第70話

「どうだったみんな⁉」


「ううん。全然見つからなかった……」


 探し始めてから一時間程が経過した。

 私たちは一度広場に集合して、状況を報告し合ったのだが、期待した結果にはそう簡単にならない。


「くそっ! そっちもか……」


「もう一回探してみよ! 見落としがあるかも知れない。隈なく探すしかない」


「そうだね……よしっ。悪いけどもう一回お願いしても良い?」


「「うんっ」」


 頼りにある彼女たちの後ろ姿を見ながら私たちも階段を上っていく。


「吉原君の方も無いっぽい。まだ全部確認しきれてないけど……って」


「ちっ。今度は一体何処に……」


 その後も私たちは全力で探し続けた。教

 室の内装の裏。防災用具の裏。空き教室のロッカー。天井。そ

 れに周りの目を盗んで男子トイレも。

 人の視野全てを当たりまくった……が。

 どうしても見つからない。

 そんな簡単に神様は私たちを救ってくれやしない。

 そんな感動的にギターが見つかって「さあ公演頑張ろう!」だなんて出来過ぎた物語になんてなりやしない。


「ダメだ月……もう時間が」


「まだだよ! まだ探してないところが――」


「もう全部探したでしょ⁉ 落ち着いてっ!」


「私は落ち着いてるよ!」


「落ち着いてなんかいないよ!」


 まるで獲物を見つけた獣みたいに、私は心ここに在らずの状態で冷静さを失っていた。


「見つけないとっ……もう始まっちゃう! みんな待ってる! 私たちの演奏をみんなが……っ! だから探して行かないとぉー……っ‼」


 地団駄を踏み続ける。この間にも刻々と時間は過ぎていって……私たちはただ奇跡を信じるしかなくて……そんな自分の無力さに甚だ嫌気がさして……

 そして――


『ライブ、始まっちゃった……』


 先に教室に準備しに行っていた女子たちからそんな通知が届いた。

 間に、合わなかった……これだけ準備してきたのに……昨日はあんなに上手くいったのに……今日もまだまだすること沢山あるのに……

 くそ。くそくそっ。くそくそくそくそっ‼


「くそぉぉー……っ‼」


 ただひたすらに悔しい。

 こんな小学生みたいないたずらで私の希望が打ち砕かれるのが酷く嫌だった。昨日まで上手く行ってたのに、この数時間で圧倒間にすべてが崩れて……っ。


「月……」


 隣では海が悲しそうな白い瞳をうるうると滲ませている。

 言葉が出ない。なんてみんなに謝れば良いか分からない。

 合わせる顔が無い。もう昨日のような演奏は……っ!

 みんなは許してくれるかもだけど、自分自身が許せない。

 弱い自分がみっともない。


「ごめん、ね……海……私の、せい、でこんな……」


「月のせいじゃないよ! 僕が昨日『置こう』って言ったんだ。だから攻めるなら僕に――」


「違うよ! 悪いのは全部私だよぉっ! ぜんぶ、せーんぶ私がぁ……っ! ……お願いっ、私を叱って! 罵倒して! こんなダメな私を……ねぇ、お願い……っ、私を……っ‼」


 海は優しいから私を叱ってくれない。

 でも今だけは私を悪者にしないとこの怒りと悲しさの混ざった感情が行き場を失ってしまうから……それから私たちは無言で四階の空き教室の席で座っていた。

 これからどうすれば良いんだろう……? 

 もう全部探した。ならもうこの学校には無い。外を探すだなんて果てが無い。

 私はまたみんなに迷惑を……やっぱり私なんて……


「もう、ダメなの、かな……?」


「……」


 そんな私の小さな弱音はこの虚ろな寂しい教室にすぐに消えていく。

 もう終わりだ。

 諦めよう……

 そんな……時だった。


 ――ガラガラガラ


「はぁー……はぁー……ここにいたのか水野ぉ! 高野先生が呼んでる。急いで来いっ‼」


……?」


 まだ、運命の神様は私たちを見放してはいなかった。


 そこにはかつての敵がいた。

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