、少し、身体が弱いのかもしれない。
しかし、そのぶれない姿勢にレインは好感を持った。
少年の去った方を向き、爽やかに笑う。
「フッ。まさか、この年になって、誰かに本気で怒ってもらえるなんてな。君の言うとおりだ……願わくば、君が娘と仲良くしてくれることを願ってやまないよ」
――そう。
レインは実態を知らない。
まさかそのランドール家の麒麟児(笑)が、ジークに媚びるためだけに、全力でこっちに逆ギレしてしまったということを。
ましてや、ウルトス本人は、ジークを英雄にさせるために平気で、「命懸けますよ」とヘラヘラ言っていたのだが、
完全にレインの眼には、「己の身すらを犠牲にして娘のことを思ってくれている好ましい少年」としか写っていなかったのである。
◇ ◇ ◇ ◇
(いやでも待てよ)
――が、しかし。
そうなると、1つ、レインの脳裏に疑問ができた。
そもそもなぜ、ウルトスが今日会ったばかりなのに、それほど娘のことを思ってくれたのかという疑問である。
(なぜだ……聡明な彼がなぜジークにここまでする……? 命を懸けるほど……)
命を懸ける。彼の眼は真剣そのものだった。
レインに対して一歩も譲らぬほどの真剣さ。
(考えろ!! そんな場合はすなわち――)
不可解な疑問。
レインは必死に考えた。
もちろん、レインはウルトスの姑息な計画など知らない。
――その結果、レインが思い当たったのは。
「ま、まさか……」
あり得ない、とレインは手で口を押さえた。
信じられない。
しかし、この可能性しかない。
「ウルトス君……君ってやつは……まさか」
レインは呆然とつぶやいた。
「――ジークのことを好きに……???」
たしかに、そう考えればすべての辻褄が合う。
「た、たしかに、うちのジークは、綺麗な格好もせず、剣を振るっているような変わった子だ。友達もあまり居ないし、今日だってロクにおしゃれもしていないその辺の少年のような格好。
しかし、その表情、素顔をよくよく見ると、我が妻に似て美人の気配がする。
しかも、たまに『お、お父さん、ちょっと……その剣の動き方を見てくれないかな……?』などと恥ずかしそうに言う様子はとてつもなく可愛らしい。
ま、まさか、彼は、今日始めて会っただけで、ジークのポテンシャルを見抜いたというのか!?」
間違いない。
レインは完全に確信していた。
これは「恋」というやつである。
だからこそ少年は己の命を懸けて、このレインに挑んだのである。
そう考えればすべてがつながってくる。
ウルトス君は今日、何回も話しかけていたのは、一目惚れをしてしまったせいなのだろう。
「フッ、なんだ、ウルトス君。そういうこと、なんだね?」
自分の考えに確信を持ったレインはにやりと笑った。
彼は今日、レインの間違いを正してくれた。
となれば、ここで動かなきゃ英雄ではない。そう、英雄とは人の後押しをする者である。
「任せてくれ、ウルトス君。1人の男として、君の恋を応援させていただくことにしよう――君には大切なことを教わったからな」
こうして、完全に「あっ、この子、うちのジークレインのこと好きなんだ」的な発想に至ったレインは、翌日から2人をくっつけようとやけに張りきり出すのだが――
翌日から、時々ニヤニヤしながらウィンクをしてくる英雄レインの謎行動に対し、ウルトスの頭痛はさらに加速していくのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――
レイン
→原作で強さを求めるジーク君と不仲になるのだが、今回の一件で自分の考えを見つめ直す――が、その結果、すべてを面倒くさい方向に察してしまい、二人きりのシチュエーションを用意してウィンクとかしてくる面倒くさいタイプの親父に。妻に対しても一目惚れだったため、ウルトス君に多大な期待を寄せている。
ウルトス
→体が弱い(大嘘)
ちなみに第3章の目標はハッピーなラブコメ()です!!!
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