第17話 ――かかったな



「いやあ、ウルトス。久々だねえ。元気だったかい?」

「そうよ。中々会えなくて、申し訳なかったわね。」


「いえ、お久しぶりです。父上、母上」


 リヨン――規模だけで言うと、王都にも勝るとも劣らない都市に、俺は来ていた。

 

 中心部の賑わいを抜けて、少し奥まったところにある閑静な屋敷。

 そこが、ランドール家のリヨンの別宅である。

 



 そんな中、俺は両親と食事を取っていた。

 目の前にいる、父・ドミニクと、母・アマーリエと軽く会話をする。


「いやしかし、お前が元気でやっていると聞いて嬉しいぞ。なんでも――域外魔法を顕現させた、とか。いや、本当に素晴らしい。私も、アマーリエもそれほど魔法に秀でているわけではないからな」


 と、ドミニクが言えば、アマーリエも、そうねえ、と同意する。


「ちょっと、先生を選ぶときには不安があったが………」


「不安ですか?」と俺は問い返した。


 食事の手が止まる。

 なにか、いやな予感がした。


 たしかに、なんでカルラさんがクズトスの屋敷に来たのかは謎だったが……。


「ああ、なんでも高名な魔導師を呼ぼうとしたら、ウルトス。お前は『絶対に女性じゃなきゃ嫌だ!』と泣いて駄々をこねてなあ」と父。

 

 うっ………。


「ねえ……しかも、年齢は20代から30代までって、言いだしたら聞かないし………高名な魔導師の方で、それほど若い方は少ないしねえ」と母。


 う、う………。


「まあでもよかった。きっと女性らしい優しい感性と、20代という若い感性がお前と合ったのだろう」

「あ、アハハ……」


 納得した様子で、笑い合う両親。

 2人は、ウルトスにもそれなりの考えがあると思っているようだ。


 が、しかし。

 俺にはクズトス少年の下心が手に取るようにわかってしまった。


 クズトス……お前……絶対何も考えずに美人な女性を指名しただけだろ。

 

「はい、良かったです。本当に……」


 



 とまあ、俺は一方で胸をなでおろしていた。


 クズトスの両親はいい人だ。

 基本的には性格が良く、人を疑うような真似はしない。


 領民や領地を大事にして、それを次世代に引き継ぐ。



 いい貴族のお手本といったような趣である。



 が、しかし。

 どこか心の奥底で、俺は危機感を感じていた。


 例えば、最近の魔物の出現について聞いてみると、

 

「なあに、大丈夫さ。ウルトス。お前も知っての通り、近年、魔物は増えているが、あくまでも偶然だ。少し経ったら収まるだろうよ」


 また、最近の政治について聞いてみても、


「う~ん、まあそうだな。王都の方では、色々とキナ臭い動きもあるようだが、心配ない。直に収まると聞いている」と笑って見せる。



 危ういな、と俺は考えていた。


 いや、おそらく両親はいい領主なのだろう。


 人の訴えをよく聞き、じっくりと物事を考える。現に、ランドール領の安定ぶりは群を抜いている。



 ――が。それはあくまでも、このままの状況が続けば、である。



 残念ながら、ここは『ラスアカ』の世界。

 両親が思うようには行かないのだ。


 と言うか、ここからは飛んでもない事態のオンパレードが始まる。


 魔物の大量発生は終わらず、盗賊ははびこるわ、伝説の竜は復活するわ、最終的には世界を滅ぼそうとする組織まで暗躍する始末である。



 結論。

 そういう魑魅魍魎が跋扈する18禁ゲーの世界では、両親はついていけない。


 そして何より――


 もっと言うと、このイベントがきっかけとなり、クズトスの両親は徐々に立場が悪くなってしまうのである。



「そういえば」と言いながら、俺は屋敷の中を見渡した。


 屋敷の中は、中々高級そうな品々が揃っていた。


 絵画に、銀の食器、高そうなワインなどなど。

 心なしか、アマーリエが付けているネックレスなども、宝石が大きく高級そうな品に見える。


「中々、いい品ですね」


 ああ、そのことか、とドミニクが恥ずかしそうに首を振った。


「実は、リヨンの市長――グレゴリオ、という男なのだが、彼の贈り物が凄くてね。自分は質素に暮らしている、と言うのに、私たちに頻繁に贈り物をしてくるのだよ。私自身、あまり贅沢なものが好き、と言うわけではないのだが、どうも断りにくくてねえ」


 なるほど。

 贈り物、か。


 それから間髪入れずに尋ねる。


「顔見せを行う、と言う話は、その方とでしょうか?」


 そうだ、と頷く両親。

 どうやら両親的には、その市長と合わせたがっているらしい。


 早め早めに、息子とのコネクションを作っておかせたいのだろう。


「ウルトス。どうしたんだい? 不安かね? いや少なくとも、悪い男ではない。有能だし、よく働いてくれている。しかも、たまたま他の貴族も、リヨンに集まっていてな。ちょうど同じころの年代の貴族の子を集めて、顔合わせの機会を作ってくれているらしい」


「それは是非是非――」


 俺は頭を下げた。


「よろしくお願いします」



 ついに、かかったな、と思いつつ。

 

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