第13話 君になら頼めるかもしれない


 リヨンの街の騎士団長――レイン。

 騎士団というのは大規模な街に存在している部隊であり、本部は『王都』にある。そして街の規模が大きければ大きいほど、そこを拠点にする騎士団の質も高い。


 という訳で、大都市リヨンの街の騎士団長というのは、相当な格である。


 そして、この男はそれだけではない。

 レインは主人公ジーク君の父親であり、目標なのである。


 おわかりだろうか。この圧倒的主要人物感。


 落ち着いた茶髪に、隙のない身のこなしの大男。

 しかも、性格もいいときた。


 これぞ、『英雄』のレインである。

 ネームドキャラにふさわしい匂いがプンプン漂ってくる。


 そんなレインに呼ばれ、少し離れたところまで移動。

 案内された場所には、薪があり、椅子も用意されていた。


「まあ、気楽に座ってくれ」

「あ、はい」

 

 さて、何を話そう。

 すでに俺は最初にあったときにレインや騎士団の方にも非常に低姿勢でご挨拶をしており、あまり怒られるようなことはしていないはずだが……。

 なぜか、レインは深刻そうな表情をしてだまったままだったので、こっちから世間話でもすることにした。


「あ、そういえば新聞見ました」


 そう。新聞の事件。

 なぜか精強を誇ることで有名な騎士団が、なぜか中二病のおっさんに逃げられたという衝撃の記事の話である。


「一体あれは何があったのですか……?」

「ああ」とレインが気まずそうに笑った。


「お恥ずかしいところを見せてしまったね。まあ、しかし、言い訳の余地はない。【絶影】のバルドは恐ろしい男だった」

「そうなのですか?」

「ああ、【すべてを絶ち穿つ、漆黒の影】――略して【絶影】」

「……っ!」

「どうかしたのかい?」


 レインの発言を聞いた俺は思わず顔を天に向けてしまった。


 キツい。

【絶影】とかいう異名は、あの場だからギリギリなんともなかったのだと今になって思う。

 

 こうして落ち着いて聞いてみると、背中のゾワゾワ具合が違う。

 ……あいつ……【すべてを絶ち穿つ、漆黒の影】だったんだ……。


 良かった、最初聞いたのが略した【絶影】の方で。


 正式名称を聞いていたら、あまりの中二病臭さに気絶していたかもしれない。

 本当に末恐ろしい男である。


「い、いえなにも」

 

 【絶影】のあまりの中二病っぷりに、体調が悪くなりかけたが、とりあえずごまかす。

 というか、【絶影】に長いバージョンがあったとすると、【奇人】エンリケにも、それ相応に長いバージョンがあるのだろうか。


 奇人……なんだろう。

 【奇天烈変人】……略して【奇人】とか。


 あ、ダメだ。

 頭が痛くなってきた。


 しかし、そうなると困ったことに、わからなくなってくるのが、強さである。

 ゲーム上では、ステータスとかレベル帯があったので、どうにか相手の強さが判断できたのだが、この世界ではどうも判断がつきにくい。


 どうしても実践でなんとなく「こいつは俺より強い……かな?」と意識することくらいしか出来ないのである。


 まあ今のところ、感覚的には、


 エンリケ≓俺>>バルド


 くらいの強さだろう。

 しかし、この場合、原作キャラにして主人公の父親、という明らかに優遇された「レイン」の強さがわからなくなってくる。

 

 あの状態のバルドを逃がすのか……。

 不思議である。


「そう言えば、なぜその賊に騎士団がやられてしまったのですか? 相手はたった1人でしょう?」

「ああ、最初は我々もそう思っていた。しかし、追い詰められた男はすさまじい、ということだ」

「というのは?」


 レインの表情が真剣味を増す。


「そうだな――あの男がスイッチを切り替えた瞬間がある。あの男が、剣先を一なめした瞬間、我々も言葉を失ったよ」


 だろうなと俺は思った。


 なるほど。そりゃそうだ。

 やっぱり騎士団とバルドの戦いはあまり上手くいかなかったのだ。

 そりゃ騎士団の人ともドン引きである。ボロボロで洞窟から出てきた男が、ぺろりと剣をなめたのだ。


「心中……お察しします」

「……そ、そうか。ありがとう」


 単純に想像しただけで、キツい絵面だ。

 ホラーである。


「だが、きっと相当の覚悟だったんだろう。あの男はこうも言っていたんだ。『俺の後ろには守りたい男がいる』とな。あの真っ直ぐな眼――」

「キッショ」

「ん?」


 まずい。本音が漏れてしまった。


「あ、いえ、き、興味深いな、と」

「ああ、そうだな。裏の世界で生きてきた男とは思えないくらい、熱い瞳をしていたんだ」

「熱い……瞳……!?」


 目を閉じて、何かを思い出すかのようなレイン。

 しかし俺はというと、徐々に背筋の寒気が強くなってきていた。


 なんだよ、『俺の後ろには守りたい男がいる』って。

 ……あの男はいつからストーカーまがいになってしまったのだろうか。


 殿を務めてくれるというから誘いに乗ってしまったが、とてつもなく悪手だった気がしないでもない。

 ゴクリとつばを飲み込む。


「で、でもまだ足取りを追えてないんですよね? バルドの」

「ああ正直、全くつかめていない。バルド、そしてそのバルドが命を賭して庇った男。おそらく相当の絆があったに違いない」

「いえ、そんなことは――」

「ん? ウルトス君、何か知っているのかい??」


 絆なんて有りません。

 思い切り斬っただけです。一発斬ったらなんかおとなしくなっただけです、ボクは無関係です。


 ……と思いっきり笑顔で言えたらどれだけ気が楽だったのだろうか。


 が、単なる公爵家の息子がそんなことを言っても笑われるだけに違いない。


「あ、いえ、世の中物騒だなあと思いまして……アハハハハ……」 


 もう笑うしかない。

 願うのは、ただひとつ。


 ――絶対に、絶対にあの男とだけは再開しないようにしよう、と俺は夜空に向けて誓うのであった。



◆◆◆◆◆◆



 と、そんなこんなで世間話はしたが、一向にレインが優れない顔をしている。


 が、俺は、すでに当たりをつけていた。

 レインは騎士団長であるが、地味に、息子のジーク君とは仲が良くないのである。


 偉大な父親の弊害というやつだろう。

 であれば……、


「ジーク君について何かあったのですか?」

「……ッ!」


 一瞬、レインの動きが止まった。


「まさかお見通しとは……、かなり聡い子のようだね」

「いえいえ。悩まれている様子なので、騎士団の半壊は現状建て直せているようですし、まあ、お子さんのことかなと」


 と適当にペラペラ。


「そう……だな。君になら頼めるかもしれない」


 レインが言いづらそうに首を振った。


「同世代の君なら」


 きたきたきた……!!!

 この展開。

 

 最高だ。同世代の君が友達になってくれ、とかだろうか。


 原作主人公と友達になれる……完璧な展開だ。

 先ほどはなんか冷たい反応をされたが、問題ない。せいぜいおこぼれに預かるとしよう。


「実は……ジークは魔力がほとんどないんだ。しかしこの前、ちょうど私がバルドの事件を担当していた時、ジークも村にやってきた何者かと交戦したらしくてね」 

 

 知っている。

 この前わざわざジェネシスの姿で対峙したのはそのためである。

 

 だけど、その敗戦で気がついたんだよね?ジーク君。

 魔力がなくても戦いたいんだ、と。


 大丈夫、ジーク君はなんたって将来の英雄。

 きっとジーク君はリベンジに燃えているはずで――











 ん???????????????????



「え? は? へ?」


 衝撃。

 頭を殴られたような気分。


 しかし、そんなこっちの様子に気がつくことなく、レインは「だから」と続けた。


「君がジークに戦うのをやめさせてくれないか?」


 え????


「戦うのをやめさせる……?」

「ああ、私に憧れているのはわかる。しかし、なんと言っても可愛い娘をそんな危険な目には――」


 後半、何かレインがごちゃごちゃ言っていたが、俺は全くと言っていいほど耳に入っていなかった。

 

『ラスアカ』の主人公はジーク君である。

そのジーク君が英雄を目指して、学園に入って色々とがんばるのだ。


 そのジーク君が戦わない????





 ……え???

『ラスアカ』、原作開始もせずに……終わるの????



 


―――――――――――――――――――――――――――――――



主人公

→原作が始まらなさそうになって、今さらながらジェネシス計画のガバガバっぷりに気がつく。


バルド

→ジェネシスの影の英雄っぷりに惚れ、自らの犠牲をいとわず死地を切り開いたが、本人からはストーカー扱いをされている。多分泣いていい。




そういえば、『クズレス・オブリージュ』正式に発売されそうです!!!

いや~、まさかですね。

こんなわけのわからない作品が世に解き放たれてしまった責任の一端は応援してくださった皆様にもあるので、ぜひご購入ください (ニッコリ




あと、また別のお知らせですが、

『お気楽令嬢は、婚約破棄にほくそえむ』という私の異世界恋愛の作品がコミカライズ化しました!


作品の内容としては、知的かつ清楚な令嬢が婚約相手からの嫌がらせにもめげず、真の愛を探す王道異世界恋愛ものになっています―――――――


というのは表向きで、はい。

自分が書いた異世界恋愛がそんなまともなはずがありません。

ざっくり言うと、今回の作品も勘違いもので、


自己保身に余念のないクズ系令嬢アンネローゼ(通称:クズ子)が自分を顧みない婚約者に対し、ニヤニヤと被害者ポジションを確立し、


「私……どんなに辛く当たられても頑張るの……ぐすん(嫌がらせ……!? よっしゃあ! 慰謝料ゲットォォォ!!!!)」


と、清楚ぶっていたところ、隣国の超有名王子がその様子を見て、


「そんな嫌がらせをされても……なんという美しい令嬢なんだっ!」


と無駄に勘違い。


「一緒にこの国を出よう!!」

「え、いや私は、その……あの……慰謝料的なアレを……」


恥知らずにも、もらった慰謝料でぬくぬく田舎暮らしをするというアンネローゼ(通称:クズ子)の思惑を完全に超え、事態は完全に暴走していくのであった――


と言うわけで、王道どころか、目一杯変化球の婚約破棄もの、となっています。

クズレスの半年前に書いた作品なので、クズ子はクズレスの姉貴分とも言える作品かもしれません。


お時間ある方は息抜きがてらぜひ見てみてください。

公式サイトとか、ピッ〇コマ様とかで連載しているらしいです。


――平穏に生きたいだけのクズ系令嬢アンネローゼが、勘違い(されまくり)すべてを滅ぼしていく様を見よう!!!


https://www.comic-brise.com/contents/okiraku/







コミカライズ化を軽い気持ちで引き受けたが、周りの作品があまりにも王道の異世界恋愛もの過ぎて、正直「このシナリオで本当に大丈夫か???」と、アウェイ感を隠せない作者より。

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