第78話
早く……ここから逃げなきゃ!
「おっと待った」
鍵を開けて外に出ようとした私を彼は腕を掴んできて許さない。
腕の自由が利かなくなったところで、彼は右手で私の両腕の手首をまとめて掴み、頭の上に組ませて押さえつける。
そして片方の左手でそっと私の頬をなぞってくる。
「嗚呼……綺麗な肌だなぁ。近くでみるのはやっぱ違うなぁ……はぁー……良い香り……」
「やっ、離してっ‼」
「ダメだよ暴れちゃ……今から俺たちは結ばれるんだから……」
「結ばれるって……きゃあっ⁉」
手首を握られたまま、お姫様抱っこのように持ち上げられた私は、そのままベットに連れ込まれる。
手首は既に用意されていたガムテープで拘束され、完全に自由を失った。
「なにするのっ⁉」
「怒った水野さんも可愛いなぁ……余計に興奮してくるよ」
上から馬乗りされる形となった私は必死に抵抗しようと試みるも、両手が使えない上、男との圧倒的な力の差に成す術がない。
「じゃあまずはキスから……」
「ほんとに止めてぇ‼ お願いほんとに無理だ――」
――ぶちゅ
私は……っ!
汚い!
こんなの……っ‼
「はぁー……遂にこの日が来たんだなぁ。水野さんがいじめられるようになってから寄り添ってあげて本当に良かった……もう一回……もう一回」
――ぶちゅり
またされた。今度はさっきのよりも強引に唇を押し付けてきて、乾いたそれが私の心にチクチクと刺さった。
こんなのキスじゃない!
キスはもっと心地よくて温かくて……‼
「ほんとに止めて吉原君っ‼ ……そうだ! お母さん! お母さん!」
一階の自室にいるはずの彼のお母さんに、私は咄嗟に助けを求める声を出した。が
「無駄だよ。だってお母さんも今、多分こんなことしてるからね」
「こんなことって……シングルマザーじゃ……」
「もうすぐ再婚予定なんだ。だから新しいお父さんと愛を育んでいるんだよ、きっと。だから……俺たちも今こうやって愛し合っている……純愛だぁ……純愛‼」
「こんなの愛じゃない! ほんとに気持ち悪い! 今してること分かってるのっ⁉」
「愛じゃない? それはまた心外だなあ。だって水野さんだって星宮さんと付き合ってるんでしょ? それこそ愛なんかじゃないよ。そんな愛が許されるならこれも許されるでしょ?」
より一層彼の表情が強張る。
「だって女子同士だよ? 知ってる? 同性婚はこの国で認められてないんだよ? なのになんで? 子供も産めない。なんで敢えてなんの後ろ盾も無いマイノリティになるのさ? 女子は黙って男子と付き合って結婚して子供作って家庭守ってりゃいいのに……なんで女子を好きになってわざわざ険しい道に行くのかなぁ。男と一緒に居る方が幸せなのにねぇ」
「なに……言って――」
「そもそもマジで同性同士とか気持ち悪い。普通に無いわー。なんか最近流行のLGBTQだっけ? 世間では暗黙の了解で多様性を認めようとかなってるけど普通に考えてキモイ。でも水野さんをそうさせたのはきっと星宮さんだと俺は思うんだ……だから今こうして本物の愛を水野さんに肌で感じてもらって、俺と素晴らしい人生を……あははっ……あははっ‼」
もうなにも言葉も出なかった。
あるのは失望と恐怖だけ。
彼の口から出た言葉の数々は、それはもう酷くてありえない。
人として終わっていて。
救いようが無いほどに狂っている。
「だから……」
「ちょっ⁉ 止めてぇー‼」
すると彼はいきなり私のワイシャツのボタンに手をかけ上から外していく。
ダメだ……全然びくともしない。
このままじゃ……このままじゃ……っ‼
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