第85話
「ねぇ……それとね?」
今度は私から口を開いた。
「真人さんたちから実は聞いたんだ……今後のこと」
「っ⁉ ……そう、だったんだ」
「ほんとに、行っちゃうの……?」
「うん……今回ばかりは僕もどうしようもないみたいで、さ……」
「悲しいぃ、なぁ……」
じゃあ次海と会えるのはいつ?
そもそもまた会えるの?
こっちに帰ってくるの?
音信不通とかにならない?
また海の声聞ける?
「ほんとにぃ……嫌だなぁ……」
海を安心させて送り出す側なのに、笑顔で優しい言葉をかけてあげるはずなのに、私が弱音を吐いてしまう。
「月……」
ほら、海が困ってるじゃないか。ちゃんとしろ、私。
「絶対……帰って来てね……ずっと待ってるから……っ」
もっと選ぶべき言葉はあるはずなのに、喉から出てくるのはそんな寂しいものだった。
「うん。絶対戻ってくる。毎日連絡取り合おうよ! それなら少しは寂しく無くならないよ」
「うん……」
それでも私は涙を抑えきれなかった。せっかくの安寧。
すべての問題を解決できたと思ったのにまたこれだ。感情を抑えられるわけないじゃない。
そんな海の頭を抱きながら頬に雫を零していると、海がその手を解いて顔を私の目の前に持ってくる。
「じゃあ月、僕が帰ってきて無事月と会えたら、さ……」
「うん……」
「僕と結婚しよう」
「……えっ」
「結婚して何処か遠くへ行こう。そこで二人ゆっくり過ごそう。一軒家なんか建てちゃったりして、平日は仕事かもだけど……週末は二人でサイクリングしたりさ、キャンプしたり。時にはちょっと町の中心に行って買い物したり映画見たり、さ……どう、かな?」
それは彼女なりの覚悟と優しさとが垣間見えた一言で、私は熱く心を打たれる。
余計に涙が止まらない。私は……
「……うん。過ごす! 海と一緒に……ずっと……っ」
「うん。ずっと一緒に居よう」
改めて海の顔を見る。
嗚呼、なんて綺麗なんだろう。
糸のようにさらさらとして白銀の髪、雪みたいに淡いまろやかな瞳、桜みたいに火照る頬、長いまつ毛、柔らかい頬、そして唇。
お互いの視線が交わる。
私たちは永遠をこの一瞬に刻む。
――ちゅ
自然と私たちの顔は不可思議な力に誘われて唇を重ねる。まるでこれが結婚式の誓いのキスのような気がして、私はものすごい幸せを感じた。
それはきっと海も同じで……
「大好きだよ、月」
「私も。愛してるよ、海」
私たちはほんの少しのお別れをして、永遠の幸福を手にすることをここに誓った。
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