【2巻&コミカライズ】クズレス・オブリージュ~18禁ゲー世界のクズ悪役に転生してしまった俺は、原作知識の力でどうしてもモブ人生をつかみ取りたい~
第46話 ねえねえ、私のどこが変わったかわかる???(野太い声で)
第46話 ねえねえ、私のどこが変わったかわかる???(野太い声で)
「モブ式か……聞いたことがないな。だが、親近感を感じないこともない。実は俺も独力で【影】をここまで鍛えてきた。貴様、どうやって、その戦闘法を編み出した?」
「どうやってって、その……」
悲報。
なんか知らないけど、俺は絶影のバルドさんに、めちゃくちゃ食いつかれていた。
俺が目立たないモブ式戦闘法を編み出した理由。
つまり、そもそも、なぜモブを目指すのか?ということだろう。
――モブを目指す、理由。
「そうだな。あらゆる媒体から情報を得た」と俺は口にした。
……うん。多分間違ってはいないはずだ。
基本的に、どんなアニメでもどんな映画でも、イキリちらした悪役は死んでいくのである。
ゲームに似たような世界に転生したから最強になる???
そんなのはとうに無理だと諦めている。
だからこそ、モブへ。
主人公の隣のクラスとかにいる当り障りないモブへ。
あらゆるアニメ、ラノベから俺はそう学んでいた。
「なるほど。『あらゆる媒体か』。数々の古書を紐解き、その情報を再構成し、それを実践にまで鍛え上げたということか」
「うんまあ…………………そうね」
「ほう、面白い」
その時。
「――せっかくだ。褒めてやるよジェネシス」
バルドが身にまとっていたコートをバサッと脱ぎ捨てた。
「イカれてやがるよ、貴様。魔力による身体強化の効率を極限にまで高め、戦闘時間自体を飛躍的に伸ばしているのか。戦闘中に魔力効率を気にするなんざ、戦闘中によそ見をするようなもの。普通の神経を持つ人間だったら、そんな方法をとるわけがない。貴様、どれだけ戦闘狂なんだ」
「……………………」
なんか俺が生み出したモブ式戦闘法が非常に風評被害を受けている気がした。
いや、戦う時間を長くしたいから、とかではなく、目立たないことを主眼に置いているんだけなんだが………。
――が、まあいい、とつぶやいた男は、何やらもにょもにょ呪文を唱え始めた。
「気を付けてっ!!!! 何かをしようとしている!!!」というイーリスの声。
「もう遅いぞ小娘――《闇より深き影よ。今まさに、その本性を顕現せよ。全てを破壊し、打ち壊せ》」
瞬間。
バルドの纏う雰囲気が変わった。
「はっはっはっ、ジェネシスよ。貴様、俺が何をやっているかわからないな」
「……………………」
当たり前だろ、と俺は思った。
こいつは「私のどこが変わったかわかる???」って、唐突に聞いてくる幼馴染系のラノベヒロインか何かのつもりなのだろうか。
無言。
やがて男が語り出した。
「クックック。認めよう、貴様は確かに強い。貴様のその戦闘法は見事だ。が、最後に勝つのは、この【絶影】だ。なぜかわかるか?」
無表情だが、不気味に笑う男。
わからん。
「いや」
首を降る。
全然ピンとこない。
「冥土の土産に教えてやるとするか。貴様に足りないのは決定力だ。たしかに、このまま剣を交えれば剣術ではお前が勝つ。だが、俺は戦士だ。残念ながら剣術家ではない。お前の土俵ではない魔法を使わせてもらうぞ」
「ん?」
すると、すぐに俺は異変に気が付いた。
男の足元の影の量がどっと増えている。
「へえ」
――先ほどよりも数が多く、より先鋭になった影が男の足元を埋め尽くしていた。
「いま、自動防御を解除した。この状態になると、俺は影を自由自在に操ることができる。まあ、その分魔力と集中力を要するから長時間は持続できないが」
そう言った男が手を振る。
スパン、と。
風切り音がして、男のすぐ横に置いてあった大き目の石が真っ二つになっていた。
「この通り、攻撃力・素早さ・精密性、共に先ほどまでの俺と同じだと思わない方がいい。そして、この姿を見て生き残ったのはただ1人。あの男だけ!!!!!」
その瞬間、絶叫を上げた絶影のバルドが突っ込んできた。
「ジェネシスよ!!! 貴様も終わりだ!!!!あと1手届かなかったなぁ!!!!!!」
同時に、辺り一帯に魔力が放出される。
なんという燃費の悪さ。
「くっ!」
――俺はもっと効率をよくした方が絶対、環境とかにもいいはずだろ、と内心思いつつ、バルドを迎え撃った。
◆
「ほらほら!動きが鈍いぞ! 貴様はあと一歩、足りなかったなぁ!」
そう言って、バルドが肉薄してくる。
俺はたしかに追い込まれつつあった。
バルドの剣は更に冴えており、それに加え、より柔軟に動き始めた影はまるで蛇のように食らいついてくる。
「どうだ!?! 我が龍の顎は!?」
訂正。
どうやら蛇ではなく龍らしい。
が、
「――まずいな」
俺はバルドを迎撃しつつ、舌打ちをしたい気分になっていた。
たしかに、バルドの指摘は結構当たっていた。
このモブ式戦闘法。
エコで魔力はほとんどバレないしでいいことづくめなのだが、やっている事自体は非常にシンプルなのである。
魔力の身体強化はあくまでも、身体能力を全体的に活性化させるのみ。
だからこそ、この戦法はバルドの影魔法のような圧倒的な強みを持つ相手には不向きだ。
そう。
ただし、それはこのままであれば、の話。
「使うか」
防戦一方になりながらも、隙を見て息を整え、魔力を錬る。
身体に流す用の魔力ではなく、別の魔力。
――域外魔法に使うための、魔力を。
◆
「なんなのこの闘いは……!」
イーリスは目の前で繰り広げられる圧倒的な闘いを見て、つぶやいた。
まさしくそれは、伝説と言っても過言ではないだろう。
魔力による身体強化をあれほど効率よく扱えるジェネシスに、影を己の手足のように操る【絶影】のバルド。
おそらく、きちんとした場所できちんとした大会であれば、歴史に名を残すほどのハイレベルなやり取り。
多少は戦闘面において自信のあったイーリスですら、追いつけないほどの闘い。
(まずい……!)
――が、状況は徐々に変わりつつあった。
【絶影】のバルドの本気によって。
己の影を攻撃にも参加させ始めたバルドの本気は凄まじく、あの凄まじい練度を誇る仮面の男ですら追い込まれている。
「ジェネシス……!!!」
イーリスは声を上げた。
バルドの追撃をかわそうとしたジェネシスが空中へと身を踊らせた。
――だが、
(それは悪手……!)
思った通り、バルドが顔を歪めた。
「空中では逃げられない! 残念だったな!!!ジェネシス!!」
バルドがまるで指揮者のように腕を振るうと、切っ先が剣のように尖った影たちが空中で身動きをとれない仮面の男へと殺到した。
当たれば、ただでは済まないだろう。
終わりだ。
惨状を予測したイーリスは思わず目をつぶった。
――が。
影は当たらなかった。
「えっ」
イーリスの眼の前では不可解な現象が起きていた。
「よっ」と何でもないように、ジェネシスが無傷で着地する。
「嘘……でしょ……」
イーリスは信じられなかった。
ジェネシスは、空中で方向転換をして避けていた。
有り得ない。
身体強化だけでは説明できない現象。
なぜ、そんなことができるのか。
無言。
辺りは水を打ったかのように静まっていた。
誰も何も言えない。
イーリスも、バルドも。
「さて。どうやら」
この場で平静を保っているのは、ただ1人。
「――あと一手は、足りたようだな」
ジェネシスが構える。
次の瞬間、仮面の男の攻勢が始まった。
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お疲れ様です作者です
めちゃくちゃ突然ですが、あと一週間くらいでクズレスの2章にケリをつけようと思っています(カクヨムコンの読者選考も近づいてきたので)。
それに伴い、今日みたいに投稿頻度も上がるかもしれません
我こそは付いて行ってやるぜ!と思う勇敢な読者様をお待ちしています。
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