第3話 side:忠誠心を取り戻したメイド


 坊ちゃま――ランドール家のご子息ウルトス様に、仕えてから何年経ったか。


 リエラは、最近よく考えることが多くなった。


 以前のウルトスは、まさしく天才だった。常人よりもはるかに多い魔力。そして、その血筋。

 いわば、成功が約束されたも同然だったのだ。


 そして、リエラがウルトスに出会ったのもそんな時だった。今よりもはるかに活発だったウルトスは、「俺についてこい」と初対面のリエラに宣言した。

 

 ――その姿を見て、リエラは初めて思った。


 凄い人に仕えることができたんだ、と。





 が、しかし。

 年月は人を変えてしまった。


 近ごろ、ウルトスはめっきり努力するのを辞めてしまったのだ。剣の修行もサボり、魔術もやめ、ひたすらに女性にちょっかいをかける日々。


 しまいには、毎食の『あ~ん』宣言である。

 元々彼を慕っていた使用人のみんなも、次第にウルトスを見限るようになっていた。


 だが、リエラだけは違った。

 リエラは信じていたのだ。


 いつかきっと、いつかきっと元のウルトス様になってくれる、と。

 最初に会った時のようなおぼっちゃまに。


「ふふ………」


 久しぶりに休みをもらい、右手を休めていたリエラは笑ってしまった。


「坊ちゃまったら………」


 今日のウルトスは、久しぶりに真剣な表情をしていた。

 しかも、リエラの右手の症状を見破ってしまったのである。


 これにはリエラも驚いた。

 リエラだって、公爵家のメイドである。基本的なマナ―として、けがを隠すくらいはしている。


 それなのに、ウルトスは一発で見抜いて見せた。


 それに、


「――俺のメイドは、お前だけだからな」という聞こえるか聞こえないかくらいの声。

 

 きっと恥ずかしがっていたのだろう。

 けれど、その声は確実にこちらに聞こえていた。


「もちろんです」とリエラはつぶやいた。


 自分の主人は、本当は凄いんだという気持ちを込めながら。










 ――まさか、ウルトスが自分の命と『あ~ん』と天秤にかけていたせいで、クソ真面目な顔をしていたとはつゆ知らず、リエラは心の底から忠誠心をかみしめていたのであった。

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