第45話 必要な犠牲
「いや、変なのは坊ちゃんじゃねぇか? 身体強化が静かすぎるぜ」
「いや、エンリケ。そっちだろ??? 変なのは。身体強化がうるさ過ぎる」
「「……………………」」
俺の身体強化を見て、「変だ、魔力が感じられない」というエンリケ。
が、オレから見るとエンリケの方が無駄が多いように見える。
どういうことなのか。
俺たちは訓練を中止して、話し合った。
――そして、結論。
俺とエンリケは、魔力を身体強化に回すという点では同じでも、異様に効率が違うことが明らかになった。
例えば、エンリケに、本気を出してみて、と言ってみるとしよう。
エンリケは、自身の魔力を身体強化にそのまま使う。
すると、どうなるか。
魔力が漏れ出てくるのだ。
「カッカッカ………どうだい坊ちゃん。感じるだろ!?! この俺の荒れ狂う暴りょ――」
「はい、ストップ」
こうなる。
要するに、エンリケの場合、魔力というエンジンをガンガンに使い、それを身体強化という形で出力する。もちろんそれに対して、効率なんて気にしない。
だからこそ、本気を出すと周囲に無駄な魔力が漏れ出るようになる。
が、俺の場合は正反対。
そもそも魔力を扱うの自体が初めてで慎重だった俺は、なるべく少ない魔力で動くように調整していた。
例えば、「足だけを強化したいなら、足だけに魔力を流す」といったように、全身を雑に強化するのではなく、特定の部位にだけ効率的に魔力を流していた。
つまり、エンリケとの最初の模擬戦の時から、自身の身体に使う魔力にはめちゃくちゃ気を使っていたのである。
エンリケが、ガソリンをガンガンに消費する燃費の悪い車だとしたら、俺は燃費のいいエコカー、というところだろうか。
◆
「ん? いや、待てよ」
そこまで話し合った俺は、エンリケにふと尋ねた。
なんで俺みたいにやらないのか?と。
戦闘時に効率を良くした方がいい気がするんだけど……。
が、
「なるほどなぁ」と俺の話を聞いたエンリケは、考え込んでいた。
「そりゃ、坊ちゃんだけの視点だな。例えば、俺みたいな冒険者はそんなの気にしない」
呆れたように首を振るエンリケ。
「というか、そもそも、そんなことを改善しようと思わん。身体強化のさじ加減なんてのは結局、個人の癖みたいなもんだ。俺たちみたいな連中は、取り敢えず魔力を身体強化に回すだけで精一杯でな」
「ほうほう」
要するに、魔力の変換効率をいまさら意識したところで、コスパが薄くて意味がない、と。
「かといって」
エンリケが腕を組む。
「魔法を専門に使う魔法使いだったら、魔力の効率を気にするかもしれないが、そもそもやつらは、身体強化自体にはさほど興味ないからな」
「なるほど」
俺は頭の中で整理していた。
どうやら『魔力による身体強化』というのは、かなり微妙なラインにあるらしい。
身体強化をメインで使う肉体派の脳筋どもは魔力の効率なんて、そもそも考えない。
頭脳派の魔法使いは魔力の効率を考えるけど、身体強化自体にはさして興味がない。
「それを両立させ得るとしたら――」
エンリケが、俺の眼を見据えた。
「まだ魔力による身体強化を始めたばかりで、変な癖がついてなくて、しかも、その段階から繊細に魔力を扱うことができるような天才だけってことだ」
なるほど。
「それが、俺か………」
たしかに、いい感じに該当している。
魔力の操作だけはなぜか上手いからな。
しばし、考え込む。
そんな俺を見て、何を感じたのか、慌ててエンリケが言い訳を始めた。
「いや、いいんだ坊ちゃん。言い出しっぺは俺だが、いざ実戦となったら魔力の効率なんて気にしている余裕はないし、だったら、もっと楽に強くなれる方法はいくらでも………」
「――エンリケ」
エンリケを遮る。
俺は即断していた。
「これで行こう」
「何ッ!?! で、でも強くなるにはもっと簡単な方法が」
驚愕するエンリケを横目に俺はこう思っていた。
――いや、この方法、めっちゃ便利じゃん、と。
◆
たしかに、エンリケの言う通り、魔力の効率なんてみみっちいことは気にせず、他に魔法を覚えたり、単純に火力を求めたりした方が世間一般的で楽な方法なのだろう。
俺のやっている身体に効率良く魔力を回す、というのは、効果が薄いのかもしれない。
が、しかし、である。
ちょっと考えてみよう。
このままエンリケの言う通り、進んだ結果、俺はどうなってしまうのか?
ようするに、他の人がやっているのは、「俺、結構強いんですよ(笑)」みたいなノリで魔力をダダ洩れにさせる戦闘法である。
バ カ か な ????????
………とんでもない。
モブには似つかわしくない。
『ラスアカ』は可愛い女の子や、熱い展開に定評があるが、割とその辺に死亡フラグと狂人が跋扈している恐ろしい世界である。
そんな世界で自分から目立つ?????
アホか、と俺は言いたかった。
そんなことをやってたら、命がいくつあっても足りない。
「構わないぞ、エンリケ」
「なッ!?!」
眼を見開くエンリケ。
「困難な道だぜ? 戦闘中に同時に別のことをするようなもんだ」
「無用――必要な犠牲だ」
そう。
目立たずに自分が助かることに比べたら、魔力を繊細に扱うなんてイージーすぎる。
「ったく………言い出したら聞かねえんだからよ」
というわけで俺は、他人に魔力を感じさせない。
極めてエコで、極めて目立たない、そんなモブとなることを決意したのであった――
ちなみに、
この後、俺が身体強化をして訓練していると、
「へへっ。繊細な魔力制御と、目的のために苦難をいとわない強い意志を持ち合わせてる。たまらねえなあ!! 静と動が入り混じってやがる! これが、坊っちゃん。アンタの本質………!!」だのなんだのとエンリケが興奮していたが、
まーた始まったよ、と思った俺は、ハイハイ、と適当に返事をした。
なーにが『静と動』なのか。
「そうだな、一家に一台は欲しいよな、セイトドウ」
こうして俺は、なるべく目立たず、なるべく魔力自体を覆い隠すための訓練を行っていた。
来る日も来る日も。
そう。
そして、
これこそが――
「――俺のモブ式戦闘法だ」
「モブ式……?? 貴様………」
バルドの顔が傍から見ても、思いっきり歪んだ。
「一体、どこの流派なんだ? それは」
――――――――――――――――――――――
主人公
→モブ式戦闘法の創始者。狂人たちに絡まれたくないから、という理由で魔力の効率を極限にまで高め、身体強化をしているのに、ほとんど魔力を感じさせないという戦法を編み出した狂人。
イーリス
→「頭おかしい………」
バルド
→「モブ式………??」
モブ式戦闘法。
→強さを求めるだけならもっと楽な方法はたくさんあるので、世間の人々はやろうとも思わない。無駄技術の極致。
※
明日から待ちに待った休日なので、本日は2度更新の予定です。
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