エピローグ(偽) ラスト・オブリージュ


「お、どうだったよ?」

「………微妙だった」


 もう訳が分からないほどぐちゃぐちゃになってしまった市長室の窓から抜け出した俺は、少し入った裏路地でエンリケと待ち合わせをしていた。


「へえ。交渉が決裂したのか?」

「いや、なんか自分のギルドの名前を叫ばれて気絶された」


 聞いた瞬間、エンリケの顔が途端に微妙な表情になった。


「なんだよそりゃ」

「俺に聞かないでくれ」


 狂人の思考回路はこれだから分からない。

 俺も閉口しながら返事をした。


「もう、訳がわからん」


 

 ◆


 そんなこんなで。


 俺とエンリケは、リヨンにあるランドール家の屋敷に戻っていた。

 正直、もう朝である。

 

 俺は疲労困憊だった。

 早く寝たい。


「でもよ、これで終わりだよな?」

「あぁ、問題ないよ。少なくとも現時点では≪明るい夜≫は壊滅状態だ。もう一度、動き出そうとしてもだいぶ時間がかかる」


「なるほど。まあそもそも、坊っちゃん1人にギルドを潰されかけたって公表するわけにもいかんだろうしな」


 そう。

 現状、俺とあのクズ市長は膠着状態だ。

 

 幸か不幸か、俺と市長はどちらも表で結構な立場がある。


「仮に変な動きを見せたら、また同じことをやればいい」

 

 要するに、組織が成長するまで待たなきゃいいだけの話である。

 きっと俺とグレゴリオはお互い微妙な距離のまま、牽制しあって行くのだろう。


「ご党首の評判も守れそうだな」

「まあね。アホな貴族はまだパーティー会場で寝かされてるかもしれないけど、いい薬だろうさ。幸い、父上と母上は途中で屋敷に戻したし、あの2人は何も言われない」

「じゃ、騎士団の方も問題なさそう、か」


 そうだな、と俺は応じた。

 きっと騎士団はさくっと自首した満身創痍の男・バルドを捕まえて終わりだろう。

 

 そして、惨劇の舞台となるハーフェン村も………うん、まあ、あれはあれでよかったんじゃないだろうか。

 俺は一生近付かないけど。


 

 そして。


 歩いていくと、やがて大きめな屋敷が見えた。

 ランドール家の屋敷である。




「ウルトス様〜〜!!」と上の方から声がした。

 

 見上げると、屋敷の3階の窓から顔を出すリエラ。

 

「お。あのメイド、ずっと起きてたんだな」


 あいつも根性あるよなあ、と俺の横でしみじみ言うエンリケ。


「じゃあ、俺は屋敷に戻るよ。寝たいからな」

「俺は久々に街に出てきたからな、酒だ酒」


 じゃあな、と言い、エンリケに背を向ける。


「そう言えば」と、後ろからエンリケの声が聞こえた。

「これからどうすんだ? 坊っちゃんは」


「あ~」


 これから、か。 


 俺はこれからの原作のストーリーを思い出していた。


 主人公ジーク君は、敗北から立ち上がり、来るべき学院入学に備えて修行を開始する。

 イーリスも着々と力を蓄えるはずだ。

 

 グレゴリオは……うん、まああいつはいいや。一応は優秀なのだから、俺に関係ない程度に政治を頑張ってくれ。


 そうして、落ちこぼれの村人、ジーク君が学院に入学してから、運命は回り始める。 

 いろいろな可愛いヒロインや、強大な敵と切磋琢磨し合いながら、ジーク君は頑張ってくれる。



 認めるよ。たしかに、ジーク君の学園ラブコメは楽しそうだ。




 ――が、しかし。


 正直、これから出てくる化け物たちに、俺は敵うつもりなんて全然ない。


 Sランク冒険者を始めとした強者どもがうようよ湧いてでる、というイカれた世界観。


 騎士団だって本部の組織力はもっとヤバいし、王都の中央貴族とかはもっと極悪人ばっかだし……。

 それに、果ては伝説の龍だとか、20000年前に封じられし魔神とかね。


 なんで学び舎の地下に、危険な封印術式ごと化け物が封じ込められてるんですかねえ……????


 教師どもは狂っているのか???

 それともやつらは安全、と言う単語を知らないのだろうか?



 もう、訳がわからない。

 もっと言うと、それらを普通にしばき倒せる村人のジーク君が一番意味が分からなかったりするのだが……。


 気を取り直す。


「もはや、俺になすべき義務はないさ」 


 そうエンリケに言う。


 まあいい、やっとだ。

 リヨンのイベントを乗り越えた。死亡フラグもない。清算したいクズ行為もない。


 もはや、俺にはなんの義務オブリージュもない。


 そう、


 おれはやっと――


「普通の人生に戻れる」


 と、その時。

  

「アッハッハッハ」と言う爆発したような笑い声が後ろから聞こえた。


 心底楽しそうに笑うエンリケ。


「いやいや、坊ちゃん。無理だぜそりゃ。アンタは一生そのままさ」


 俺は屋敷の門をくぐった。

 いやいや、見てろよ、と振り返らずに返答する。


「これからはストレスフリーなモブ生活だ」


 そう。

 俺の計画、『クズレス・オブリージュ』はここに成った。


 

 あとはのんびりダラダラ、主人公の横の横くらいで、


「が、頑張れよジーク!」「お前ならずっとやるって思っていたぜ!」などど勝手なことを抜かしておけばいい。


 紅茶でも飲みながら―――





 屋敷の階段をどたどたと走る音が聞こえてくる。

 リエラも必死に玄関に来ようとしているみたいだ。


 ようやく輝きだした太陽。



 その太陽に、俺はこれからの輝かしきモブ人生の予感を感じた―――

 






























 ような気がしたが、ところがどっこい人生はそう甘くなかった。

 

 俺の『クズレス・オブリージュ』計画が1ミリも進んでいない、どころか、4歩くらい後退していることに気が付くのは、それからちょうど3日後のある晴れた昼下がりのことである。







――――――――――――――――――――――



『クズレス・オブリージュ』

→ガバガバ計画。「今年こそは、夏休みの宿題を早めに終わらせるぞ!」と意気込む小学生と同レベルのガバガバ具合を誇る。


エンリケ

→「……(ギャグだよな?)」


リエラ

→けなげに待っていた美少女メイド。運動神経は悪い。


『ラスアカ』

→美少女とイチャイチャもでき、戦闘にもやり込み要素あり。権力争いもできる。が、後半の難易度は鬼畜の一言。




※ラスト、今日中に投稿できたらいいなぁ……(白目)


→読者の皆様へ。すみません。残業によって無事死亡したので明日の12時頃投稿します(2023/02/03/22:32)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る