第19話 クズトスの活躍()
少しの会話を挟んだ後、「あぁ………!」とグレゴリオが急に何かを思い出したように両親に呼びかけた。
「そういえば、あちらの方でベルツ伯爵がお探しでしたよ。行かれた方がよろしいか、と」
「いやでも」と少し両親は躊躇していたが、
「大丈夫ですよ!」と大げさな様子でグレゴリオが相槌を打つ。
「見たところ、ご子息は優秀そうですし、側に侍女も控えておられるではありませんか。そしてちょうどいいことに、私も、ご子息と同じような年頃の子を集めて、顔見せの機会を作ろうとしていたのです」
そんな両親に畳みかけるようにして話すグレゴリオ。
そうか、と納得した様子で、両親は別の方へと去っていった。
両親を見送った後、
「いやあ、中々挨拶、と言うのは疲れるよねえ」とグレゴリオが気さくに話しかけてきた。
さっきまでの硬さが抜けた彼は、ちょっと年上のお兄さんみたいな雰囲気を醸し出していた。
まあ実際は、とんだ詐欺師のお兄さんだが。
「そうですね」と返事をすると、
グレゴリオが周囲には聞こえない程度の声で、ささやいてきた。
――もっと楽しいところに興味はないかい? と。
「楽しいところ、ですか………?」
俺が不思議そうに聞くと、グレゴリオは穏やかに笑った。
「ああ――君は特別な生まれなんだ。そんな特別な君にふさわしい場所に行かないかい?」
グレゴリオ兄さん曰く、「楽しい場所」に案内されている間に、俺は、このイベントのことを思い返していた。
さて。
『ラスアカ』において、リヨンは始まりの街と呼ばれている。
なぜなら、主人公のジーク君が英雄を目指すきっかけとなる事件が起こるからだ。
あらすじとしては、こんな感じである。
~~~~~~~~~~~
主人公のジークは、リヨンの街の近く、ラグ村に住む村人である。
ジークの父親は、リヨンの街の騎士団に所属しており、当然、ジーク君もそんな父親に憧れ、修行をこなす日々を過ごしていた。
そして。
ある時、隣のハーフェン村に貴族のお嬢様が来た、という話を聞き、ジーク君は興味津々で会いに行く。
そこにいたのが、メインヒロインの1人――イーリス・ヴェーベルンである。
彼女は、辺境出身の貴族の娘で、多発する魔物災害のため、親と一緒にリヨンの会議へと参加する途中で、村に泊めてもらっていたのだ。
若い2人は意気投合。
ジーク君が「僕が君を守るよ」と誓い、イーリスも頬を赤らめてうなづく、という王道幼馴染ルートを開拓されるのだが――
が、しかし、である。
ジークとの再会を誓い、リヨンへと着いたイーリスを待っていたのは、堕落しきった高位貴族たちだった。
会議が終わっても、盛大な夜会で享楽を尽くし、肝心の魔物対策は後手後手。
しかも、名君と呼ばれたランドール公爵でさえ、彼女の眼には、遊び惚けているように見えてしまった。
さらに悪いことに、ランドール公爵の次期当主(俺)は、もっとひどい遊び方をしていた。
同じような地位の貴族のバカ息子たちと、女性を侍らせ遊ぶクズトス。
もちろん、正義感にあふれる彼女は、そんなクズトスを問い詰めた。
――あなたは貴族としての義務を、何だと思っているの、と。
だが、そんな彼女の質問に、あろうことかこの国を担うはずのウルトスは嘲るような口調で、こう言うのだ。
「辺境の娘ごときが、偉そうに僕ちんに指図するつもりか!」と。
なんなら、「その美しさに免じて、僕ちんの妾になるなら許してやってもいいぞ」と謎の上から目線を披露し、プレイヤーを軒並みイラつかせることまで言う始末。
当然、これまで中央の貴族に憧れをもっていたイーリスは大きなショックを受け、逃げるようにしてリヨンを去る。
そして、そんな道中、彼女はさらわれてしまう――
~~~~~~~
彼女がさらわれてからは、ゴリゴリの戦闘パートに移るのだが、ここまでが、このリヨンのイベントの前半パートになる。
………うん、素晴らしい。
このように、我らがクズトス少年は至るところで、大活躍してくれるのだ。
ちなみに、この件がきっかけでクズトスは、後々、魔術学院に入学した後、昔振られたイーリスと平民の主人公を邪魔するために、青春を費やすことになり、最終的に見事「ざまあ」される、と言うわけである。
う、嬉しくねえ………。
「さあ、もうすぐですよ」というグレゴリオの声で、俺は意識を取り戻した。
夜会の会場から少し離れた所に、俺は案内されていた。
まあ要するに、グレゴリオ兄さんは、ランドール公爵家の次期当主を人目に付かないような遊び場に案内し、堕落させようとしているわけである。
ありがた迷惑この上ない。
建物の前には、ゴツそうな見張りの人間も何人かいる。セキュリティはしっかりしているらしい。
グレゴリオが目配せをすると、扉が開いた。
中は真っ暗で何も見えない。
さて。
――どうなることか。
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