第10話 冬の魔術師のある一日

 次元の狭間、最果ての館。

 記憶を失ったままそこにたどりついた冬の魔術師ウィル。

 これはそんな彼の、なんてことない一日の話である。

 その朝は早い――(?)


 


8時:起床


 朝。

 特に予定もない朝――ぼんやりと惰眠を貪る。


「ウィルー!! 朝だぞ、起きろー!!」

「いってぇ!?」

 

 カナリアに布団の上にダイブされて渋々起床。朝からうるさい。

 もう少し惰眠を貪りたかったところだが、仕方ないので起きることにする。

 フクロウ(使い魔)はまだ寝ているので放置し、のそのそと着替えてカフェ室へ。

 シラユキに朝ご飯をたかりに行く。


 


8時32分:朝食


「おはようウィル君! 今日はロールパンなんだけどいいかしら?」

「構わんぞ」


 今日の朝食はロールパン。バターはセルフ。

 そこにレタスと、ベーコンとスクランブルエッグの皿。あとはコーヒー。

 カナリアが突っ込んでこないので、たぶん異変は発見されていない。


「そうだ、ウィル君。今日って時間あるかしら?」

「俺は元いた世界を探すという使命がある」


 明らかに巻き込まれる予感がして、至極まっとうな答え方をする。

 

「じゃあおひまね!」


 面倒がってるだけなのを普通に看破される。


 「カナちゃんがほしいパーツあるから買い物に行くんですって。ついでに足りないものも買いたいから、ついてきてほしいのよ」

「あいつのほしいパーツっていうと、いつもの『3番目』の扉か?」

「特殊パーツだから『4番目』って言ってたのだわ」

「そうか。……でも、お前まで行っていいのか?」

「『伯爵』君にお留守番頼めるでしょう? お願いしたいのだわ!」

「……はいはい」

「私たちは11時くらいになる予定だから、それまでに4番目の前に来てね」



 

9時30分頃:異界の扉を閉める


 廊下に見覚えの無い曲がり道と通路が出来ているのを発見。

 この館はたまにこういう事がある。

 何かあっても困るので進む。

 小さく開いた扉から、小さなボールのようなものが出てきて転がっている。

 大小様々で、どれもスーパーボールくらいの、手より小さい大きさ。

 それが廊下にぐにゃぐにゃと飛び出している。

 ひとつ持ち上げてみると、予想外にぶにぶにしていた。


「うわ……」


 独特の感触に思わずリアルに声が出た。

 スーパーボールではなくスライムやクラゲの感触がする。微妙に気持ち悪い。

 ひとまず拾ってすべて扉の向こうに返還。

 たいていの「異界」なんてのはこんなものである。

 支配種がいる世界の方が稀で、よくわからない世界に繋がる事も多い。

 前は枕だけがひたすら謎の空間に浮いていた時は、さすがに困惑した。

 扉はきっちり閉めておく。

 あと、即刻革手袋を替えに行き、ついでに手も洗いに行く。




10時20分頃:自室


 使い魔(フクロウ)を起こして留守番を頼む。

 名前を思い出せないのもあるが、既に名前が『伯爵』でも反応するようになってしまった。

 どう考えても双子のせいだ。



 

11時頃:買い物


 『4番目』の扉の前に集合。

 既にカナリアが向こう側に行っているらしく、座標もずらしてあった。

 扉をくぐるとやや暗い地下駐車場。この世界での「車」が置いてある。

 上の階にあがるとホームセンター併設のショッピングモールについた。


「はい! オレはホームセンターで工具見てくる!」

「私とウィル君はお買い物に行くから、12時半までにはフードコート集合ね」


 そういう感じで買い物に付き合わされる。

 ほとんどが食料品だったのでほぼカート係になっていた。



 

12時30分:フードコート


 フードコートで合流して昼食。

 屋台や厨房が一同に介する場所が室内にあることは稀であるが、最近慣れた。

 というか、商店街がまるごと建物の中にあることも慣れてきた。

 カナリアはグリーンピースくらいの大きさの粒マスタードのポテトサラダにはまっていた。

 ぷちぷち食感が癖になるらしい。




13時25分:本屋~


 双子が二人して「服とか見てくる!」と言ったので本屋に立ち寄る。

 一般魔導書と気になった本を二冊ほど買う。

 

 新生活の時期のせいか、生活・キッチン系魔導具がセール中でやたらと安い。

 防犯用の、位置通知用護符も種類豊富。母親らしき女と娘が楽しげに選んでいた。

 一人暮らしに人気だというドア用簡易結界は20%オフにされていた。

 館にも置いといた方がいいんじゃねぇかと思うが、絶対に間に合わない気がする。



 

15時20分:フードコート


 一通り自分の買い物を終えてフードコートで待ちぼうけを食らっている間、一人でアイスクリームを食べる。

 後から来た双子にうっかり見つかる。

 仕方ないので双子がアイスクリームを食べている時間、また待つことになる。


 


16時13分:地下駐車場~帰宅


 カートでもってきた荷物を地下駐車場に運ぶ。

 車に運ぶふりをして『扉』に運び込む。

 最後にカートを戻したら、『扉』をくぐって買い物終了。

 伯爵を労っておく。


 


19時05分:カフェ室


 カフェ室に夕飯をたかりに行く。

 パスタを食ってたら、昼間にカナリアが食ってたでか粒マスタードが出てきた。

 どうやらあの後買い足したらしい。

 あの世界のマスタードは全部この大きさらしく、確かにぷちぷち食感は癖になる。

 



22時12分:自室


 双子が先に就寝。

 この間に昼間買った本を読む。

 館に落ちてくる本をただ待つより効率はいい。


 

 

24時20分:風呂


 気がついたら24時を超えたので風呂に入りに行く。



 

25時過ぎ:就寝


 部屋のドアは念入りに閉めておく。

 着替えて就寝。



 

 

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