第34話 重大なるネタバレ


 ――【明るい夜ヘレ・ナハト】。


 それは、今から十数年後の未来において、リヨン一帯を支配する巨大闇ギルドの名だった。


 トップは市長のグレゴリオで、公職についている市長がトップを務めている、という実に素晴らしい闇ギルドである。


 しかも驚くべきことに、原作の後半で主人公ジーク君の手によってすべて悪事が露わになるまで、リヨンの市長=闇ギルドのトップという事実は、誰にもバレることはない。


 用意周到過ぎて泣けてくるレベルである。


 間違いない。

 やはり、すべてはつながっていた。


「はぁ」


 思わずため息が出る。


 ……本当に、実に、面倒くさい市長である。

 仕事をしろ、仕事を、と言いたくなる。


 表では頼りない領主(ウルトス両親)に代わり、実務を完璧に遂行しつつ、裏では闇ギルドを楽しく育てているらしい。

 有能なのはわかるが、その有能さは他のところで発揮してほしかった。


 いや、本当に。




 そして、やっぱりか、と脱力する俺の前で、


「あぁ。てめえもすぐに理解するよ。世の中には、知ったかぶって手を出しちゃいけない領域があるってことをな!!!!」と、盗賊Aが叫んだ。


「俺1人に手を出して逃げられるとでも???? 【明るい夜ヘレ・ナハト】は新興のギルドだが、今まで我々に手を出して生きていられた者はいない!!!」

「………そうか」


 すでにここに来る道中で、10人以上エンリケに命じて、ボコボコにしてきた俺はなんと返答すればいいかわからず、微妙な表情で狂ったように笑う盗賊Aの演説を聞いていた。


 ……まあもっと言えば、この後エンリケをハーフェン村に突撃させる予定なので、【明るい夜ヘレ・ナハト】側の犠牲者は数倍に膨れ上がるだろう。


「クックック、後悔してももう遅いんだよ、仮面ヤロー!!!!」


 無言になったこちらを見て、盗賊Aはこちらがビビったと思っているようだった。

 男は、心底たまらない、といった表情で続ける。


「そんなお前に素晴らしいプレゼントだぁ!! 他の裏ギルドとうちの違いを知りたいか??? いいか! このギルドのトップは誰にも知らされていないんだよ!!」

「なに?」


 凄いだろ、とこちらをあざ笑う男は止まらない。


「誰も名前を知らない!! トップの名前を探ろうとした人間は、全員始末された!!! そんな恐ろしいギルド、今まであったか???? それなのに、我々はリヨンの奥深くにまで入り込んでいる!!! そうさ、まさしく怪物だ!!! てめえはうちのボスの名を聞いたことがあるか!?! ないだろ!!!」


 消えな! とこちらにつばを吐き、完全に勝ち誇った様子の盗賊A。


「……なるほど」


 仕組みはわかった。グレゴリオはかなり用意周到にギルドの運営をしているらしい。


 仕方ないか。

 勝ち誇る男に向けて、俺は爆弾を投下することにした。


「あぁ、グレゴリオ市長か」

「そうさ!!! あのグレゴリオ市長と共に、俺たちはリヨンのすべてを支配する!!!! だからお前になんぞアジトの場所を吐くわけがないんだよ!!!

「ほうほう」

「俺たちの計画は完璧だァ!!!!!!!!!!!!





 ―――――――――――――――んん???」



「ん?」

「ん??」



 一瞬の静寂。


 ――今まで楽しそうに語っていた盗賊の顔が、初めて固まった。


「……………………」

「……………………」

「ぐ、グレゴリオ市長……????」

「そう」


 理解できないといった表情の男。


 今から十数年後にやっと明かされる驚愕の事実をネタバレされた彼は、完全に面を食らっていた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。冗談きついぜ。リヨンの市長だよな、グレゴリオって??」

「おう」

「え、あの爽やかでいい男だとリヨンのマダムに人気の……???」

「そうそう」

「……………………」

「……………………」


 しばしの沈黙。

 微妙に気まずい雰囲気が俺たちの間に訪れた。



 ふわりと。

 気持ちのいい夜風が、通り抜ける。

 いい夜である。

 

 が、残念ながら、俺の自分の将来のために口を割らせる気満々だった。


「い、いやありえねえ……と思いますよ。仮面ヤロー……じゃなくて仮面さん。だって、なんで市長が自分の街の近くを襲わせるんだよ」

「……………………」


 その気持ち、わかるよ。

 傍から見たら意味不明だもんな。


「…………………」


 が、俺は盗賊Aを無言で促した。


「え、いや、そう言えば、本来あるはずの騎士団の巡回も、リヨンで貴族の会議があるからって、だいぶ後回しにされてたし………。なんかやけにうちのギルドだけ摘発を免れているような………」


 思い当たる節があったらしく、自分で言いながらも次第に青ざめていく男。


「えっ、うちのボス……グレゴリオ市長……????」


 盗賊Aの呆気にとられたような声が、辺りに響いた――





「ちなみにもうちょい先の方で、レインの息子がボコボコにされて寝込んでるぞ」

「レインの息子!?! ど、どういうことだよ!?! 誰がそんなめちゃくちゃなことを!!」

「本来お前がやるはずだったけど、俺がやった」 

「はぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァ!?!?!?!?!?!?」


 もはや恐怖一色といった様子で叫ぶ盗賊A。


「じぇ、ジェネシスとか言ったか?? お前一体何がしてえんだよ!!!!!」


 意味が分からねえよ!! と震える男。

 俺はそんな盗賊Aに向けて、爽やかに言い放った。


 何がしたい?? 

 決まっている。


 もちろん、俺が望むのは――


「モブ人生だ」

「……はあ??????」



 こうして。

 最終的に怯え切った男から、


「わ、わかった。もう何もしないでくれ、というか、アジトも全部話すから、頼むから俺の人生に金輪際、関わらないでくれ」という言葉を引き出した俺は、敵のアジトに向け走り出した。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



盗賊A→誰も知らないギルドのトップの名前を平然と口にし、高名な騎士団長の息子をボコボコにするという仮面の男の意味不明な言動に恐怖を覚え、アジトを漏らす。






 

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