第47話 闇を切り裂く閃光
バルドが出してきた必殺技を何でもないようにかわすと、辺りは静まっていた。
衝撃を受けたようなバルドの顔。
「さて、最後の一手が埋まったな」
そんな謎の人物らしく気障っぽいことを言う俺だったが、内心、思うことはただ1つだけだった。
――ちゃんと用意しておいてよかった、【空間】の魔法。
◆
――時は過去にさかのぼる。
「はぁ………マジでどうしよっかな。魔法……」
エンリケと『モブ式戦闘法』の訓練を始めたのと同時期、俺は、胸部分をくり抜いたチャイナ服、といったらいいのか。完全に痴女にしか見えない美女――カルラ先生から、課題を言い渡されていた。
「何か、君の属性である【空間】っぽい魔法を考えてきて」
と一見、冷たさを感じさせる美女が言った。
「域外魔法の場合は、位階が上手く整理されていないから、個人のイメージに強く依存する。だから、考えてきて。君が思う、君が使いたい、とびっきりの魔法を」
なるほど。俺の属性は、【空間】。
要するに全然、セオリーもクソもない謎属性である。
だからカルラさんは、何でもいいから好きに魔法を考えてきて、と言ったのだろう。
しかし、
「魔法ねえ………」
そう言われた俺は、屋敷で悩みに悩んでいた。
もちろん、俺は原作をプレイしたこともあるので、原作知識をバリバリ利用できる。やろうと思えば、ラスボスの専用の空間魔法をパクッて「自分で考えました!」と提出すれば、強い魔法を幼少期から使えるかもしれない。
が、俺はめちゃくちゃ迷っていた。
そもそも、本当に強い魔法を習得すべきなのか?と。
――魔法は強ければ強い方がいい。
これは世間の常識となっている。第1位階よりは第2位階の方がいいし、第2位階よりは第3位階………と。誰だってそう考えている。
でも、あまり俺は「原作知識をフル活用してやるぜ!」という気分にはなれなかった。
なぜなら、
「『ラスアカ』の後半の火力、マジでいかれてるんだよぁ……」
これである。
『ラスアカ』は後半になればなるほどインフレしていく。
たとえば、序盤では第1位階の魔法や第2位階の魔法でキャッキャ言っているが、最終的には、第10位階まで習得できる。
第1位階の魔法としては、《火球/ファイヤー・ボール》などが有名だろうか。
炎の球が飛んでいく、というファンタジーで、おなじみの魔法。
が、話はここから急に怪しくなっていく。
第10位階クラスになると、インフレに伴い、魔法も尋常ではなく高火力になっていくのである。たとえば、俺がぱっと思い出せる第10位階の魔法は、こんな感じのラインナップだ。
・《最終殲滅戦争/アルマゲドン》
・《天穿つ暁の凶星/メテオ・レイン》
・《楽園失墜/フォール・オブ・エデン》
・《永久狂気千年帝国/エターナル・デザイア》
・《未だ見果てぬ夢/ブラインド・アイ》
などなどなど。
……………………………ハイ。
この字面から、おわかりいただけただろうか。
たしかに、ゲーム内では俺は純粋に遊べていた。火力の高い魔法を覚えては、狂喜乱舞したものだ。
が、しかし、あえて言おう。
強い魔法を習得できたとして、これ、唱えられますか?と。
ちなみに、この中では一番かわいい規模なのは、《天穿つ暁の凶星/メテオ・レイン》だ。
空一面に流星が飛び交い、周りの敵もろとも、すべてを一瞬で灰燼に帰す、という素晴らしく爽快な魔法である。高火力過ぎて泣けてくる。
「いや、無理だろこれ………」
もっと言えば、【空間】の魔法だって負けちゃいない。
例えば、空間魔法の中でも、ラスボスが初手から放ってくる魔法がこれだ。
《超次元追放/ディメンション・スレイヴ》
そして。
その魔法のテキストはこんな感じだった。
『指定した相手に極大のダメージ。次元の彼方、亜空間に千年間追放する』
……………………!?!?!???????
俺は言いたかった。
いらないよ、こんなの、と。
原作知識がクソの役にも立たない。
なんでこのゲームは脳筋が跋扈し、イカレ火力の魔法使いたちがうごめくのだろうか。
ひどすぎる。
18禁ゲームの癖に意味が分からない。
「あぁ~なんか隣の人ムカつくな。そうだ!亜空間に千年間追放しようかな」などというやつがこの世にいるのか???
せっかくモブ式で目立たないようにしているのに、魔法で目立っては意味がない。
俺は必死に考えた。
「戦闘用だけじゃなくて………なんかこう………将来の日常生活にも役に立ちそうな魔法…………」
そう。
ラスボスの魔法は攻撃的すぎるから却下。
かといって、原作クズトスのように、スケベ魔法を開発、というのは羨ましいっちゃ羨ましいが、メインヒロインの一角から出された課題に、スケベ魔法を持っていくのはリスキーな気がする。………。
使いやすそうなのは、主人公の空間魔法だろうか。
主人公ジーク君が最終的に使えるようになる空間魔法は、仲間を守る大きなバリアを展開する、とかそういう感じである。が、それにしたって、めちゃくちゃ時間がかかりそうだ。
もっとこう、実用性がある魔法が欲しい………。すぐ使えて、シンプルで地味で、なおかつ将来的に闘いとは関係のない場所で役に立つような。
俺は何日間も悩み、そして、やっと答えを手にした。
それが――
数日後、俺は意気揚々と、カルラさんにこう告げた。
「局所的に空間に壁を作ってみようかと思っています」
「壁?」
不思議そうな顔をするカルラさん。
つまり、こういうことである。
主人公の空間魔法で、仲間を守る大きなバリアというものがあるのだが、これは結構難易度が高いし、経験値も要求されたような思い出がある。
そこで、俺はこう思った。
――もっと小さくてよくない??と。
要するに、大きくバリアを展開するのが難しいとしよう。
なら、局所的に、ピンポイントでバリアを展開すればいい。
「で、でもいいの……そ、そういう魔法で? なんかこう……地味っていうか」
そう問われた俺は笑顔で答えた。もちろんです!と。
「実用的かなって思います」
「そ、そうなんだ……………」
そして、始めてみると意外にすぐできた。
もちろん、半透明の壁らしきを作れたとしても30㎝くらいの大きさしかない。足場にできる程度の堅さはあるが、持続するのは3秒ほど。
3秒経てば、ふわっと消えてしまう。
なぜか、心配そうに俺を見つめるカルラさんの前で、だがこれでいい、と俺は思っていた。
何か物に手が届かなかったときに、空中に足場のようなものを作り出すことができる。
うん、便利だ。
俺がやりたいのは、ふわふわスローライフのモブ日常。
いかれた戦闘は俺じゃなく、主人公が担当してくれるはずである。
そして、何を隠そう。
――このお手軽・壁魔法は、意外と、モブ式戦闘法との相性が抜群に良かったのである。
◆
意識を現在に戻す。
「――あと一歩は足りたようだな」
俺がそう言うと、呆気にとられたようなバルドが、顔色を変えた。
「ふざっ、ふざけるなァ!!!!!!」
先ほどと同じく、こちらに突進してくるバルド。
俺も再びバルドの方に接近し、剣を交える。
「何の手品を使ったか知らんが! 俺の影魔法が……!」
バルドの指揮と共に、蛇のように俺に食らいつき、防御までする影。
確かに、良い魔法だ。
――が、
「そろそろ時間がない。終わらせよう――《展開》」
「は?」
またしても空中に飛び上がった俺は、お手軽・壁魔法によって、空中に生成した足場を踏みしめていた。
そのまま一気に、空中で加速・方向転換をする。
常人ではありえない軌道。動き。
そして。
次の瞬間、俺は一瞬でバルドの後ろに肉薄していた。
剣で、斬り上げる。
「くっ!! 《――影よ》」
俺の剣は影に防御された。その流れで、影がカウンターを狙ってくる。
が、その時には、こっちはすでに別方向に飛び上がって、空中に生成した別の足場を踏みしめていた。
「んなッ!!!」
だから。
バルドが後ろを振り向いた時には、もうすでに俺は別方向から接近している。
追いつけていないバルドに対し、再び斬撃をお見舞いする。
俺がやっているのはシンプルだ。
空中で足場を生成し、身体強化した脚でそれを踏んで加速。
それから相手の防御の薄いところから攻める。
なるほど。
術者の指示で、変幻自在に防御・攻撃をしてくれる魔法。
たしかに、便利だ。そして強い。
だが、俺は思った。
追いつかれなきゃ、それまでだ、と。
――要は影魔法が、防御・攻撃をしてくれるのなら、それを上回る速さで斬りまくればいいのである。
後は、同じことを繰り返すだけ。
いくら影が防御してくれると言っても、人が操っているので限度がある。
加速して斬る。
加速して斬る。
加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。加速。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。
◆
「な……な……」
イーリスはわが目を疑った。
質で勝るのは影魔法だろう。あれほど優秀な魔法はイーリスも観たことがなかった。
が、ジェネシスはそれを、圧倒的な量の斬撃で覆そうとしていた。
空中を縦横無尽に飛び回りる仮面の男。
しかも、
「う、美しい……」とイーリスは思わず感嘆の声を上げていた。
そこは、完全に彼の領域。
彼だけの漆黒のテリトリー。
もはや、バルドの防御も追いついていない。
薄皮をはがすようにして、影魔法の防御がはがれていく。
そして、一瞬の綻び。
バルドの影魔法が完全に追いつけなくなったとき。
「――終わりだ」
まるで、闇を切り払う閃光のように。
仮面の男の一撃が、【絶望の影】を切り裂いた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
バルド
→自分の能力をペラペラ話し出すという負けフラグを積み重ね続けた結果、「魔法?それを上回る速度で斬れば良くない??」という脳筋戦法の前に敗北。
主人公
→なんだかんだで脳筋。根っこの部分ではエンリケと変わらない。
イーリス
→実況が上手い。
カルラさん
→久々の登場。弟子に不安を覚えている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます