第24話
「えー、これから二週間は体育祭に向けた時間割になるわけでー……」
試験明けの週初めの日、HRで高野先生は疲れたように学校から配られたプリントを音読している。
おそらく試験の採点とかで今は疲れているんだろう。教師って大変だ。
「じゃあこの時間でまず個人種目の割り当てをみんなで話し合って決めてもらうから。後は吉原よろしくー。決まったら職員室来てねー」
ほんとにこの人は放任主義すぎる。
そんなにも忙しいのかと思って、ある日、職員室を覗きに行ったら彼は堂々と机で気持ちよさそうに寝ていた。
今日もこれから寝るのだろうか?
或いは一服しにくのか……この学校禁煙なんだけどなぁー。
そんなサボり魔が教室を後にすると、吉原君がプリントに書かれた種目を黒板に写して、早速種目決めに取り掛かる。
「えーと、おさらいだけど……男女ともに百メートル走は最低限参加しないとダメ。逆に、個人種目は自由参加なので基本挙手制でやりたい人がやる感じ行きたいと思います!」
私は、運動はそこまで苦手ではないが、やはり悪目立ちしたくなかったので今までの中学・高校生活で個人種目に参加したことはない。
し、今年も出来ればしたくない。
しかもこの梅雨の時期はジメジメとしていて、ただでさえ長い髪が運動するとより一層蒸れて気持ち悪いのだ。
首筋にぴったりとくっついて、変な汗を掻くのも嫌だ。
「早く終わって欲しい」と心の中でボソッと呟き、私には関係ないだろうと、机に突っ伏して夢の世界に足を踏み入れた。
※
「じゃあこれで決定! みんな宜しく!」
そんな吉原君の元気な声が私に向けられた感覚に襲われて、急に意識が現実に戻された。
あれ、今は確か体育祭の種目決めを……ああ、もう終わったのか。よし、これで一安心。
今年も軽く体育祭は流せるだろうと思い、種目とその出場者が書き揃った黒板を右から左へ視線を移していくと……
『二人三脚 星宮 水野』
……え?
なんで私の名前が黒板に?
私は寝てたはず……ってことは……
なんだか嫌な感じがして、私はバッと後ろを振り返る。
そこには両手に顔を乗せて満面の笑みを零している海がいた。
「まさか海……」
「うん! 僕と一緒に頑張ろうね!」
「な、なんてことを⁉」
思わずオーバーリアクションをしてしまい、一斉にクラスの注目を集めてしまう。
もう……ほんとなにもかも最悪だ……
※
「ねー、ほんとにやるの……?」
まだ陽が傾く前の放課後、私たちは体育祭練習用に開放された校庭の端っこで、お互いの足をひもで結び、早速二人三脚の練習を始めようとしていた。
「当たり前じゃん! やるからには一位を目指さないと!」
「私は巻き込まれ事故なんだけど……」
「まあまあいいじゃない! だったら今から月は辞退する?」
「……しない、けどさー……」
ずるい聞き方だ。
私が拒否できないのを分かった上で、にやにやと笑う海はときどき策士になるので非常にやりにくい。
「でも私、海みたく運動が特段出来るわけでも無いよ?」
「大丈夫、大丈夫! 言わば、これは二人の協力プレイ。総合格闘技なのさ!」
「闘っちゃダメでしょ……」
今回ばかりはやけに海のテンションが高い。
それだけ楽しみにしている表れなのだろうか?
「じゃあ早速走ってみよう! 声掛けは『いっちにっ、いっちにっ』で!」
私の肩を抱きかかえるように手を回してきた海の瞳は、まるで宝物を探す少年のような希望溢れる眼差しで。キラキラと白く輝く太陽のようで。
その希望に魅せられるように、自然と私も自分の肩に海の肩をグイッと寄せた。
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