第44話 恐るべき戦闘法



 ――いけるな、と俺は内心、そう感じていた。



 目の前にはかつて、エンリケと同等の痛さを誇ると謳われたらしい男・バルド。


 無表情の男は一見細身だが、かなり鍛えてありそうだった。


 俺の実力は模擬戦の結果からしても、エンリケと同じかちょっと上くらい。

 そして、この男もエンリケクラスだという。


 つまりこの場合、


『俺=エンリケ=バルド』


 という簡単な方程式が成り立つ。


 初めて闘う、同格の相手。


 

 ――が、


 厨二病の相手を引き受けた俺は、割と冷静に戦えていた。






「そらそらそらそら!!!!!!!!」


 相手が打ち込んでくる一撃。

 それを、すぐさま弾き返す。


 次の瞬間、相手がこちらを薙いできた。

 それをギリギリまで引き付け、ずらし、かわす。


 そして、


「シッ……!!!」


 相手の隙を作りだした俺は、見事カウンターで切り上げた――ように見えたが、


「くっ、《影よ》!!!」


 相手の足元から、まるで、イキのいいワカメ……いや、昆布のような影が出てきて、俺の剣は防がれた。



 仕切り直し。

 お互いに、いったん距離をとる。



「堅いな……」と思わず声がこぼれた。


 が、そう言いつつ、結構強いなと俺は感心していた。


 どうにか追い詰めても、影によって攻撃が防がれてしまう。


 縦横無尽。

 術者を守るために動く影。


 そして俺は、その正体に心当たりがあった。


「――自動防御か」


「ほぅ」と相手の男・バルドが眉をひそめる。


「小僧。どうして中々、知識があるな。名は?」

「ジェネシスだ」



『ラスト・アルカナム』。


 略して、ラスアカ。

 ラスアカは18禁ゲームのくせにして、結構骨太プレイができることで有名だった。


 例えば、各種のスキルでメインヒロインを育成したり、魔法のカスタマイズも自由自在。

 自動防御は、その中でも戦闘用のスキルで、魔力を一定数消費して攻撃をガードするものである。


 なるほどなあ、と感心する。

 さすがは原作から省かれたとはいえ、英雄レインに倒されるだけはある。

 いいもん持ってるじゃないの。



 と、俺が相手に感心していると、相手の方も俺に対して思うところがあったらしい。


「さて、ジェネシス。俺からも貴様に質問だ」


 バルド、と名乗った男が苦々しく言う。


「――貴様、その戦闘方法……どこで身に付けた?」


「戦闘法?」


 あぁ、と俺は思った。

 ついに気が付かれたか、と。


「どういうことだ? 強さは俺と同格。いや今の状態では、俺が押されていると言ってもいい。なのに、貴様からはほとんど魔力を感じない……まるで静謐な……透明な魔力。はっきり言って不気味、イカれてやがる――貴様、一体何をした??」


「ほぅ」


 警戒したように、こちらを睨みつけるバルドに対して、俺は仮面の下で、ゆっくりと笑みを浮かべた。 


 気が付いたか?

 そう。



 俺の、恐るべき方式。

 俺の、秘密。



 俺がこの狂った世界で生き残るために磨いた――





 モ ブ 式 戦 闘 法 を。



 ◆



 あれは、たしかエンリケに腹を蹴られてから2週間ほど経ったときだろうか。


 訓練中、ふとエンリケが俺の身体強化を見て、妙なことを言い始めた。


「なぁ、坊っちゃん」とエンリケが言う。


「坊っちゃんって、身体強化を使っているんだよなァ? 俺と打ち合えてるんだしよ」

「そりゃ使ってるけど」と俺も応じる。


 実際、俺はエンリケに初めて模擬戦を申し込んで、雇い主の息子なのに腹を蹴られたときから、魔力を身体に流して、身体を強化していた。


 が、その返答を聞いて、エンリケが妙な顔をし出したのである。


「おかしいぜ。坊っちゃんのはなんつうか、俺が知っている身体強化と違うんだよなあ。ちと、

「ん???」




 不審に思った俺はもちろん、エンリケ自身の身体強化を見せてもらった。


「カッカッカ!! どうだい坊ちゃん。この俺の溢れ出すまりょ――」

「うわぁ……」


 俺は引いた。

 エンリケの厨二病みたいな発言もそうだが、それ以上に……


 なあ、とエンリケに呼びかける。


?」




 そう。

 俺はエンリケの身体強化を見て、こう思ってしまった。




 ――なんでこいつ、こんなにも身体強化に無駄な魔力を使ってるんだ?と。




「ちょ、ちょっと待ってくれ。じゃあ坊っちゃんはどうやってるんだ!?!」


 そう聞かれたので、俺はエンリケに自分のやり方を教えた。

 いつも通りの方法を。


「おいおい、坊っちゃん……マジかよ???」



 ――エンリケの顔が歪んだ。


――――――――――――――――――――


主人公

→不気味。


エンリケ

→魔力を全身に流して身体強化をするが、無駄が多い。


バルド

→「(モブ式……?)」



※ハーレムタグをお待ちの読者へ。


ごめんなさい。自分もイチャイチャハーレムにしたいのですが、なぜか現状、2章ではむさ苦しい男たちがのさばっています。気を長くしてお待ち下さい。

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