第50話 未来への確信


 深夜のばか騒ぎ。


 俺がハーフェン村の新たな惨状に絶句していると、「ふふっ」と横にいたイーリスが村の方を指をさした。


「これも、きっとあなたの仕業なんでしょうね。ジェネシス」

「……………………」


 が、俺は答えられなかった。

 

 たしかにエンリケをお使いに出したのは俺だが、こんな空気の読めない宴会を開くほど、ジェネシスはバカではない。


 創作物に出てくる仮面を被ったキャラクターたちは、基本的にこんな飲み方をしないのである。 

 せめて、やるなら、もっとこう………事件が終わった後に、1人でバーでグラスを傾ける~とかそれくらいだろう。


「……うそで……あってくれ」


 小声でつぶやく。


 信じられなかった。

 もちろん俺は、今回の事件を機にジェネシスとは金輪際、手を切るつもりだったがそれにしてもひどい。


 自分の生み出した人物――ジェネシスの行動理由が、俺にもわからなくなってくる。

 え、仮面かぶって正体隠しているくせに、こんな大宴会開いちゃうの???といった感じである。





「そ、そう言えば、話は変わるが――」


 正直、もう訳が分からなくなってきたので、話を変えることにした。


 現在進行形で惨劇が起こっている村から目を離し、彼女を見据える。



 同時に、俺はそもそもの計画を思い出していた。


 彼女を助けたのは、ウルトスに対するマイナス感情をどうにかしてもらうためである。

 原作主要メンツの彼女だけには嫌われてはいけない。


「………………」

 

 彼女の表情を盗み見る。


「……な、なんですか急にそんな……」


 と、イーリスは夕方会った時とは大違いで、しおらしい。いつもの強がりがないおかげで、ストレートな美少女、といった感じがする。

 

 なるほど。


 そう言えば、彼女はいわゆる強気でツンデレ気味なヒロインだが、一度心を許すととても女の子らしい一面を出してくる。

 つまり、彼女がこんなに柔らかい表情をしているということは、多少はこっちに心を開いてくれたのだろう。



 さて、何を話そうか――



 そう思った、その時だった。

 

「……ジェネシス!!」と彼女が大声を出した。


「ん ?」

「その………私、まだまだなんです。家での立場も弱く、強さもなく、社交界での発言力もない。何もないんです。そんな私でも……」



 一息つく彼女。



「――あなたのように、なれますか?」



 彼女の口から、言葉が絞り出された。


 苦しそうな表情の彼女。

 きっとこれまで否定され続けてきたのだろう。


 


 ――だが。


「なれるさ」


 至極、あっさりと俺は言い放った。


「というより、俺なんかよりよっぽど強くなる」



「……え」





 ◆





 なぜなら、



 イーリス・ヴェーヴェルンは田舎の男爵の妾の子……などではなく、その正体は、途絶えたと思われている王家の末裔。

 つまり、王族の血筋を引くとんでもないレベルの高貴なお方である。



 イーリスルートでは、彼女は徐々にその資質を示し、今のグダグダ腐敗しまくりの王家を叩き潰すことになる。


 ちなみに我らがクズトス先生は、男爵令嬢と侮り、嫌がらせしまくった挙げ句、彼女の出自が明らかになってもそれを信じず、最終的に彼女に廃嫡されることになる。


 クズトス先生……俺が言えた義理じゃないけど、もうちょっと相手を見ようぜ………。




「本当ですか? なぜ、そんなことを言いきれ――」


 目を曇らせるイーリス。

 おれはそんな彼女に向けて、言い放った。


「俺は確信しているからだ」


 そして原作知識からです、とは言えないので、ぼんやりごまかす。


「辛いこともあるだろうさ。だが――明けない夜はない」


 ちょうど、空も微かに白み始めていた。


「そんな………」


 一瞬の静寂。



「………アッハッハッハ………なんですかそれ。人が必死に聞いたっていうのに………」


 彼女が晴れやかに笑った。

 笑いをこらえきれない、と言った風に。


「不思議です。今日初めて会って、顔も知らないのに――あなたの言葉は、ずっとまっすぐに未来を見据えている」

「適当なだけだ」


 いいえ、とイーリスが首を振る。


「貴方の先ほどまで命を奪い合っていた相手の心ですら、動かした。あのバルドという人も、最後はどこか楽しそうに見えました」


 そんなこともないが………。


「まあ、そのなんだ。つまり――期待している」


 というか世界を救うのだから、俺程度で満足してもらっては困る。




 ◆




 そうして、ハーフェン村の方に、去ろうとしたとき。


 俺は、ふと本来の目的を思い出した。

 ランドール公爵家の嫡男のことをどう思っているんだ?と聞いてみる。


「あぁ、あの場面も知っているんですね。というより、何を知っていても不思議じゃない、か」


 そういう彼女。



 俺は、覚悟していた。それなりに嫌われているんじゃないか、と。


 ――が。


「大丈夫ですよ。むしろ、私はやる気が湧いてきました。見ていてください」


 ………やる気???



 しかし、その「やる気発言」の真意を聞き出す前に、彼女は笑顔で去っていた。


「まず襲われた馬車や御者を探さなきゃいけませんから。無事だとよいのですが」



 ――では。また、






「いやあ……」


 1人残された俺は、なんとも言えなくなっていた。




 なぜなら、最後に見た彼女の笑顔は、モブ人生にすべてを懸ける俺をもってしても、見惚れてしまうほどいい笑顔だったからである。


「やっぱメインヒロインすごいな」


 俺はしみじみつぶやいて、ハーフェン村の無事を確かめるため、


 いや、もっと言うと、この宴会の主犯格であるエンリケを問い詰めるために、ハーフェン村へと歩いて行った。



――――――――――――――――――――――――――――――



主人公

→最終的に一国を取れる器なので、「妾」発言だけは何とかしたかった。許された………はず???


イーリス

→仮面の男の自信に満ち溢れた助言により、大幅にやる気アップ。改めて、心の中で闘志を燃やす。仮面の男――ジェネシスとの再会を誓う。

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