第37話 知ってるか?人は殴ったら気絶するんだぜ side:マシュー

 謎の男を追う。


(本当に何なんだあの人は……!)


「ハァハァ……」


 少年は、息を整えながら森を抜けた。

 森を抜けると大きな道があり、そこから村へはほぼほぼ一本で行くことができる。




 だが同時に、まずい、と少年は思っていた。


 そもそも、少年は追手に追われていたからこそ、自分の土地勘がある裏手の森に逃げ込んで、ここまで来たのだ。


 たしかに道に出た方が楽だろう。

 しかし、それは敵に見つかるリスクを増やすことにつながる。


「ここは、まずいですよ。追手がいるんです! 早く森に!!」


 戻りましょう、とマシューは言いかけた。



 が。

 そういやよ、と気楽な様子の男が言う。


「さっきから言ってる追手ってのは」


 そのまま、立ち止まって地面に伏せる2人の男を指さす。


「――こういうやつのことか?」




 黒づくめの男が2人、地面に横たわっていた。


 闇に消えそうなほどの黒衣。

 そして、傍から見ても恐ろしい切れ味であろう短刀。


 間違いなく、村を襲った男たちの一員だろう。

 男の指摘に、少年は必死にうなづく。



「そうです、こんな感じの人たちがもっと大勢いて!!!」


 だからこの場は危険なんです、と少年は続けようとした。


 が、


「……ん???」



 ――違和感。


 少年はもう一度、目の前の光景をよく見た。



 2



「え、な、なんで?」


 少年の口から思わず疑問が漏れた。


「倒れているん……ですか??」


 正直に言って、何もかもが理解不能だった。


 男たちの恐ろしさは、遠くから見ただけの素人であるマシューにもわかっていた。


 恐るべき身のこなし。

 無言にもかかわらず、まるで一個の群れのようにスムーズな連携。


 マシューが追手から何とか逃げれていたのも、こっちに地の利があり、一番早く逃げれたからだろう。


 が、その恐ろしいはずの男たちはなぜか、なすすべもなく倒れている。




「ど、どうして?」


 マシューは改めて眼の前の男を見た。普通だ、というかちょっと小汚い。

 騎士団のような強さを漂わせているわけでもない。


 なのに、なぜ――



「ああ」と男は親指で自分を指し、自慢げな表情で言った。











「……えぇ」


 マシューは思った。

 この男は格好だけではなく、頭もおかしいのではないか、と。


「おいおい、知らなかったのか? 坊主。人は殴ると気絶するんだぜ」


「え、いや、そのくらいはわかりますけど……つまり、その攻撃方法自体を聞きたいわけではなくって……そもそも、なんでこの人たちが倒れているかって話なんですけど」


 外見だけでなく、返答も常軌を逸している。

 この人は圧倒的な筋力はあるが、頭が弱いことで有名な魔物、【オーガ】の親戚か何かだろうか。


 殴ったから、気絶している。


 それは当たり前だ。

 原理としては当然の話である。


 ただ、ここで聞きたいのは、そうではなく、なんで明らかに危なさそうな村を襲った賊が、平然と気絶させられているかが、知りたかったのだが………。


 こちらの微妙な雰囲気を感じ取ったのだろうか。

 男は、なるほど、と何かに納得したような様子を見せた。


「あぁ、もしかして寝かさない方が良かったか???」

「え??」


 なんだよ、早く言ってくれよ。

 そう言いながら、ぺしぺしと黒づくめの男の頬を叩き始める変人。


「おい、手加減して殴ったんだから、目を覚ませよ」と言いながら、である。


 そのあんまりな光景に、思わずマシューも


「え、いや別に起こす必要もないんですけど……」と口にしてしまった。


「へえ、そうなのか」


 じゃあいいや、と途端に2人を起こすのを止める男。






(無茶苦茶だ……、狂ってる)


 だが、目の前で起きる不可解な出来事に、マシューは思い当たる節があった。


 血統を重んじる貴族でも、人々の平和と安寧を希求する騎士団でも、利を求める商人でも、魔法の追求に生涯をかける魔法使いでもない。


  

 目撃したこと自体はなかったが、マシューはその存在を聞いたことがあった。


 社会の爪はじき者。

 逸脱者たちの集まり。

 ダンジョンの探索及び、対魔物戦闘のプロフェッショナル。


 自身の存在をかけ、鎬をけずる者たち。


 間違いない。

 この浮きっぷり。


 この男は――


「冒険者……」


「へえ、良く気づいたな小僧」


 マシューの発言を聞き、男がにやりと笑った。


「――が、俺というお代は高いぜ?」


 闇夜の下でもわかるほど、獰猛な笑み。


 その笑みは問いかけていた。

 お前には、何が差し出せるんだ、と。

 




―――――――――――――――――――


エンリケ

→脳筋。強者ムーブをしすぎて、村の少年をビビらせてしまう。


マシュー(村の少年)

→貴重な現地一般人枠の少年。「こいつらは、俺が殴ったから気絶してるんだぞ」という元Sランクのあまりに身も蓋もない説明にドン引き中。



※文字数、どのくらいが読みやすいですかね??

最近は大体、2000語前後になるようにしているのですが、このくらいがいい!とかありましたら是非是非コメントで教えてください。

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