第12話 華麗なる友情コンボだドン! 

 ここで俺の計画――『ジャッジメント計画』を語ろうと思う。

『ジャッジメント計画』はこの上なくシンプルだ。


 ジーク君と、原作主人公と仲良くなる。そして、あわよくば「友達認定」をしてもらう。


 そう考えると、正直、今回父上が持ってきてくれた話は、思っていたよりも良い話だった。

 そもそも、俺は「原作ストーリーに参加して、主要メンバーとして活躍するぜ!」なんてつもりは毛頭ない。


 そんなのは自殺志願者だけだ。

 より過激化していく戦闘。エンリケのような微妙な冒険者と同等のレベルで喜んでいる俺なんて、すぐにお払い箱になってしまうだろう。

 ある程度の介入はするが、あくまで自分の平穏な生活のため。


 ……クズ?


 なんと呼ばれようが一向に構わない。

 だいたい、なんといっても俺はあの「クズトス」である。傍若無人の嫌われ悪役。

悪役と言ってもカリスマがあるタイプではなく、全方位から普通に嫌われて死ぬというしょうもない悪役。


 であれば、ストーリーを知っている、そのアドバンテージを最大限に活かせさせてもらおう。

 今回の旅で、なぜか知らないがやる気を失っているらしいジーク君にやる気を出してもらい、晴れて原作とは関係のないところでのんびりする。


 そう。

 つまり、!――これ一択である。


 バッドエンドを回避し、美味しいところをいただき、平穏なモブAとして生きていく。

 将来的に、世界を救った英雄となるジーク君や、現王家を打倒して後釜に収まるイーリスはいいコネにもなるだろう。




 そんなこんなで、俺は、屋敷の外れでジーク君御一行をお待ちしていた。

 時間は昼間。横にはリエラ。


 原作主人公との対面。

 そう考えると、期待に少し胸が高鳴ってくる。

 なんといってもあの原作主人公だ。ゲームをやっていて何度も活躍を見てきた伝説の英雄。


 ……まあ今は少年だけど。


 そうして。

 少し待っていると、ガヤガヤとした声とともに一行が現れた。


「……おぉ!」


 思わずテンションが上がってしまう。

 目のまえに現れたのは、4人組。先頭にいる、いかにも強者の雰囲気を纏っている男が、レインだろう。


 ゲームで見たまんまの姿。

 威風堂々とした大男。王国に名を馳せるリヨンの街の騎士団の団長である。


 その後ろにいる騎士も油断ない面構えをしている。

 その姿は正しく『強者』と言った感じだ。冒険者的なランクで言えば、A級くらいはあるかもしれない。


 聞いているか?

 エンリケ。ああいうのが本物なんだぞ。


 だが、俺の眼はすぐに後ろの人物へと注がれていた。


「……ッ!」


 四人の最後尾にいる人物。

 白みがかった白髪に、赤い瞳。四人の中では一番若い。他の人が見ても、レインの方を見てしまうだろう。


 だが、俺の眼はその1人に注目しっぱなしだった。 

 確実にただ者ではない雰囲気。まさしく主人公といった外見。


 あれが、『ラスアカ』の主人公。

 今は単なる女顔の美少年に過ぎないが、数年後に世界を救う、正しき英雄の姿である。


「よろしくお願いします」


 レイン、騎士へのあいさつもそこそこに俺は、ジークの方へと足を進めていた。


「やあ、ジークくん」


 そう言って、手を差し出す。

 そう、原作ではクズトスとジーク君の初対面は最悪だったが、ここでは友達になりに来たのだ。


「僕の名は、ウルトス。ウルトス・ランドールだ。今回は一緒に旅をするという縁だし、ぜひ仲よくしよう……公爵家だけど、家柄は気にしなくていいからね」


 ……どうよ????


 笑顔も忘れずに、最後には「身分なんて関係ないよ」と小粋なフォローも欠かさない。

 これぞ完璧なるモブ。悪役らしさなんかをまるっきり感じさせない、ちょっと人の良さそうな貴族のお坊ちゃんの完成である。

 

 ありとあらゆる創作で見た、人のいい貴族ってこんな感じだろう。

 俺はこの日のために、頭の中でシミュレーションをしまくっていたのである。


 ちなみに、その練習相手だったリエラは「なんでウルトス様がそこらの人間にそんな態度を……!」を苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。


 が、まあいいじゃないか。

 原作のジーク君は、自己犠牲を厭わず周りを大切にする、それこそ主人公らしさ満点の性格だった。だからこそ、友好的に接していればちゃんと友達認定してくれるはず――


 なのだが。


「…………」


 こちらを一瞥して、差し出した手を無視して歩いていくジークくん。


「え……?」


 人の良い主人公……のはずなのだが。

 こちらを無視して歩いていく原作主人公。


 俺は呆然とつぶやいた。


「じ、ジーク君……?」



 俺たちが目指すのは、ここグラセリア王国の北方のとある都市である。

 そしてその都市までは、そこそこの距離があるので、馬車で移動する手はずとなっている。


 が、すっかり俺は混乱していた。

 だって、おかしい。俺の完璧な計画――ジェネシス計画によって、ジーク君は強敵と戦いやる気を出したはず。


 しかし、馬車で目の前に座るジーク君は控えめに言っても、やる気を出していそうな雰囲気には一ミリも見えなかった。

 ここで、一例を紹介してみよう。俺とジーク君の車内の愉快な会話はこんな感じであった。


「そ、そう言えばジーク君の出身の村を見かけたことがあるけど、良い村だよね」


 噓ではない。夜にちょっと見かけたことがある。

 ジェネシスとしてジーク君に襲い掛かった時だけど。


「………………」


 が、ジーク君から帰ってくるのは無言のみ。興味無さそうに窓の外を見ている。


 うん、おかしい。

 当初の想定だと、


俺『やあ、ジーク君! 友達になろうよ!』 

ジ『ああ、僕たち親友だね!』


 という華麗なる友情コンボが決まり、


俺『親友ってことはさ、僕が危機に巻き込まれたら助けてくれるってことだよね!? ジーク君!』

ジ『ああ、親友の命は僕が守るさ! 命に代えても!!』


 となり、


俺『じゃあ、特別に魔力なしでも強くなれる方法を教えてあげるね!! ジーク君』

ジ『ありがとう!! 辛い修行を乗り越えて君を守れるようになるよ!』


 まあ途中、男同士の友情にしては愛が重すぎるような気もしなくもないが、基本的にはハッピー・モブエンドにつながるはずだったのに……。


 仕方ないから俺は攻め方を変えることにした。 

 横のリエラに視線を移す。リエラは先ほどからメモを広げて何かを書いている。


 美人なメイドが一生懸命メモを取っている様子は目の保養だ。

 まあジーク君は基本的に男主人公だし、美人のハーレムを作るくらいだろうから、リエラに会話をつないでもらうのも悪くないかもしれない。


「リエラ、何を書いているの?」

「……ウルトス様……少し恥ずかしいのですが」


 おやおやなんだろう。


「いやいや、もったいぶらず見せてよ」

「個人的なメモなので恥ずかしいです」


 恥ずかしがるリエラから受け取り、中身を確認する。

 馬車の外は景色がいいし、風景のスケッチとかかな?


 が、


「あれ?」


 びっしりメモに書かれていたのは――


『ウルトス様を無視すること:4回』

『ウルトス様の目線に合わせないこと:6回』


 というジーク君の狼藉の数々だった。

 いやいやいやいや……、まあ確かにジーク君そう言う態度取っていたけどさあ。


 ちなみに、次のページには「呪」と大きく書かれてあった、怖すぎる。


「えぇ……」

「そ、そんなに見ないでください……恥ずかしいです、ウルトス様」

 

 少し顔をうつむかせるリエラ。

 ……リエラ。悪いけど、俺には怪文書にしか見えなかったよ。


 無言が支配する、気まずい車内。

 俺は馬車の天井を見つめ、こう思った。


 ――『ジャッジメント計画』……マジで大丈夫か???と。




 そして、その気まずさのまま夜になった。

 目的の都市までは遠いので、それ相応に時間がかかる。


 すなわち、野宿をすることになるのである。


 が、俺はリエラに頼み込んで、みんなから離れた所で一人にしてもらっていた。

 

 夜空を見ながら頭を抱える。どう考えても良くない。

 もう、頭痛のレベルである。具合悪くなってきたじゃねえか……。


 ちなみに、俺は今回もカルラ先生のネックレスを持ってきている。

 その不幸が俺に襲い掛かっているのだろうか。


 そんなことを考えていると、ふと、


「ウルトス・ランドール」

「はい?」


 声を掛けられた。

 一体俺の休息を邪魔するのは誰なのか。渋々振り返る。

 そこにいたのは――


「……”英雄”のレイン。何か、ご用ですか?」


 俺は早速嫌な予感がしていた。

 目の前にはジーク君のお父様。


「いやあね」


 柔らかな物腰。が、その眼は笑みを称えていない。

 当代の英雄が言う。


、ランドール公爵家のご子息と、少しばかりお話をと思ってね」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ウルトス→見通しが甘い

ジーク君→心を閉ざし中。もちろん友情コンボを決める余裕なんてなかった


ちなみに、3章のテーマは 正 統 派 ヒ ロ イ ンを召喚することです。

コメント、評価等いつもありがとうございます!!

書籍化作業、頑張っています!


「最近の作品にしては男比率がやけに高いですね」と編集部より謎の誉め言葉(?)を頂いた作者より。



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