第53話

「返済しなくて良い奨学金?」


「はい。ありませんか? そういうの……」


 翌日の昼下がり、近くの図書館での勉強に疲れた私は、夏休みながら学校を訪れていた。

 一つは吉原君たちの様子とクラスの感じを見るために。

 本題は先生への進路相談だった。


「あるにはあるんだけど……色々と条件があってだなー」


「条件?」


「ああ。親の収入上限とか、学校の成績とかも必要になってくる。兎に角、色々と手続きが面倒で貰える人の割合もかなり限られてるのが現状だ」


「親の年収なら……」


「ならどうした?」


「最近、私の親離婚したんで、低所得になりましたよ」


「おいおい……無表情でそれを俺に言わないでくれ……対応しづらい」


「だって親のことなんかどうでも良いですもん……どうせ、私なんか……」


「まあ、水野も色々あるだろうが、取り敢えずは志望大学に合格しなきゃこの話は始まらないからな。水野、勉強は出来るんだから。こっからが勝負どころだぞ」


「……はい」


「それと……クラスでは大丈夫か? 俺に出来ることは?」


 少々渋りながら口を開いた先生は誤魔化すように目を泳がせる。

 そりゃあ、先生も流石に気が付くよね……最初は周りの大人と同等汚い人間だと思っていたけど、最近はちょっと他とは違う大人なのではと思い始めていた。

 まだ信用しきっては無いけどね。人の信頼をいとも簡単に裏切るのが大人の常套手段なのだから。


「大丈夫です……支えてくれる人も増えたので……」


「そう、か……困ったらすぐ俺を頼ってくれて良いんだから、な」


「はぁー……あんまり踏み込まないでください。素直に気持ち悪いです」


「うっ……この俺が心配してやってるんだからさー、少しはありがたいと思えよ

ー……?」


 髪をぽりぽりと掻く先生がなんだか可笑しくて、ふふと微笑してしまう。


「冗談です。私だって体育祭の時のこと、先生には感謝してますよ?」


「それなら良し」


「……そのー、助けて欲しい時はちゃんと言います。それまで待っていてください。これは私がどうにかしないといけない問題なので」


「了解。無理はするなよ?」


「今更なにを。私は……散々無理してきた人間なので」

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