第79話

 ダメだ……全然びくともしない。

 このままじゃ……このままじゃ……っ‼



「うわぁー……可愛いブラだね……俺のために着てくれたのかな……しかも結構大きいね」


「……っ‼」


 すべてのボタンが外されてインナーもめくられて、今の私を守るのはブラだけとなった。

 ほんとに屈辱だっ! 

 屈辱でしかない! 

 なにも出来なくて、悔しくて、涙が枕を湿らせる。

 こんな姿を見せていいのは海だけなのにっ……なんでこんな奴に……っ‼


「お次は下の方を……」


「っ⁉ 下はっ‼ 下は止めてぇーっ‼」


「なんも聞こえないねー」


 吐き気がする。こんなんレイプじゃん。手の触り方も海とは全然違う。

 相手の気持ちなんて考えてない、ただひたすらに自分の欲望に身を任せる猿みたい……ほんっとうに嫌だぁっ‼

 靴下を脱がせる彼を、揺れる視界を通して今私は見ている

――その時、あることを思い出した。海がいつかの時に言っていたことだ。


『男なんて金玉蹴ったら弱いよ』


 私は咄嗟にそれを思い出して幸いまだぎりぎり自由な足を使って思いっきり……


「ぐはぁわっ⁉」


 金玉を全力で蹴られた彼は、その痛みに耐えきれず、その場で下半身を押さえて悶絶する。


(今だっ‼)


「まっ、待てぇ……みずのぉー……っ‼」


 その隙に私は彼の腕の中から抜け出して、ベットから起き上がる。

 手首のガムテープは近くにあった鍵の角の部分を上手く使って破くことに成功した。そしてそのままこの部屋の鍵を開けようやく私は外に出ること成功。

 このまま一階に行って彼のお母さんにこのことを伝えなきゃ! 

 いくらそういうことをしてる最中でも、自分の息子がこんなレイプじみたことをしていると知ったら私を守ってくれるはず……‼


「お取込み中失礼します吉原君のお母さん! お願いします私を助けてくだ、さ……い……」


 勢いでその扉を開け部屋に入ると……そこにいたのは薄暗がりの中で裸体をさらしながらベットに横たわっている彼のお母さんともう一人結婚相手であろう男性……なの、だ、が……


「…………?」


「っ……つ、月……月なの、か……?」


 その男性は紛れもなく、私のお母さんに離婚を切り出して家から出て行ったはずの、最低最悪、私の元父親だった。


「お、お父さん……こんなところでなに、を……ま。まさか再婚相手ってよ、吉原君の……」


「……チッ。ああそうだよ。悪いか?」


 やや半ギレ状態で彼が放ったその言葉は、今の私の脳内を余計に混乱させる。


「で、お前はなんでここにいるんだよ」


「……‼ そうだっ、お父さん助けてよっ! 吉原君に部屋に連れ込まれてレイプされそうになったの! 今やっと部屋から逃げてきてっ‼」


 なるべく簡潔に話をまとめる。

 じゃないと彼が……‼


「レイプ? おいおい冗談はやめろよ。狐実君がそんなことするわけにないだろ?」

 父は私の顔を見た後に、隣で横たわっている吉原君のお母さんに目をやる。

「ええそうね。あなた、水野さんの家の娘? ちょっと失礼にも程があるわよ? 第一ノックもせずにここに入ってきてなにかと思えば私の息子がレイプ? ふざけてこと言わないでよ」


「信じてよっ‼」


「信じるわけないでしょう! 私の息子がそんなことするはずないのよっ! そんな子に育てた記憶はないわっ‼ もういい! 早く出てってちょうだいっ‼」


「お父さんっ‼」


「悪いが俺も同感だ。彼はそんな野蛮な人間じゃないからね。お前幻覚でも見てるんじゃないか? 冗談言うならもう出てってくれ。折角の雰囲気が台無しだ」


 そして結局私は部屋から追い出されてしまった。

 なんでだよ‼ 

 なんなんだよどいつもこいつもっ‼ 

 大人はほんとにクソしかいないじゃないか‼ 

 湧き上がる怒りをどうにか発散させたいけど今はそんな場合じゃ


――ガチャッ


「っ……⁉」


 やばい‼ 

 もう彼が部屋から出てきしまった。

 ここで捕まったらもうこの家に救いは無い。

 もし捕まったらもう私は……早く。

 早く逃げなきゃ。

 早くっ!

 私は急いで玄関へ走る。

 途中、廊下と階段が繋がってる部分で彼が降りてくるのが見えた。


「星宮ぁーっ‼ お前ぇよくもぉーっ‼」


 一気に降りるのを加速させて私に迫ってくる。

 早くこの家の外に! 

 早く近隣の人に助けを! 

 早く警察に通報を! 

 お願い……海、助けて! 

 ねえ助けてよ海! 


 海っ‼

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