第45話
「ただいま」
「………」
一旦海の家に荷物を取りに行った後、私は自分の家に帰っていた。
昔と比べるとここ最近の家の中は綺麗に保たれていた。
私が海と友達だと知ってから、母親は毎日部屋を掃除していた。いつでも海が来ていいように、らしいが、結局海が家に来ることなんて数回しかなかった。
けれど、整えられた部屋で海を出迎えられたことに彼女は至極嬉しそうにしていた。
がしかし、今日は家に帰った瞬間、ある意味懐かしい光景が目の前に現れた。
リビングには酎ハイの缶がゴロゴロと散らばっていて、家具もぐちゃぐちゃ。部屋には光に照らされて輝く埃が舞っていて、まるで誰かと争った後のように、酷く荒れ果てていた。
「どうしたの……?」
リビングの真ん中で机に突っ伏すお母さんの背中を見て、恐る恐る声をかけてみる。
「……したのよ……」
「……? もう一回言って」
「……婚した……」
「聞こえないよ」
「離婚したって言ってるじゃない! 何回も言わせないでよぉっ‼」
そう言って顔を上げたお母さんの目は赤く腫れていて、皮膚には服や髪に圧迫された跡が顔を蝕むように刻まれていた。
「えっ……離婚?」
「そうよっ! あの人、やっぱり不倫してたのよっ‼ 私が仕事から帰ってきたら、家に知らない女と一緒にベットで寝てたのよ! で私が問い詰めたら『だったら離婚しよう』って……っ、離婚届を渡されたのよっ‼」
「……で、書いちゃったの?」
「仕方ないじゃないの‼ あの人もう自分の書く欄だけ埋めて『書かなかったら俺が筆跡真似して書くから。一応、俺たち長いことやってきたから真似くらい出来る』なんて言ってっ‼」
「じゃあお金とかは……?」
「そんなことっ! 私にはこの先どうなるか分からないわよぉっ……『あっちの子はすごい出来の良い優しい子だから負担が減るなぁ』なんて言って……っ‼」
私だって分かんないよ。
親が離婚?
じゃあこれからはお母さんと二人だけの生活になるの?
それじゃあお金は余計足りないはずだ。この家のローンだってまだたくさん残ってる。
私の教育費は?
参考書は買えないの?
受験料もどうするの?
そもそも大学費払えるの?
突然の海との確執。
親の離婚。
今日の私はもう本当に頭がいっぱいいっぱいで、なにも冷静に考えられなくなっていた。
まさに虚無。
ようやく開かれた未来が、たった一日で光を失い、あっという間に暗闇に呑まれていく。
なんで私だけこんな思いをしなきゃいけないの?
こんなんじゃ三日後の期末なんて万全の状況で受けられるわけもない。
すべてを忘れて、考えるのを止めたくて、私は急いで自分の部屋に向かいベットにダイブした。
そしてふと目に映ったのは、埃をふんだんに被った、でも新品なギター。
もう久しく弾いていない……
私がギターを弾かなくなった理由は……
これがいじめられる原因を作ったからだった。
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