第33話
「はぁーはぁー……そっちはどうだった?」
「はぁー……全然。その様子じゃ月もダメっぽいね……っ」
もうあれこれ二十分くらい経っている。校庭の端から端を全力ダッシュで探しても私のハチマキは見つからなかった。
やはりそう簡単には見つからないか……
「そしたら大会本部に行ってみよう。もしかしたら落とし物であるかもっ」
海が本部である大きな白いテントの方へと走っていくのでその背中を急いで追いかける。
「すみません!」
「……んー? どうしたんだぁー?」
私が本部に着くと、丁度海がちょっと年老いた小太りの先生に話しかけていた。
「ここにピンク色のハチマキの落とし物届いてません? 僕の友達が失くしてしまったんです」
「うーん……そんなものは届いてないけどねぇー。ほんとに良く探したのぉー?」
「探しましたよ! でも無かったのでここに来てみたんですっ!」
海が一歩前に踏み込む。
「なんでそんなに怒ってるんだよぉー。こっちは気前よく対応してやってるのにぃ。そもそも失くさなきゃ良い問題だろぉ? 失くしたのになに強気で来てるんだよぉ」
「そうだよ。ごめん、海……私がちゃんと結んでおけば……。全部、私の責任だよ……」
「月はいいのっ!」
海に思いっきり腕を払われる。
走って探してくれた疲れと先生への苛立ちからか、肩で激しく呼吸をしている。
「どうしたんですー? 先生?」
と、そこへやってきたのは、ここ最近私たちへの接触が減ってきていた青柳だった。
「なんでお前がここに?」
青柳の顔を見るなり、すぐさま海がにらみつける。
それはまるで獣を捕えるライオンのように、鋭く、痛い視線を光らせていた。
「俺、放送委委員だから。委員のテントが隣なんだ。んで、お前らの声が聞こえきた」
「冷やかしにきたのか? 『あれっ? なにで困ってるのかなぁ~?』って」
「……まあな」
「ふざけやがってこのぉっ!」
「や、止めて海っ」
海が彼に飛びつこうとしたものの、私の手が咄嗟に海の腕を掴んでどうにか先生の前で問題を起こすのを止める。
青柳は微動だにせず、突っ立ったままだった。
「海、取り敢えずここにも無いらしいから、他探そう?」
肩をさすり、海をなだめた私はテントを去ろうとするのだが、一瞬青柳のなんだかもの言いたげな表情が横目に映った。
あんな虚空を見つめるかのような、覇気の無い視線を地面に送る彼は見たことが無かった。
地面にはなにも転がっていなかった。
「くそっ! 結局あいつらの仕業ってことじゃん!」
苦虫を噛み潰したような顔をしながら、太陽に映える頬を汗できらりと反射させる海は怒りを隠すこと無く地団駄を踏む。
「ほんとごめんね……私の……っ、私のせいで」
「いやいや! 月は一切悪くないでしょ? マジで青柳といい、あいつらはなんでこんなにも必要にひどいことをするのか!」
「……うん。ほんとにそう……」
「もう仕方が無いっ! もう一回探してみよう。月は校庭を、僕は校舎内も探してみるよ!」
「うん……」
弱音なんて吐いてられない。
海と過ごしてきたこの二ヵ月。
海と練習してきたこの二週間。
それらを無駄にしないためにも私は足が千切れるくらいに動かさなければならない。
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