第69話

 次の日、朝のミーティングに間に合うように海と一緒に登校した。

 クラスにはもう既にみんなが揃っていて私たちが最後だった。


「よし。みんな集まったことだし今日もミーティングを始めよう」


 その後、話し合いは順調に進み、時間も間もなく来場者が入場してくる頃になる。


「じゃあ各自仕事の方よろしく! あっ、昨日楽器置いて帰った人は忘れずにー!」


 吉原君のその言葉ですっかり忘れていたことを思い出し、私は昨日置いておいたギターを荷物置きの所へ探しに行く。

 確かここら辺に……置いといた……は、ず……だけ、ど……?


「あれ……ない?」


「どうしたの月?」


「私のギターが……無い」


「え……そ、そんな⁉」


 海が私の元へ駆け寄って来てもう一度丁寧に探す。

 しかし、やっぱり何処にも無い。


「……海のやつの隣に置いたよね?」


「うん。で僕のはちゃんとあるよ。しかもちゃんとこの教室には鍵が……」


「どういう、こ……と……」


 そこで私は気が付いた。寧ろ気が付くのが遅すぎた。

 昨日あったものが今日無い。

 私のだけ無い。無いと私が困る。

 こんなことするのは……

「あっ、まさか……」


 どうやら海も私の強張る表情を見て察したらしい。


「うん……そうに違いない」


「くっ……くそっ! 油断してた! いちばん僕たちの気が緩む時を狙って……っ! 一体、何処まで卑怯なんだっ、沢野ぉー‼」


 次の瞬間、突如、海の怒号が教室中に響き渡る。

 一斉に全員の注目が私たちに、そして自分の席で余裕そうに爪を研いでいる沢野に集まった。


「お前! 月のギターを何処にやった⁉」


「早朝からうるさいうるさい。ってか唾飛んでんだけど? 唾は大切な彼女さんにでも――」


「調子乗んなよっ」


 ガシャンと椅子が派手に倒れる音がする。

 海が沢野の胸倉を掴んで軽く押したのだ。

 沢野はバランスを崩して思わず椅子から立ち上がる。


「あっぶな。この状況だけ見たら星宮さんが悪者だよー? 私こわーい。やだー」


「いい加減に――」


「やめて海っ」


 私はすかさず海の腕を止めにかかった。

 今にも沢野を殴りそうな彼女を必死に抑えてずっと「落ち着いて!」と言い聞かせる。

 ここでなにか起こしたらもう……

 少ししてようやく落ち着きを取り戻した海は、沢野を睨んだままその手をボンと離した。


「で、何処にやった?」


「さーね。そもそもなんの話? 私知りませーん」


「そうそう。推定無罪だよー? そんなに言うなら証拠が無いとね~」


 橋本も参戦し、埒が明かなくなっていく。

 背後では反町がひそひそとにやけていた。


「……海、ここは一旦避けよう。まだ時間はあるからさ」


「でも月! 一体何処を探すって言うんだ⁉ 見当も付かない。ただでさえ人も多いから自由に身動きできないっ!」


「そこは……この後考えようよ。まずはここから出よう」


「悔しいよ僕……」


 手にぎゅっと力を込める海をなだめ、私たちは教室を後にした。

 文化祭二日目。

 良い事があった次の日にこんな急に最悪なことが起きるなんて、やはり私たちは運命に狂わされている。



「俺たちも手伝うよ」


 職員室前の生徒専用の休憩広場まで移動した私たち。

 少し息を切らしていたが、すぐに後ろから追いかけてくる足音がして振り返って見ると、吉原君たちの姿があった。


「よ、吉原君……? なんで……?」


「なんでって……そんな簡単なこと聞く?」


 さぞ当たり前かのように、でも声色は真剣で。

 きりっとした眼差しを向けてきた。


「で、でもみんなそれぞれの予定が……」


「大丈夫よ、水野さん。私たちのことは気にしないで。どうせ忙しいのはライブ直前だけなんだし。それまでにみんなで協力して探そうよ」


 女子生徒の一人が心配そうな顔をしている。私の問題なのにみんな……ごめん。


「ありがとう。じゃあ手分けしてもらっても良い?」


 みんなうんと頷いたところで吉原君が口を開いた。


「俺は体育館も含めた西校舎探してくるから! 他のみんなには東校舎をお願いしても良い?」


「分かった。僕たちで三階と四階をやるからみんなは一階と二階をよろしく!」


「取り敢えず全部の教室を探させてもらって、そこから細かい所を探そう!」


 時刻は九時過ぎ。


 お昼の休憩前の十二時から始まるクラス公演までには見つけるんだ。

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