第10話 ラスボスと主人公とクズ専用魔法
「あ、あの〜」
「……………」
無言。
俺は作中の人気キャラから、絶賛冷たい視線を浴びせられていた。
「あの〜」
「まあいいさ。単刀直入に言う」
やっとカルラさんが口を開いた。
どうやら彼女は、俺とそれほど会話したくないらしい。
なるほどね。
そりゃそうか。さっき聞いたばかりだが、こちら側の第一印象があまりにもゴミすぎる。
クズトス……。お前そんなことやってるから、将来的に"ざまあ"されるんだぞ。
「君の魔法の属性は――」
カルラさんの眼と、俺の眼差しが交差する。
「【空間】――世にも珍しい、域外魔法だ」
「………………」
「おい、どうした。喜ばないのか」
そう言って、きょとんとするドジっ子美人。
「域外魔法ですか………」と表面上和やかに返事をした俺だったが、内心ではめちゃくちゃ泣いていた。
なぜなら、クズトスが嫌われる原因となった魔法――それこそが、この【空間】の魔法だったからだ。
この世界の魔法には、属性がある。
例えば、メジャーなところで言うと、【火】とか【水】だろうか。
これらのメジャーな魔法は魔力さえあれば、誰でも――もちろん程度の差はあるが、習得することができる。
しかし、そんな中、ある特定の人間にだけ扱える魔法属性がある。
≪域外魔法≫。
常人の域を超えた者だけが使える――特別な魔法。
ちなみに、カルラさんも域外魔法をもっている。
うん。
だから本当は、俺は喜ぶべきなのだ。
実際、クズトス少年だったら、「グッフッフ、僕ちんは天才だぁ~~~」くらい言うだろう。
もちろん、『あ~ん』付きで。
が、全然喜べない。
そして、域外魔法の中でも、特に【空間】は特別だ。
なぜなら、
なぜなら…………
なぜなら…………………
この【空間】の魔法は――
主 人 公 と ラ ス ボ ス 専 用 だ か ら で す。
「…………」
そう。
これは物語後半で明らかになるのだが、『ラスアカ』のラスボスは正体不明の魔法を使う。
そして、それに一切歯が立たない主人公のジーク君たちだったが、仲間のピンチにジーク君が覚醒する、という熱いイベントがあるのである。
得体の知れないラスボスの魔法に次々に敗れていくヒロインや、仲間たち。
そんな時に、今まで特異な属性がないかと思われた主人公が、ふと魔力を覚醒させるのだ。
そして、主人公の魔法だけがラスボスの魔法に干渉することができた。
そう。
ここに来て、ラスボスは気が付くのだ。
――2人が、同じ属性の魔法を使えることに。
この世界でも、属性被りすることは結構あるようだ。しかし、超レアの域外魔法が被ることなど基本的にあり得ない。
俺も大好きな覚醒シーンである。
覚醒シーンとか暴走シーンって、夢が合っていいよね。
こうして、【空間】の属性をつかさどる域外魔法は、主人公とラスボスのみが使える魔法と公式で認定されました。
めでたしめでたし。
………と言うわけなのだが、後日、公式から驚くべき発表がされた。
――【空間】の域外魔法を持つキャラは、もう1人いる。
この発表に、俄然、考察するファンが急増した。
最後の1人は、一体誰なのか。
ヒロインの中にいるのか?
それとも新キャラか?
もしかしたら、可愛い新たな隠しキャラ???
プレイヤーの疑問はもっともだった。
全プレイヤ―が、残された1人に熱い期待を寄せていた。
そして。
そんなプレイヤーたちを待っていたのは――
「実は、クズ…………じゃなくて、ウルトスでした。実は、彼も初期設定では、空間魔法の使い手だったんですよね~」と言う公式生放送での発表だった。
当然、ファンは激怒した。
え?
【空間】の魔法って、主人公とラスボスだけだから、いいんじゃない?
だからこそ、特別感が出るのでは????
いや、なんでよりによってクズトスなんだよ、と。
単なる性格の悪い中ボスじゃないか、と。
炎上する○イッター、暴言飛び交うコメント欄。
「はぁ………」
その炎上を思い出した俺は、思わずため息を付いた。
外れてほしかった。
自分とラスボスと主人公にだけ配布される魔法なんて最悪だ。モブからありえない速度で遠ざかっている。
しかも、この場合のクズトスの魔法が問題なのだ。
そう。
いくらクズでも、主人公とラスボスのようなカッコイイ魔法の使い方をしていれば、まだよかったのかもしれない。
が、しかし。
そこはどうでもいい方向に才能があることに定評のあるクズトスである。
クズトスの空間魔法の使い方はこうだ。
覗きに使う。
女子生徒の服を透視する。
――以上
………。
………………。
………………………………。
な?? 笑ってくれよ。
もうめちゃくちゃだろ????
ラスボスが何もない空間から武器を取り出したり、主人公が仲間を守るために空間に障壁を張ったり、とあれほどカッコイイ使い方をしているのに、このクズは完全に女子生徒へのちょっかいにしか使っていないのである。
だ、ダサすぎる………もうやだ…………。
絶望した俺は思わずこう呟いてしまった。
「消えたい………」
「えっ」
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