閑話 弟子に負けるな! カルラ先生!!!


 可愛いヒロインが少ない、というコメントが来たので、正統派ハーレムヒロインを投入しました。たぶん、これでハーレムタグが正常になるはずです。



―――――――――――――――――――――――――――――――――




 月明かりの眩しい夜。


 カルラ――王国でも魔法の腕に限って言えば、5指に数えられる指折りの魔法使いは、現在、自宅で悩んでいた。


 滅多に揺れることのない彼女の怜悧な眼が揺らぐ。

 彼女の心配の矛先はただ1つ――


「大丈夫かな。ウっくん……」


 そう。

 他でもない自分の弟子のことだった。





 ◆




「僕ちんは~」とわざと愚かなように振舞い、自ら道化の仮面を被る少年。


 そのウルトスを弟子に加えたカルラは、修行を始めていた。


 もちろん、カルラは、彼に非凡なものを見ていた。


 珍しい、【空間】の属性。

 だから、才能はあるだろう、とカルラは魔法の基礎を教えた。



 ――が、弟子の才能は、彼女の想像の上を行っていた。



「わ、我が弟子……なにそれ」


 実際、ウルトスの飲み込みっぷりは群を抜いていた。

 しかも、ただ単に魔法の基礎を習得するだけではない。


 例えば、彼はMPという計算式により、本来、感覚でしか把握できないはずの残存魔力量を、きわめて正確に把握することができていた。


「え、じゃあ、《火球/ファイヤー・ボール》のMP使用量は?」

「5くらいじゃないですか。まあ、適正がある使い手にとっては、もうちょっと下がるかもしれません」



 凄い、とカルラは思わずつぶやいていた。

 

 位階魔法のそれぞれに対し、消費する魔力の量を的確に言い当てている。

 この時点で研究者になれるんじゃないか、とも思う。

 

 才能。



 ランドール公爵家の嫡男は変わり者だった。


 貴族でありながら剣術もする。

 エンリケ、とかいうよくわからない風貌の男と、一緒に剣の修行をしているのを見たことがあった。


 普通の人は、自分が適正がありそうな方に絞るものだ。

 ウルトスほどの才能があるのであれば、普通は魔法に費やした方がいいのに……。



 でもカルラは、弟子に魅力を感じてしまっていた。

 ウルトスに宿る、美しくも妖しい輝きに。



 ◆



「じゃあ、我が弟子。何か、空間の魔法を思い描いてみて」

「はい、わかりました……」



 が、ふとカルラが違和感を感じたのは、ウルトスの魔法の運用方法だった。


 ――なんでもいいから、自分の思う魔法を考えてきて。


 こう言われたら、普通の子供はカッコいい魔法を考えてくる。


 かつてのカルラもそうだった。

 だから、カルラもそう期待していたのだが――


「え、空中に壁を作る?」


 不思議なことに、弟子が作る、というのはそんな子供の空想とはかけ離れたシンプルな魔法だった。


 ハッキリ言って、不思議だ。 

 だいたい、子供の魔法はあきれるほどロマンの塊で、熟年者になっていくにつれ、シンプルにそぎ落とされていくのだが……。

 ウルトスは最初から、きわめてシンプルな魔法を考えてきた。


「ほ、本当にこれでいいの? なんかもっとこう……カッコいい感じじゃなくて??」

「いやあ、実用的な方がいいかと思って」


 そう言って、ほほ笑むウルトス。






 ――胸に忍び寄る、違和感。






「え?」


 そして、カルラが決定的なことに気が付いたのは、ある事件がきっかけだった。


「も、もう一回言ってくれる???」

「あぁ、だからわざと魔力を枯渇させて~」


「…………………んなっ」


「こういう方法ってありですかね?」とウルトスに言われた方法は、明らかに常軌を逸していた。


 人間の魔力、自らの体内で魔力を意図的に枯渇させ、結果として増幅させる。


 いやいや、とカルラは震えた。


 ――そんなの、だよ、と。



 王国の魔法使いは、ほとんど『協会』と呼ばれる組織に属している。そして、その協会で、きちっと決められた禁則事項があった。


『人体に対する魔法実験の禁止』。 


 当たり前である。そんなのしちゃいけない。


 ウルトスの発言は、この禁則事項を余裕で飛び越えていた。一歩間違ったら、身体中の組織がめちゃくちゃになって自壊するだろう。

 身体が大丈夫だとしても、精神がそれに耐えられるかはわからない。


 一歩間違ったら死ぬ。生き残ったとしても精神が壊れる。

 ありえないほどに、危険な方法。


(ウっくん……この子、どれだけ力を欲しているの???????)


 カルラは恐怖した。


 人の魔力量は、生まれつき決まっている。

 だから、誰もそんな生まれつきの魔力量をどうにしかしようなんて思わない。


 手がもう1本あったら便利だから、という理由で手を生やそうとする人間がいないのと同じ様に。



 しかも、


(ウっくん、魔力量あるじゃん!!!)


 カルラはそう言いたかった。

 そもそも、この少年は魔力の使い方が上手いのだ。だから、保有する魔力には確実に余裕があるはず。

 

 なのに、この少年はさらに力を求めている。


 そうだ。

 そう考えればすべてつじつまが合う。あの奇妙な空間魔法も、魔法の才能があるのに、剣術にあれほど力を入れている理由も。


 彼は、魔法に


 もちろん、彼は魔法研究の才能があるのかもしれない。

 が、それを覆すほどに、戦闘者として、力を求めている。


「わ、我が弟子……」


 カルラは真っ直ぐ少年を見つめた。

 少年は穏やかに、笑う。



 だからこそ、わかってしまった。

 

 この少年は全てを捨てようとしている。

 力以外のすべてを。



 ――それは"求道"。

 

 力を求め、それ以外のすべてをそぎ落とす、


(ダメだよ、ウっくん……)


 カルラは知っていた。

 それを求めた結果、人間の道を踏み外した人間は山ほどいる。


(そっちの道には、何もない……その道を進み過ぎたら、"人"じゃなくなる!!!)


 

 だから、次の瞬間。


 


 


 カルラは少年を抱きしめていた。

 



「そ、そんな方法死んじゃう………!!! 私が何でも助けてあげるから、なんでも言うことを聞いてあげるから、辛いときはずっとそばにいてあげるから……!!! だからこそ、そんな真似だけはやめて………!!」


 涙を浮かべ、少年に抱き着く。

 戻ってきて、と。


「……えぇ」という声。


 さらに追い打ちをかけるように、カルラは少年の手を取り、自身の胸に当てた。

 

「どう?」

「何がです!?!」

「私の心臓の音。ね? あったかいでしょ、我が弟子。人の心はこんなにも暖かいんだよ」

「……は、はぁ」


 目を白黒させる弟子。

 カルラはそこに希望を持った。まだ大丈夫だ、と。


 この少年は、まだ引き返せる。

 自分が導いてあげないと。


「ち、痴女だ……」と、ウルトスがつぶやいた。


「む!」


 痴女。

 聞いたことがある。

 

 男性に対していやらしい行為を繰り返す女性のことだ。

 たしかに、ランドール領は治安がいいけど、近ごろは物騒だし、そういう女性も出現するのかもしれない。


「大丈夫だよ、我が弟子」


 痴女に不安を覚える弟子に対して、カルラは胸を張った。

 ウルトスの手を自分の胸に押し当てながら。

 

「私、結界とかも張れたりするからね。痴女には負けないから、何でも言って」


 きっとこれで弟子も安心してくれるはず。


 ――が、


「あれ??」


 滅多なことでは平静さを失わないウルトスが、「……うっわぁ」と冷や汗をかいていたのが、カルラには印象的だった。



 ◆




「今頃、リヨンかあ……」


 そんな愛弟子とのやり取りを思い出しながら、カルラは月を眺めていた。


「きっと、久々にご両親と会って、街の観光とか楽しんでるんだろうな~~。それとも夜だし、もう眠ってる頃かな」


 もちろん、同時刻、まさか弟子が謎の仮面を被って、闇ギルドと全面戦争をしていることなどつゆ知らず、彼女は悩んでいた。



 どうやったら、彼に、あの少年に人の暖かさを教えることができるだろうか。



 そして、彼女の考え付いた方法は――








「人の温かさ………む! 添い寝とか……?? いいかも……」 



 1流の魔法使いは、常識がない。

 そんな例に漏れず、彼女の思考もだいぶ




 ――アレだった。



――――――――――――――――――――――――――――


カルラ先生

→無表情クーデレ妄想爆発系激重年上チョロイン。年下の少年の手を取り、自身の胸に押し付ける痴女。主人公のことを、「我が弟子!」と呼んでいるが、本人がいないところでだけ、「ウっくん」呼びをしている。いいおっぱいをしている。


主人公

→「(土台代わりにして、高いところにあるものを取ったりとか、日常生活で使えるような)実用性のある魔法がいいですね」


エンリケ

→どちらかというと坊ちゃんのストッパー側の人間だが、カルラ先生からは「こいつのせいで、ウっくんが闘いの道に……!」と若干嫌われている。たぶん、そろそろ泣いてもいい。



本日2回投稿します。本編も後5、6話くらいですたぶん。

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