第28話
「なんで海は自分のことを『僕』っていうの? 海は女の子でしょ?」
※
「だって『僕』って言った方がかっこいいじゃん。強そうだし」
「そう?」
「そうだよ」
「そっか……そうだね」
私はやけに腑に落ちた。
別に一人称だなんてなんだっていいじゃないか。男が「あたし」と言おうとも女が「僕」、「俺」と言おうが。
なんだって海は反町やら青柳たちと真正面から対抗して、私のことを守ってくれているかっこいい。
自分の意見もはっきりと言える。だから海の一人称は「僕」が一番似合っている。
――チョキチョキ
「月の髪は本当に綺麗だね、さらっさらだもん」
「全然海に比べたらそんなことないよ。しかもそれ言うの何回目?」
海は事あるごとに私の髪を見て、綺麗だねと褒めてくれる。
しかも心からそう思っているような表情を毎回するため、あまり強く否定も出来ない。
「何回だって言うよ。月の髪はすごい輝いてる」
「そ、そこまで言わなくても……」
周りに私たち誰もいないけれど、ちょっと恥ずかしい。
風が涼しく感じる。
「僕はこんな子の隣を独占出来て幸せ者だよ」
「私も……最近は海と一緒に居たいって……思うようになってきた、よ?」
「そんな月の少し素直じゃないところも大好き!」
「す、素直だし! 超素直だしぃー!」
顔が熱くなって図星になる。
海が私を想ってくれる分、私もなにか返してあげないと、と思った結果がこれだ。
私は人付き合いが下手くそだ。でも海はこの不器用さでさえ愛してくれる。
――チョキチョキ
その後しばらく心地の良い無言が続くと海が「はい! これでカットおしまい!」と言って、背後から手鏡を差し出してきた。
「どうどう? いい感じ?」
「えっ、うん……! 私、この髪型好き! さっぱりしてて、落ち着いてるし」
私の髪は肩にかかるかかからないか辺りの所まで大胆にカットされていて、中の方も綺麗にすかれていてとても軽い。
そして爽やか。
これなら明日の体育祭もばっちりだ。
「本当にありがとうね、海。おかげですごく良くなった」
「うんうん! 今の月すごい可愛い! また切る時は言ってね!」
頬をこれでもかと持ち上げて満点の笑みを零す海。
それに釣られるかのように、私もちょっぴり口角がニッと上がる。
「それにしてもすごい上手いね。まるでプロみたい」
「まあねー。これでも実は僕、将来、美容師を目指してるんだ!」
「えっ⁉ 初耳なんだけど⁉ 海が……美容師⁉」
えー……全然分からなかった。っていうか言われても全く想像が付かない。
海が人の髪を切ってる様子……なんか間違って大事な脈でも切ってしまいそうだ。
「あー。月、今『海は首を切っちゃいそう』とか思ってたでしょ? 顔に出てるよー」
げっ。バレてた?
「今のこのショートの髪も自分で切ってるんだよねー」
「その髪ってさ、染めてる……よね?」
「うん。少年院に居た頃にね。なんか許された。ちょっと。気分転換のつもりが案外気に入っちゃってさ」
「……なんか良いね、ちゃんとした夢があって。私は……まだそんな立派な夢なんてないや」
「落ち込む必要はないよ。だって、まさに今この時期がその夢を探す時期なんだから。モラトリアムだよ、モラトリアム! 焦らなくたって、その内見えてくるものがあるはずだよ!」
「そうかなー……?」
「そうだよ。このモラトリアムを存分に使って、月がやりたいことを一緒に探して行こっ!」
海は体の前でギュッと両手を握りしめて、キラキラした視線で私を見つめる。
嗚呼、私も何回だって言おう。
彼女の目はなんて綺麗なんだ。
透き通る白い瞳。
とろけるような、甘くて暖かい眼差し。
彼女には私しか映っていなかった。
「なら……頑張って、みます」
「そうこなくっちゃ!」
そうして何故か海とハイタッチを交わした私は、その後シャワーを使っていいよと言われ、豪邸のお風呂を頂くことにした。
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