第28話 計画名【ジェネシス】
準備を終えた俺は、屋敷の一階、エンリケが待つ下へと戻った。
しんと静まった一階には、エンリケのほかに誰もいない。
「よぉ、待っていたぜ」
「悪いな」
「全くだ。坊ちゃん、ここまでの流れは聞いていたが、こっからは未知の世界。ちゃんと聞かせてもらうから――」
その瞬間。
俺の方を振り向いたエンリケが、「はぁ!?!」と眼を見開いた。
信じられないといった表情のエンリケ。
「待たせたな」
「そ、その恰好………坊ちゃんだよな??? い、一体何を」
エンリケの反応はもっともだった。
なぜなら俺は、黒づくめの装束に、灰色の仮面といういかにも奇妙なコスプレをしていたからである。
ちなみにこれは、ランドール公爵家の屋敷に保管されていたお古の衣装である。ちょっとゴシックな装束。
そして、仮面は同じく屋敷の倉庫に眠っていたものを俺が救出して、上から灰色に塗ってあるという心のこもった一品である。
そして、これらを組み合わせた結果、いかにも怪しげな人物が登場していた。
俺はぱっと見、黒づくめの貴族みたいでカッコいいと密かに思っているが、ハッキリ言って傍から見たら異常だろう。
が、しかし、俺は一切動じることなく、まるでそれが当たり前かのように、エンリケに応えた。
「エンリケ――俺は坊ちゃんではない」
「はぁぁぁ!?!」
こっちが気持ちよくなるほどにいいリアクションをしてくれるエンリケ。
なんでもいいけど、こいつ芸人とかもいけそうだな。
「そう。我が名は――」
そんな無駄なことを考えつつ、俺は口をあんぐりと開けるエンリケに向かって手を広げた。
「ジェネシスだ」
計画名【ジェネシス】。
――これこそが、俺の第2の秘策にして、最大の計画だった。
いや、まあ名前としては、【ジェネシス】だろうが、【ゼロ】だろうが、なんでもよかった。
とにかく名前はカッコよければ何でもいいのである。
そもそも、俺は第1の秘策【適当なことを言いまくる】だけで、このイベントを乗り切り、あとは静かにフェードアウトする予定だった。
だがしかし、である。
冷静に考えると、この第1の秘策はあまりにも不安定過ぎた。
イーリスに適当なことを言うだけで、果たして本当に、将来の死を避けることができるのか。リスキー過ぎやしないか、と。
主人公のジーク君にしたって、そうだ。
たしかに、作中のジーク君は盗賊に襲われても奇跡的に助かったが、なんかの間違いで死ぬ可能性だってある。
メインヒロインのイーリスだってそう。
盗賊に誘拐された彼女が、死なない保証なんてない。
正直言って、『ラスアカ』の世界は狂っている。
18禁ゲーと言うだけあって、後半は鬼畜な難易度だし、強ければ強いほどみんな頭がおかしい。
例えば、市長のグレゴリオは、こんな序盤から恩人のランドール公爵家の実権を奪う気満々だし、ラスボスは無尽蔵の魔力に特別な空間魔法を完全に扱いこなす化け物だし、なんなら主人公のジーク君もだいぶいかれてる。
彼は、クソ真面目に十年間も一日も休むことなく、基礎的な鍛錬を続ける、というメンタル面の怪物である。
しかもボコボコにされればされるほど強くなるので、ネット掲示板では「可愛い顔をした〇イヤ人」だのなんだのと言われていた。
そんな彼だからこそ、最終的にラスボスをボコボコにできたのだろう。
そう。
ここまでの情報を踏まえて、俺は思う。
……これ、主人公たちがいないと無理では?? と。
もし仮に俺が"ざまあ"されなかったとしても、主人公やらメインヒロインが死んだ時点で、ラスボスやら敵に勝てる気がしない。
もっと言えば、今のジークやイーリスは初期状態。今の俺の実力より下だろう。
つまり、俺だけ助かってモブとして生きていこうとしても、主人公勢が1人でも欠けた瞬間、俺の輝かしきモブ人生はお先真っ暗になってしまう可能性がある。
世界の破滅を救えるのは、主人公たちしかいないのである。
「ジェネシス………だと??」
「あぁ」と俺はエンリケに応じた。
だからこその、この計画だった。
正体不明の人物【ジェネシス】を名乗り、とりあえずジーク君やイーリスを助け、良い感じに場を引っ掻き回すしかない。
………ただし、この計画には1つだけ穴があった。
それが、敵の強さである。
今のところ、俺の強さはどう高く見積もっても、エンリケと同程度。
いかに俺がコスプレをして、イーリスやジークを助けようと思っても、敵が強かったらお話にならない。
一蹴されて終わりだろう。
が、しかし。
神は俺を見離していなかった。
――そう。
先ほどのエンリケとの戦闘を見る限り、グレゴリオの組織はまだ完成していない。全員、明らかにレベルが低いのである。
あれは今のところ、完全にチンピラの集まりだ。
将来的にはリヨン一帯を支配する強大な闇ギルドになるとはいえ、今の段階では遊びに過ぎない。
いける、と俺は確信していた。
この謎の変人【ジェネシス】に事件を引っ掻き回してもらい、すべてをこの謎の人物のせいにするのである。
これしかない。
後はのこのこ、すべてが終わった後で、
「えぇ~~~、ジェネシスなんて男がいたんだ~~。僕ちん何もわからなかったな~~~。こんな無能は領地に引っ込んでるべきだな~~」などと白々しいことを言って、何も関わらなきゃいい。
ジェネシスの名は、リヨンのイベントと共に消え去るのである。
と、こんな感じで、俺は自分の計画をエンリケに話した。
すると、なぜか神妙な顔でエンリケが尋ねてきた。
「なるほどな、つまり坊ちゃん………アンタ。それだけ苦労して、それだけ己の身を犠牲にしても、表には決して出ないってことか?」
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カクヨムコンは、応募受付期間終了時点の1/31日までに本文が10万文字以上なきゃいけないらしいです。自分はそれを2日前に知りました。
現在、当作品はだいたい6万字くらいです。
はっはっはhっは………(絶望)
というわけで、誤字脱字の修正やコメント返しはのんびりやっていきます。
お許しください。
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