閑話 ハーフェンの激闘 side:バルド



 ――アジトの入口付近。




「まったく……最後の最後まで」



 騎士団が準備を整えているであろう入口に向かいつつ、バルドは愚痴っていた。


「お前との戦いで、こっちはボロボロなんだよ」


 実際、そうだった。

 身体はボロボロで意識も朦朧としており、魔力も底を尽きかけている。


 なのに。


『――また、闘おうな』


 仮面の男から最後にかけられた言葉は、ひどくさっぱりしたものだった。


 殺し殺される間柄にも関わらず、交わされた爽やかな言葉。


 しかも、


……俺が死なない、と信じ切っているような口ぶりだったな)

 

 ジェネシスは、とことん最後までムカつく男だった。


 リヨンの騎士団は英雄のレインを筆頭に、精強でもって知られている。そんなの相手にして、足止め。

 生きて帰れない可能性のほうが高い。

 

(全く……どこまで甘っちょろくなってしまったんだが)





 そして。


 ようやく、アジトの入口に着いたバルドはゆっくりと姿を表した。


「……誰だ!?」


 目の前には、アジトを囲うようにしている完全武装の騎士たち。 

 そして、その中にいる一際大きい男が、例の英雄・レインだろうか。


「……怪我人か…!?」

 

 警戒しつつ、こちらを見てくる騎士。


 いたって普通の反応だ。こちらの負傷具合を見れば、誰だって被害者だと思うだろう。


 正直言って、自殺志願もいいところだった。

 万全のコンディションでも勝てないであろう相手に対し、こっちは負傷しているのである。


 ――だが。

 

 バルドは、

 己の胸の内に、火が着いたような感覚。


(こんな状況で、我ながら、か。大層イカれてるな……これもあいつの馬鹿が移ったせいか)


 思わず苦笑し、剣を構える。


 バルドの構えを見たのだろう。

 応じるようにして、一斉に、騎士団も構える。


「その傷。何があった? なぜ構える? 大人しくしていれば、危害は加えない」


 レインが、野太い声で尋ねてくる。


 それは、降伏の勧告。

 

 が、


「いや」と、バルドは、それを無視した。


「俺の後ろには、ある男がいてな。そいつのために、少しばかり、足止めをさせてもらう」

「――ほぉ」


 レインの暖かな雰囲気が変わった。


「なら、力強くで話を聞かせてもらうぞ」




 瞬間。

 隊列を組み、押し寄せてくる騎士たち。


「ハッ」



 目を閉じる。


 行うのは、いつもの行為。

 戦闘前のルーティーン。

 


「――≪影よ≫」





 目前に迫る騎士たちを前に、





 男はただただ、





 




 





 



 ――ハーフェンの激闘。


 突如として現れたボロボロの男・バルド。満身創痍に見えた彼を倒すのは、騎士団の精鋭にとっては、容易なように思われた。


 が、男の実力はすさまじく、騎士団を相手に一歩も引かず、互角以上の戦いを繰り広げた。


 こうして後に、『ハーフェンの激闘』として世に謳われる伝説の闘いが幕を開けたのだが、その始まりが、割と些細な言葉のすれ違いにあったことはあまり知られていない。



―――――――――――――――――――――



自首するだけだから死ぬわけがないと思っている主人公

→「(さっさと自首して、そのうち)また、闘おうな」


すっかりやる気になったバルド

→「ほぅ……(今ここで、騎士団を全員倒して)『また、闘おうな』か」




『悪役転生』の次は、『剣ペロ』が流行ってくれればいいなと常々思っています。

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