第23話 他人の地雷原の上でタップダンスするクズ悪役
「一体、何が言いたいの……!?」
沈黙。
この場の誰もが、俺の不可解な言動に唖然としていた。
「『一体何が言いたいの……!?』か。ヴェーベルン男爵家のご令嬢は、随分と面白いことを聞くんだな」
俺はイーリスちゃんに向かって、皮肉っぽい笑みを見せた。
いや、わかるよ。
俺には彼女の気持ちが、痛いほどよくわかってしまった。
イーリスの出身地は、今まさに魔物の多発で頭を悩ませている場所だ。彼女の危機感は誰よりも強い。
だが、そうして陳情に来た彼女が目撃したのは、まったく機能していない貴族たち。
彼女が焦るのも無理はない。
本来の彼女であれば、多少は落ち着いて話せただろうが、今の彼女は冷静さを失っていた。
――が、ここで1つ困ったことがあった。
イベント通りに物事を進めるために、俺はどうしても彼女を煽る必要があった。
完全に切れる一秒前の彼女に、「妾にしてやろうか」と言わなくてはいけなかったのである。
ちなみに、これは後で明らかになることだが、イーリス・ヴェーベルンは、妾の子で立場が弱い。
彼女の剣術の強さで、何とか立場を保っているところだ。
なのに、わざわざ彼女は人々を守るため、リヨンへと来た。
………つまり、クズトスは、二重の意味でイーリスの地雷を的確に踏みぬいていたのだ。
さすがはクズトス。
初対面の相手の地雷の上で、タップダンスなんてなかなかできることじゃない。
ラスボスから直々に、「ウルトス……? あぁ、あのクズか」と言われた男は伊達じゃない。
ただ、このままいけばイーリスの俺に対するイメージは最悪になってしまう。
そして、この認識のまま、イーリスがすくすくと成長して、物語の舞台である魔術学院に入学したらどうなってしまうか。
もちろん、イーリスからの印象は最悪まま。
――魔術学院で、その印象を挽回できなければ、待つのは死。
入学してから頑張ればいいじゃん、と思う人もいるかもしれないが、俺は、なるべくなら今のうちから対策を打っておきたかった。
じゃあ、どうすれば、生き残れるのか???
だから俺は、こうすることにした。
「ヴェーベルンよ」
イーリスに向かって、バッと手を広げる。
「良くないものが動き出しつつある。備えるときだ――ヴェーベルン。辺境の大地で育った美しき剣よ。敵と味方を違えるな」
そう――
これこそが、俺のたどり着いた秘策。
――めっちゃ意味深なことを言う。
もうこれしかない。
要するに、俺は今のままだと「昔会ったことがある嫌みで偉そうな公爵家嫡男」と言う立ち位置である。
これはよくない。
なので、俺は意味深な言葉を連呼することにした。
こうやって、「嫌みで偉そうな公爵家嫡男」から脱却し、「たしかに嫌みなことを言っていたけど、何か意味深なことも言っていた不思議な公爵家嫡男」にイメージを変えようというわけである。
俺は思っていた。
これは完璧じゃないか?と。
こうすれば、後々、
「実は、あれはグレゴリオって市長に言われて仕方なく~~。僕は危なそうな建物にいたけど、実は水しか飲んでないよ!!! ちなみに、メイドの件も誤解です!!」
と、イーリスに謝ることができるかもしれない。
うん。なんならグレゴリオの悪事ごとバラしたっていい。
俺は、あの場にいた全員まとめて売る気満々だった。
そうして、この一件が終わったら、後は好きなだけ、主人公ジーク君とイーリスに媚びてこびて媚びまくればいい。
貴族の矜持???? 貴族の義務?????
そんな単語では、過酷なる18禁ゲーの世界を生き延びられないのだよ。
なので、俺に「何を言いたいの?」と聞かれても困る。
本人も何を言いたいか、いまいち理解していないからだ。
「影があるからこそ、光があり、光があるところには必ず影がある。そう、すべては必然。すべての物事はコインの表と裏にすぎない」
「う、ウルトス様……??」
後ろからも、リエラの困惑した声が聞こえてくるが無視。
無視無視。
「目に見えるものだけが真実ではない。魔物もそうだ。1か所じゃなく、全体を見つめろ。悪とは一見、見えないところにある」
「………!? あ、あなた、何か知っているの?? もっと詳しく!!」
眼を見開き、すがるようなイーリス。
が。
「さてな」
俺は質問には答えなかった。
「――真実には、自分の足でたどり着け。自分の手でつかみ取った真実こそ、意味がある」
手をひらひらと振る。
とりあえずそれっぽいことを言い終えた俺は、元いた違法クラブに向かって歩き始めた。
「ど、どういうことなの……。一体、何が……」と、困惑し切ったイーリスを、置きっぱなしにして。
ちなみに、俺が言いたかったことは、
すべてのものには裏と表がある = 俺は一見クズっぽいけど、いいところもありますよ! 悪いのは全部、一見印象が良さそうに見える、あのクズ市長です!
というアピールである。
なんか意味深なことを言いまくったが、それ以上の意味は一切ない。
――やがて。
入り口の方の騒がしさはすっかり収まったらしい。
市長お手製の、青少年に悪影響を与えたいとしか思えない違法クラブに戻った俺は、またまたソファーに座りながら、くつろいでいた。
横にはリエラが張り付いている。
「ヴェーベルン男爵家令嬢は、どうやらお帰りになったらしいですね」
「そうみたいだね」
これで頼りにしていたはずの貴族に愛想を尽かし、イーリスは今日の深夜、リヨンを出る。
――いよいよだな。
そして、ようやくこっちでも動きがあったようだ。
「あ、あれ………なんか急に眠くなってきましたね………」と、俺のすぐ横にいた貴族の子息が、あくびをする。
「お、俺も………」と、次々にその場にいた貴族の子息たちが眠気を訴え始めた。
椅子に座りながら、ぐったりと眠り始める遊び人たち。
「………始まったか」とつぶやく。
どうやらグレゴリオ市長は、やる気満々らしい。
――いよいよ、後半戦。
戦闘パートの開始である。
今後の予定を思い浮かべながら、俺も目を瞑ることにした。
―――――――――――――
明けましておめでとうございます。
いつも、いいねや感想等ありがとうございます!
カクヨムコンも後半ですが、一緒に楽しんで行きましょう!!
ちなみに自分はプロットを書かないで当作品を始めたせいで、今死ぬほど後悔しています()
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