第35話 エンリケの強さ


「ここ、か」


 盗賊Aに快く協力してもらった俺は、盗賊のアジトへと到着していた。

 敵の拠点は、ハーフェンの村の近くの洞窟に偽装してある。たしかに、一見すると普通の洞窟のようで、場所を聞かないとわからなかっただろう。


 入り口付近の木の上に潜み、様子を見る。

 下には、見張りのような人間が2人。


 耳を澄ますと、微かに声が聞こえてきた。



「――本隊は?」

「あぁ、ハーフェンで村人の襲撃を始めている」

「しっかし、俺たちもついていたな」

「たしかに。まさか村の近くに、貴族の娘がいるなんて思いもしなかったぜ」

「あぁ。貴族の娘なんてもの使い道がいくらでもあるしな。身代金でも何でもありだ」



 そして、時折聞こえる貴族の娘、という単語。


 なるほど。

 イーリスは、すでに捕らえられているらしい。


 後は、自分が突入するだけ。

 原作でレインが突入するよりもちょっと早いが、まあ、早い分には問題はないだろう。





 ――が、しかし。

 1つ、気がかりなことがあった。


 俺は、盗賊Aの最後の捨て台詞が妙に気になっていた。

 

 

 敵の拠点を聞き出すことに成功した後、「やけに素直に話すんだな」と尋ねた俺に、盗賊はこう答えた。



 ――まあ、どうせアジトに行けたところで、勝てないからな、と。



『勝てない??』

『あぁ、闇ギルドってのはこう見て人材の宝庫でな。表には出られない連中がわんさかいるんだよ。な、わかるか?? 俺たちが何も用意していないとでも思ったか?? つまり、こっちだって、この計画のために化け物を用意しているんだよ!!!!』


 化け物。


 おそらく、アジト中には、こいつらの中でも頭一つ抜けた実力者がいるのだろうと俺は推測していた。たぶん、そいつがイーリスの近くにいて、原作でレインと闘う役目。


 いけるか? と、自分に問いかける。


 俺はどう見たって、Fランク冒険者と同じかそれ以上だ。

 正直に言えば、ここでのこのこアジトに突入するのは分が悪い、とも言える。


 ――が、俺には勝算があった。



 というか、俺は、この道中である事実に気が付き始めていた。





「よっと」


 木の上から飛び降り、地面に着地する。


「……なッ!!!」


 急に頭上から飛び込んできた俺に対し、驚愕を露わにする盗賊たち。


 が、二の句も告げぬうちに、


「「ゴハッ!!」」


 俺は流れるように剣の柄で、2人を眠らせる。ちなみに、この剣は盗賊Aから頂いたものだ。


 見張りはこれ以上はいないらしい。


「さてと、他は中か……」


 そう言いながらも、盗賊2人を無力化した俺は、やっぱりな、と確信を強めていた。





 ――そう。


 あれ、俺たち思っているよりも強いんじゃない????問題である。



 俺が今夜、戦ったやつらは、あまりにも歯ごたえがなさすぎた。明るい夜ヘレ・ナハトの連中が、現時点では、売れない劇団員を主軸とするチンピラ同好会ギルドだったとしても、あまりにも弱すぎる。

 

 考えてみれば、エンリケだって、あの劇団員たちをあまりにも軽々と一蹴していた。



 そこから導き出される結論は、たった1つ。


 つまり、

 俺が思っているよりも、遥かに。


 だからこそ、そのエンリケと共に修行をしていた俺もそれなりの実力が身についていたのだろう。



「あいつ……」


 おそらく。

 ごくりと、つばを飲む。


 あの、圧倒的な強さ。

 俺はエンリケの強さに寒気が走った。













「――Eランクの上位はあるな、たぶん」



 それか、もしくはDの底辺くらい。

 それしか考えられない。


 エンリケが、「強者ムーブには一生懸命励むくせに仕事はサボるFランク冒険者」として、ギルドから追放されたのは数年前のことらしい。

 だとすると、エンリケもそれなりに強くなっているというのも、うなづける話だろう。


 まだあの強者ムーブをするにしては、強さが足りないような気もするが……。

 まあ、それはいいだろう。



 ということは、だ。


 俺だってやれるはずだ。

 ここにどんな敵がいようとも、充分、俺にも勝算がある。




 アジトの入り口前で、空を見上げる。

 そろそろ、エンリケもハーフェン村に着いている頃だろう。


 ハーフェン村が盗賊の襲撃に遭い、主人公にとって身近な場所がめちゃくちゃに壊されてしまう、というのは主人公やイーリスにとっても結構トラウマポイントだったりもする。


 まあ、もっと言うと、ランドール公爵家がめちゃくちゃに叩かれてしまうのである。


 だから。

 頼むぞ、と俺はきっと現在進行形で頑張っているであろうエンリケによびかけた。




 ―――エンリケ。


 うちの、ランドール家の評判は、君の双肩にかかっている。

 頼むから、良い感じのハッピーエンドで終わらせてくれ……!!!






 






 遡ること、少し前。


 元Sランク冒険者にして、ジェネシスの第一の部下、エンリケも同じく空を見上げていた。


「すまんなジェネシスよ。こりゃ、あれだな」


 そう言って、ポリポリと頭を掻く。


 エンリケは辺りを見回した。右を見ても木、左を見ても木。何なら、後ろも前も木しかない。


「……迷ったな、うん」


 おかしい。

 どうやら、自分は完全に迷い込んでしまったらしい。


「そう言えば、ランドール領に来たのだって、道に迷っての偶然だったしなあ……」



 そもそも、エンリケという男は方向音痴だった。

 すべてを壊しつくす、と謳われた元Sランクの怪物は、壊滅的に方向が分からなかったのである。


 そんなエンリケは、同じ夜空の元ですでに動き始めているであろうジェネシス、いや坊ちゃんを思い浮かべた。


 そうだな、と。


「ちょ、ちょっと遅れるかもしれねえが……こ、こっちも頑張ってるぜ坊ちゃん」



 ――割と2人は、似た者同士だった。



――――――――――――――――――――――



主人公→エンリケの実力に気が付く。エンリケさん、ついに「元Fランク冒険者」から、「Dランク冒険者の底辺」に上方修正へ。


エンリケ→実は恐るべきゴミ方向感覚の持ち主。街中はまだいけるが、街の外に出ると途端に迷う。




※最近、お前のところの主人公は頭がおかしい、と言われることが増えてきました。


が、言い訳をさせて下さい。

自分も最初は普通の悪役貴族物を書く予定でした。間違っても自分をモブだと思い込んでいる異常者が異世界で暴れ回るコメディを書きたかったのではありません。


信じてください!!!!!!









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