第33話 お前、その情報をどこで知った??


「やぁ」


 ジーク君を置いて、少し歩いたところにある木の根元で、俺はとある人物に呼びかけていた。

 中々起きてこないので、一緒に置いておいた剣を手に取り、その柄で軽く小突く。


「………ッ!!!」


 木に縛られた汚い身なりの男が目を覚ました。


「なッ!! てめえさっきの………!! 何しやがる!!!」


 目を覚ますなり、こちらに食って掛かる男。

 完全にお怒りのようである。


 が、正直言えば、たしかにちょっと申し訳ないな、と俺は思っていた。


「いや、さっきは悪かったって」

「て、てめえ!! いきなり夜道で人を襲っておいて、『悪かった』じゃねえぞ!!!」


 男の発言はもっともだった。


 ――なぜなら俺は、道を歩くこの男を、


 背 後 か ら 一 撃 で 昏 倒 さ せ 、 縄 で 縛 る だ け 縛 っ て 放 置 し て い た か ら で あ る 。





 彼の名は、『盗賊A』。

 ハーフェン村で盗賊の本隊が暴れているときに、ラグ村まで偵察に来て原作のジーク君と闘うことになる、あのチュートリアルキャラである。


「……というか、てめえ何者だ???」


 目を覚ましてから少し経ち、暗闇にも目が慣れてきたのだろうか。

 盗賊Aは、こちらを警戒し始めたようだった。


「俺は油断してたわけじゃねえぞ。灰色の仮面……見ない仮面だな。それに、その衣装……貴族の仮面舞踏会ってやつか??? いや、そんなのがこの辺にいるとは思えねえな」

「さてね」


 と言いつつ、俺は、お??と思っていた。


『貴族の仮面舞踏会』。

 これは、なかなかの誉め言葉ではないだろうか。


 灰色の仮面をそう褒められて、嬉しくなる。ハンドメイドで灰色の絵の具を塗りたくっただけの一品だが、それでも褒められると嬉しい。


 と、まあ、それはさておき。

 俺は手を広げ、挨拶をした。


「――我が名は、ジェネシス」


 そうして、今夜以降は一生名乗らないであろう偽名をサクッと名乗った俺は、盗賊Aに呼びかけた。


「さて。ここからお前たちのアジトには、どうやって行ったらいいのかな??」






 ――ここからが面倒なところだった。


 ハーフェン村からジーク君のいるラグ村までは一本道なので、ジーク君は待ち構えていたら絶対に会える。そして、現に会えた。


 簡単。実にわかりやすい。

 ラグ村にいるジーク君の方はこれでよし。


 が、一方で、このイベントで同じようにピンチになるイーリスの方はどうだろうか。

 

 


 ここで1つ、問題があった。


 肝心の、その敵のアジトの位置がわからないのである。ギリギリ覚えているのは、そのアジトがハーフェンの村の近くにあるってことくらい。


 原作だと騎士団は数を頼りに大々的に捜索して、騎士団長のレインがアジトを発見し、中に突入する、という流れだが、あいにく、今日始動したばかりのジェネシスさんにそんな数の部下はいない。いないったらいないのである。


 というわけで、俺はジーク君に会いに行く次いでに、盗賊Aを昏倒させていた。

 後でアジトの場所でも聞き出そう、という目論見である。




「で、どうなんだ???」と俺は目の前で縛られた盗賊Aを問い詰めた。


 ――が、


「………おいおい、俺たちはただの盗賊だぜ???」


 盗賊Aが、ニタニタ笑いながら口を開く。


「それが何で、『』なんてものがあんだよ?? それじゃあまるで、俺たちが前々から何か企んでいたみてえじゃねえか」


 その口調は、雄弁に語っていた。

 お前などに言うつもりなどない、と。


「どうしても場所は言わないつもりか?」

「ばーか。当たり前だろ」と盗賊Aがさらに笑みを深くした。


 クックック、という笑い声が周囲に響く。


「奇妙なヤローだとは思ったが、おい、仮面ヤロー。お前もこっち側だろ??」

「こっち側??」


 なんのことだろうか、と思いつつ聞き返す。


「とぼけるなよ、兄弟。その身のこなしに、その仮面。そして、うちのアジトの場所を知りたがっている……これだけ証拠がありゃ簡単だ。お前は俺たちの計画について何かを知っている。なあ、何が目的だ?? その情報をどこで知った??」

「……目的か」


 この事件を引っ掻き回すだけ引っ搔き回して、ゆるやかに原作からフェードアウトするのが目的です、と正直にいっても絶対に理解してもらえないと思うので、俺は黙っていた。

 

 が、その様子を見て、男は何かに勘付いたらしい。


「ほらな、言えねえだろ??? 言わなくてもわかる。情報の仕入れ先は、闇のルートだ。つまり、お前も俺と同じ穴の狢だってことよ――裏の人間。常人とは別の世界の住人ってこった」


 自信満々に、クックック、と男が笑う。

 お前も同類だろ、という目線。


 が、


「………………う、う~ん」


 俺としては、この計画をどこで知ったのかと聞かれたら、ゲームです、としか言いようがない。

 まあ、厳密に言えば、俺はこの18禁ゲームを待ちきれずに、18歳の誕生日の数日前に購入してしまったので、情報の入手ルートとしては……


「……ま、まあ、ちょっと正規ルートではないかもな。法律的にはギリギリだし……闇のルートと言われると……」


 そうかもしれない。


 だが、いや、これに関しては仕方ないでしょ、と俺は言いたかった。

 だってキャラが可愛いし……。発売前からめっちゃ評判だったし……。

 あんだけsnsでも盛り上がってたし……。

 


「だろ???」


 得意げな男は、だがな、とこちらを嘲った。


「そこまで内を知っているんなら、話は早い――お前、うちのギルド。【明るい夜ヘレ・ナハト】の恐ろしさを知らないらしいな」


「やはり、【明るい夜ヘレ・ナハト】が関わっていたか」


 苦々しくつぶやく。

 俺はその名をよく知っていた。





 ――【明るい夜ヘレ・ナハト】。


 それは、今から十数年後の未来において、リヨン一帯を支配する巨大闇ギルドの名だった。




――――――――――――――――――――――――――――


主人公→裏のルート(18禁)で、この計画を知っていたせいで、凶悪な闇ギルドの人間から「同類」扱いされる。

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