第13話 転換点


「いやあ」


 おかしいぞ、と俺は思った。

 カルラさんと改稿してから二週間ほどが経とうしていた。


「やっぱどう考えてもおかしいよな……なんでこうもモブっぽくなれないのか」



 まずは、リエラ。

 最近の彼女は、何かがおかしい。


 せっかく、『あ~ん』を廃止にしたというのに、彼女だけは『あ~ん』を割と気に入っていたようだ。


 この前だって、


「『あ~ん』はもうなされないのですか……?」とリエラに聞かれ、


「あぁ〜うんまあ、もういいかな。ちょっと不安定だったんだ、色々あってね」と適当に返事をした時も、


「そうですか……私はしょせん、『あ~ん』する価値もない女なんですね」とうつむいていた。


「……………」


 うん、意味が分からない。

 なんだよ、『あ~ん』する価値って。


 あんな気持ち悪い行為に価値もクソもないだろ、と思うのだが……。


 仕方ないので、


「リエラ。君の価値が下がったんじゃない――そう。

 逆に『あ~ん』の価値が下がったんだ。君には『あ~ん』なんかもったいないよ」と謎のフォローを入れておいた。


 ちなみに、その言葉を聞いたリエラは大層ご機嫌だったらしい。


 俺が訓練場に行ってある間、屋敷の掃除で彼女が鼻歌をごきげんに歌っていた、という噂が俺のところまでお届いている。


 ……本当、女性ってよくわからんな、と俺は前世も含めて改めて、女心の難しさを感じた。





 そして。

 まあ、エンリケはどうでもいいか。


 彼も、訓練場で元気にやっているようだ。


 この前なんて、若い兵士と、


「強さって何でしょうか?」

「強さか。それは――揺るがないことだ」


 と一見カッコイイ会話をしていて、たまたま横を通った俺は、聞いていて何とも微妙な気持ちになった。


 

 いや、エンリケ。お前、Fランクじゃん、と。


 しかも、元Fランクである。


 冒険者を一度放逐された人間は復帰が難しい。

 と言うわけで、エンリケはこれ以上、ランクを上げられそうにないのである。


 そう。彼は、一生Fランクのまま。



 ……ま、まあ、本人たちが楽しそうにしているんだから、外野がとやかく言うことではないよな、と俺はこっそりその場から去ることにした。




 さらに、極めつけは、最近知り合った大人気ヒロイン、つよつよおねえさんのカルラさん、とおかしい。


 人を拒絶する、孤高の魔導士。


 主人公と関わって少しずつ心を開き、最後にはデレる、というギャップにより数多のプレイヤーの心をつかんだ彼女は、俺を見るたびに、


「む」


 と言いながらハグしてくる痴女と化してしまった。


 あれから何回か魔法を習うために会っているのだが、俺と会うたびに、


「……いいんだ」と言って頭を撫でてくるのは辞めてほしい。


 しかもそれって、カルラさんのルートの最後の方で好感度が最高に達したとき、主人公をハグしてくれる、という結構レア行為だった気がするのだが……。


 カルラさんが割と当たり前のようにやってくれるので、俺の感動は急速に薄れ始めていた。


 そして、カルラさんがそんなことをするたびに、物陰からメイドがこちらを物凄い眼で見てくるから、全然なにもよくはない。


 ただ、俺は一歩一歩、少し遅い歩みだが、モブ人生に近づけているような気がしていた。


 


 



 ――が、しかし、俺は気が付くべきだった。


 原作のシナリオは、着々と進み始めているということに。



 ある日のこと、珍しくリエラが部屋に駆けこんできた


「ウルトス様! お父上とお母上が帰ってくるそうです」

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