第5話 クズvsクズ


 ――ランドール・ウルトス。


 一世を風靡したゲームの中でも、蛇蝎のごとく嫌われたクズ悪役。

 性格がねじれ曲がっており、権力をかさに主人公やヒロインをつけ狙い、最終的に思いっきり"ざまあ"されることになる。


 今まで散々、プレイヤーから稼いだヘイトは凄まじく、動画投稿サイトに、『【史上最悪のクズ集】』『【日本ゲーム界に名を残すクズ】』というタイトルで、ざまあシーンが投稿され、圧倒的視聴回数を叩きだしたこともある、という。



 そんな俺がなぜ、幼少期に冒険者とわざわざやり合わなきゃいけないのか、と思うかもしれない。

 

 が、俺は密かに勝利への策を見出していた。

 

 まず第一にクズトスはただのクズではない。

 めちゃくちゃ才能があったゆえに、調子に乗ってしまったというタイプのクズである。


 つまり、クズトスは素のスペックは割と高いのである。


 魔力も豊富。そして覚える魔法も強力。

 まあ、学園に入って主人公と会う頃には、胡坐をかきすぎて目も当てられないほど弱体化しているのだが………。


 そう。

 現時点では、結構強いはずなのである。


 そんな彼のスペックをみんなに披露して、まともな姿を見せつける。

 これしかない。







 そして、そんな俺は、


「本当にいいんですか、お坊ちゃん」とニヤニヤ目の前で笑う男を見つめた。


 エンリケ。 

 ゲームには出てこないが、俺はこいつをクズトス少年と同類だと判断していた。


 ――とどのつまりが、こいつもクズである。



 理由は簡単だ。

 こいつはこの期に及んで我が家に仕えているからだ。


 基本的に、その家に長く仕える兵士たちとは違い、冒険者はフリーである。

 魔物を狩るもよし、名声を得て有名な家に仕官するもよし。ギルドという組合に入ることで、仕事は基本的にある。


 つまり、冒険者は一人で生きていけるし、基本的に自由なのである。

 

 そんな冒険者はプライドが高い。

 

 クズトス少年の「ビキニアーマー巨乳女冒険者」発言によって、意識が高そうでちゃんとしてそうな冒険者は、ぶちぎれて帰ってしまった。

 

 くだらない職場だったら辞めてやるよ!! って感じである。



 が、エンリケは残っている。


 たぶん、こいつは冒険者的なプライドなど一切なく、我が家に寄生したいだけだろう、と俺は予想していた。

 

 うん。

 クズトス少年とは違うベクトルで、まあまあのクズである。


「………………」


 俺はエンリケを無言で見つめた。

 冒険者には最弱であるFから、"至高の領域"と言われるSSランクが存在する。


「なんですか? お坊ちゃん」と相変わらず目の前の男はヘラヘラしている。


 うん。

 どう見てもはずれのクズである。

 

 俺だって、この世界に数人しかいない、と言われているSSランクや、1人で一軍と同等の戦力を持つと言われるSランク冒険者がここにいるとは思わないが、いくら何でもこれはひどすぎる。


 ちなみに、エンリケに「冒険者のランクは?」と聞いてみたところ、


「それがギルドにランクを剥奪されちゃったんですよね。アッハッハッハ」と言う答えが返ってきた。

 

 あ、やっぱクズだ。


 漂うダメ男臭。

 たぶんFランクとかだろうな。







「じゃあ、始めますか」


 どこからでもいいですよ、というエンリケの声に合わせ、剣を構える。


 後の心配は、身体がついてきてくれるかどうかだった。

 が、俺はそれほど心配してなかった。


 ゆっくりと深呼吸をして足に魔力を集中させ、踏み込む。


 この一歩は、俺がモブらしく歩むための第一歩である。



 そして。

 


 ――踏み込んだ、その瞬間。



 俺の景色が、一気に変わった。

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