第9話 絶対に嫌われてはいけない相手



「さて。今日、私は魔力鑑定の結果を伝えるために、ここへ来た」と冷静な様子で話し出す女性。



 カルラ・オーランド。


 大人気ゲーム『ラスト・アルカナム』――略して、『ラスアカ』のヒロイン陣の中でも、トップクラスの人気を誇るキャラクターである。


 職業は魔導士。


 魔法を極限にまで鍛えたキャラで、主人公パーティーに加わるのはだいぶ後半になるが、その分、圧倒的な強さを持つ。



 俺は相手の顔を見つめた。


 彼女は大分、特徴的だった。


 怜悧な表情。そして極めつけが、その衣装だ。


 なんだろう、例えるなら、チャイナ服のような服だ………。


 しかも、足にスリットが入って、白い脚がちらちら視界で暴れる。

 さらに、もっと言うと、胸の辺りにざっくりとした切れ目が入っているせいで、とんでもなく目に毒である。


 ぶっちゃけ言おう。

 彼女は相当の露出狂である。

 

 立派な痴女だ。

 とあるコミケで、彼女のコスプレヤーが増えたというのも頷ける、ド変態衣装である。


 ――が、


「ああ、魔力鑑定の結果ですか」


 と俺は、なるべく顔を見るようにしながら答えた。




 魔力鑑定。

 それは魔法の才能がある、とされる子供の魔力を調べ、どの属性と最も相性が合うのか鑑定することを言う。


 属性魔法と呼ばれる、《火》とか《水》とかなのか、それとも味方を支援する《補助》の魔法なのか。

 

 ちなみに、我らが主人公――彼はジーク君と言うのだが、彼の場合、小さいころ受けた魔力鑑定では結果が出なかったが、後々経験値やスキルのレベルを割り振ることによって、際限なく魔力が高まるというチート仕様となっている。


 うん。

 主人公補正怖い。

 


「では、人がいない方がいいでしょうね。別室を」


 俺はリエラにそう呼びかけた。

 魔力鑑定の結果は、結構プライベートなことなので、人払いをするのが普通だ。


「場所を変えるのか」


 そう行って、カルラさんも歩き出す。



 ――が、俺は忘れていた。

 

 カルラと言う女性が、人気を博したその理由を。


 やば。


「あ、お気をつけくださ………」と俺はとっさに呼び掛けた。


 そう。

 彼女は強いだけではなく、ただ露出が豊富な美人なだけでもない。

 彼女が人気な理由は――



「へぶちっ!!!!」




 お気を付けください、という前に、俺の目の前でカルラさんがぶっ倒れた。


 もう一度繰り返すが、何もない場所だ。

 段差もなく、障害物もないところである。


「か、カルラさん………」


「………………」


「……あの、カルラ導師……」


 無言。


 カルラさんは無言で立ち上がると、まるで何もなかったような顔をした。


「む、どうした? その顔はまるで、私が何かドジを踏んだかのような」 


「……い、いえ」


「ほう。では案内を頼む」


 俺は微妙な表情でその様子を眺めた。

 カルラ・オーランド。


 彼女は……。

 彼女は……彼女は……、


 そう。



 と ん で も な く ド  ジ な お 姉 さ ん な の で あ る。



 この美人っぷりからは想像もつかないドジ女。


 しかも見ればわかるように、自分のミスを何事もなかったかのように処理しようとする、と言うだいぶダメ寄りのキャラである。


「え?? カルラ様。先ほど物凄い声で倒れ――」


「い、いえ!! さあ鑑定結果を教えてください!! ね???」


 リエラが余計なことを言う前に、必死に声を張り上げる。


 リエラ、教えてあげるよ。


 ………この世には、ツッコんではいけないこともあるんだ。







 カルラさんを案内する。


 こんな風にちょっとズレた彼女だが、案外、要注意人物である。

 

 エンリケのような冒険者というのは、意外と貴族からそこまで好かれていない。

 なぜなら冒険者という人間は基本的に、適当で、場当たりだからだ。


 たまに、めちゃくちゃ家柄もいいのに、冒険者一本の変わり者もいるが、基本冒険者は信用されていない。

 作中のお使いクエストでも、何度悪さをした冒険者を討伐したことか……。


 が、しかし。 

 魔導士は別だ。


 魔導士はきちんとした学院に通い、それなりに尊敬をされている存在である。

 

 ――そう。

 このドジ女でも、それなりに貴族に顔が利くのだ。


 ちなみにクズトスが"ざまあ"されるときは、カルラさんも一役買ってくれる。


 平民である主人公の勇気ある告発に、心を動かされた彼女が力を貸す、という流れだ。


 距離を縮める2人。そして、泣きながら爵位を剥奪される俺……。

 うっ、胃が痛くなってくる。



 しかも、強大な魔導士。


 どう考えても敵に回したくない。




 おわかりいただけただろうか???

 

 つまり、俺はここでカルラさんに粗相をしてはならない。

 好かれる……のは無理だろうけど、何とかして普通、くらいの好感度にしなければならない。






 なのだが。

 俺は妙に嫌な予感を感じていた。


 後ろからついてくるカルラさんのプレッシャーが妙に重く感じるような気が……。


 そして、


「ほぅ。今日は、いつもとだいぶ様子が違うじゃないか」


 部屋を移した後、カルラさんがそう言ってきた。


「というと?」


 と返事をしつつ、俺は嫌な予感は続いていた。


 思いだした。


 魔力鑑定には血が必要で、その血を解析するのに、一か月ほどかかる。

 ということは、だ。


「この前会った時は、だいぶ偉そうにしてきたのにな。言っておくが、私は魔導士だ。下手な動きをしない方がいい」


 ですよね~~~~~。

 はい、めっちゃ警戒されています。


 カルラさんはさっきまでのドジっ子感を完全に消し去り、非常にまじめな顔をしていた。


 俺にはわかる。

 いや分かってしまった。


 

 ………なあ、クズトス。

 お前絶対、またろくでもない事をしただろ………。

 

「ち、ちなみに前会った時は、どんな感じだったのでしょうか?」


「ふん、白々しい。私をいやらしい目で嘗め回すように見つめながら、おつきのメイドに『あ~ん』をさせていたな」


「………………」


 絶対零度の眼でこちらを見つめてくる作中随一の美人キャラ。


「アハハハ……」


 もはや乾いた笑いしか出てこない。


「ハハ……」



 ああああああああああぁぁぁぁぁあ、もう!!!!!!!!!



 俺は思った。

 クズトス………お前、原作開始前の癖に、クズっぷりを発揮しすぎじゃないか、と。


 もうちょい抑えろや、と。

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