第4章 歪なアモル
第60話
「えー夏休みを終え、えー二学期がはじまりますがー、えー……」
九月四日。月曜日。
始業式の、ためになりすぎて困ってしまうありがたーい校長の話を聞き終えた私は海と弾き方の打ち合わせをしながら教室に戻った。
「えー、取り敢えずみんな久しぶり、だな。若干名焼け過ぎて誰か分からん奴もいるがまあ良しとしよう」
あははと笑いが起きる。私は焼けてないはず……ちゃんと日焼け止め塗ったもんねー。
「それとっ。クラス内装の方も見ての通りだ。頑張って協力してたっぽいし、やってくれた人に感謝しないとなー」
ぐるりと見回すように頭を動かす先生に釣られて初めてまじまじとこの教室の変貌ぶりを感じる。
窓には自然光が入ってこないように黒いシーツが。四方の壁も同様に囲まれていて、いつも教壇置いてあるスペースは専用ステージになっており、木材を組み合わせてより高くなっている。
クラス後方には照明や音響などのライブ器具が存在感を示しており、簡易的ではあるがどっかの下北沢のライブ会場みたいな雰囲気が教室内を漂っていた。
「まあ、まだこれで終わったわけじゃない。文化祭まであと一週間。夏休み出来なかったことをこの期間に終わらせて。或いはもっと完成度を高めて本番を迎えられるようになー」
最近、高野先生はやけに「先生」っぽいことを言うようになった気がする。
気がするだけ。
結局そのダルそうなドモる声で台無しになっちゃうんだけど……それでも、この励ましのおかげでクラスの士気もちょっぴり上がっているような感じもする。
「じゃあ後は吉原と実行委員の二人に任せるわー」
先生が教室を後にするのを見届けて、吉原君はステージ上に立って口を開く。
「えーまずはみんな、文化祭準備お疲れ様! 俺と一緒にクラス内装やってくれた人も勿論だし、最高のライブに向けて黙々と練習してくれた人たちもありがとう! もうあと一週間しかないけど、こっからもっともっと良いもん作っていきたいから、大変だろうけど頑張ろう!」
パチパチと少なからず拍手で彼の言葉を歓迎する音が聞こえる。
私が知らないうちに吉原君を中心としてクラスにある程度のまとまりが出来ているように思える。
定期的にクラスの雰囲気はメールしてもらっていたけれど、想像以上でとても心強い。
「じゃあ星宮さんからもお願い」
「はいはーい!」
私の後ろから愉快な声で軽やかに前へと向かって行く海。
そんな後ろ姿に舌打ちを立てて睨んでいる沢野や橋本がちらっと見える。
「みんな本当にお疲れ! この部屋の内装めっちゃ良い! 思ってた以上にすごくて……これなら最高のライブが出来そう! 僕もたーくさん練習してきたから楽しみにしといてねっ!」
「そういうことらしいから、みんなもここから後夜祭まで楽しんでいこうー! で早速なんだけど、これからのクラスの予定について話し合いを……」
吉原君が良い感じにまとめて、クラスのみんなに計画について提案しようとしたところで、今一番喋って欲しくない人物が短いスカートなどお構いなしに片足を組んで声を上げた。
「ねーねー」
「どうしたの沢野さん?」
「吉原には関係ないから黙ってて欲しんだけどー」
注意事項を言うように前置きした彼女はゆっくりとステージ上に立つ海を指さす。
「そこにいる星宮さんに質問なんだけどさー」
「なに?」
「ちょーっと小耳に聞いたんだけどさー」
「だからなに?」
「星宮さん、寝ると今までの記憶無くなっちゃうってマジ?」
「……っ⁉」
その瞬間、変な汗が私の背中にかじりついた。
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