第3話 カクヨムコンに挑戦したい編
「何か作りたい!!」
ある日、私は狭い部屋の中で大声で叫んだ。
「いきなり大声を出してどうした?」
ベッドの上からタマが声をかけてくる。
タマは私が飼ってる猫だ。
猫のくせに人の言葉を話し、おじいさんみたいな声で話しかける。
私は机から振り返ってタマに強く呼びかけた。
「だって、今KADOKAWAのカクヨムコン8が開かれてるんだよ? KADOKAWAの40レーベルも参加していて、ラノベ作家志望さんやプロのラノベ作家さんもみんな参加してるんだよ? みんなカクヨムコンに向けて、熱い想いを語ってるんだよ? それを見ていたら、私も作品を作りたくなっちゃって……!」
カクヨムコンは大手出版社のKADOKAWAが主催するコンテストだ。カクヨムに投稿された小説の中からそれぞれ受賞作品を決めて、書籍化やコミック化が決定するものもある。今トレンドの異世界恋愛や異世界ファンタジー、そしてプロのラノベ作家が参加するプロ部門まである。
連日私のツイッターでも相互フォローのプロのラノベ作家さんやラノベ作家志望さんは、みんなカクヨムコンにかける熱い思いを語り、そしてどんどん新しい作品を制作して投稿している。
その夢に向かって頑張る姿は、まぶしいほどキラキラしていて、ラノベ作家をドロップアウトして現在フリーのシナリオライターをしている私も、またラノベをつくって公募に応募したい熱がふつふつとわいてきたのだ。
「だったら、お主も作品を作って参加すればよかろう?」
タマがあきれたような目で見てくる。
私は頭を抱えながらタマに訴えかけた。
「作りたいよ! 私もお祭りに参加したいよ! でも、できないんだよ!?」
「どうして?」
「ネタが……、ネタがないんだよ……!」
12月半ば現在、カクヨムコンに参加している作品数はすでに1万を超えているという。昨年よりも遙かに増加しているらしい。このまま1月末の〆切までに増加していったら、最終的にどれだけの応募総数になるか想像もつかない。
しかも、読者投票による足きりもあると噂されている。そんな激戦の中でコンテストの受賞を目指すならば、自分が自信をもってつくれる作品で勝負しなければ、とても受賞することはできないだろう。
「やっぱり自信があるネタで勝負しないと、勝てないと思うんだよ。それに、箸にも棒にも引っかからなかったら、また立ち直れなくなるし……」
ツイッターのスペースで偉そうに創作論を語っていた私が落選などしたら、もはや立ち直れなくなる。
「なら、やめたらよかろう?」
タマが他人事みたいに手を舐めながら言う。
「でも、参加もしたいんだよ!」
落選して傷つくのは嫌だが、お祭りには参加したい。
タマは猫のくせにため息をこぼして話を続ける。
「お主はいつも気負いすぎなんじゃ。去年年末特番のテレビ出演のオファーが来たときも、『自分には無理』と最初断ろうとしておったじゃろう?」
「だ、だって、テレビに出演したことなんかなかったのに、いきなり年末特番だよ!? そんなの怖じ気づくに決まってるじゃん!」
「だが、結果はどうだ? テレビに出て何か変わったか?」
「……何も変わっていない」
そうなのだ。昨年末に私はなぜか年末テレビ特番のオファーが来て、テレビゲームを紹介する番組に出ることになった。世界的に有名なゲームクリエイターから、有名芸能人まで出演する番組に、なぜか自分が出演することになってしまった。
最初はびびりまくって、テレビ出演を断ろうとしたが、作家としての知名度を少しでも高めようと思ってテレビ出演することにした。
テレビに出た後は「これで私も有名人!?」などと内心ドキドキしていたが、結果として家族や友人には面白がられたものの、特に新しい仕事に結びつくことはなかった。
むしろ、自分が発言した内容によって、炎上まで起きる始末だった。
それも私には飛び火しなかったから、よかったのだけれど。
「世の中、そんなもんじゃ。お主が想像しているよりも、大きな結果になることなどありはせん。プロ作家でも落選するのは当たり前だし、参加するみんなはお主が受賞するかどうかよりも、自分が結果を残せるかどうかが大事じゃ。誰もお主のことなど気にはしておらん」
「……ううっ、そんなはっきり言わなくてもいいじゃん」
「じゃから、気負うことはないということじゃ。ただでさえ、お主がラノベ作家をしていた頃は、大作をつくろうとして盛大にこけてきたではないか。自分の身の程をわきまえて、自分がつくれるものを作ればよいのじゃ」
「…………」
憎たらしいが、タマの言うとおりだ。
私がラノベ作家をしていた頃は、とにかくすごい作品をつくりたかった。ソードアートオンラインやとある魔術の禁書目録やFateみたいな作品がつくりたかった。
でも、背伸びをした結果、うまくつくることができずに盛大にこけて自信喪失した。
「まずは一歩じゃ。挑戦しなければ何も結果は得られん」
「……まずは挑戦か」
そうだ。まずはコンテストに応募しなければ始まらない。
一発逆転など存在しないことはわかっているはずだ。
ああだこうだと言い訳をしてやらないよりも、落選しても挑戦した方がましだ。
「わかったよ! 私、挑戦してみるよ!」
私は決意を固めて、作品をつくるために真っ白いノートを広げた。
まずは挑戦を続けることが大切だ。
それが次の明日を作ることになるのだから……。
「ところで、お主……」
タマが声をかけてくる。
「……ん? なに?」
私は振り返って問い返す。
「今受けておる仕事は全部終わったのか?」
「……うっ、まだです」
「祭りに挑戦するのも結構じゃが、仕事を落として仕事を干されても知らんぞ」
「……ご、ごめんなさい! 頑張ります!」
私はノートを閉じて、再び仕事に戻っていったのだった。
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