第14話
すぐに後ろを振り返るといつの間にか海は席から立っていた。
すごいやる気だ……
「おっ! 星宮さん、やってくれるの⁉ すごい助かるなあ!」
「最後だし、楽しそうだからねっ! ただ……一つだけ条件があるんだ」
「条件?」
「うん! ……目の前にいる月と二人で委員をやたりたいなー!」
「……ッ⁉」
急に私の名前が呼ばれて体がピクっと弾む。
えっ、私⁉
しかも海と?
いやいやいや。
「ちょ、ちょっと海⁉ い、いきなりすぎるよっ⁉ なんも言われてない、し」
「あれ、そうだっけ? じゃあ今言った!」
意地悪そうな笑顔をして、海は吉原君へと視線を投げる。
「確か委員の数は制限されてなかったよね? なら一人じゃなくてもいいでしょ」
「まあ確かにそうだけど……」
言葉を詰まらせた彼はチラッと私のことを見てくる。
「水野さんはちょっと困ってるみたいだし……」
「月は困ってなんかいないよ? だって僕、月のこと大好きなんだもん。だから思ってることなんでも分かっちゃうんだ」
「だ、大好きって……星宮さんはたまに変なことを言うねぇ……」
これには流石に吉原君だけじゃなくてクラス中がざわつく。
当然私もいきなりの告白に心臓が飛び出しそうになった。
大好きの意味は取り敢えずさておき、こんなにもクラスの注目を集めたくなかった。
また目を付けられてしまう。
「……水野さん。星宮さんはこう言ってるけど、どう、ですかね?」
もう頭の整理が付かないのか、急に敬語になってしまう吉原君。
これ以上彼にも迷惑をかけたくないし、悪目立ちも良いところ……ここは……無念。
「わ、分かりました。や、やります……」
なし崩し的にそう答えてしまった。
「やったー! 月、よろしくねっ!」
そんな感情とは正反対な海はぴょんぴょん跳ねると、張りのある右腕を差し出してくる。
昨日はあんなことがあったのに、全く気にしない様子で一点の曇りない表情を向けてきた。
ちょこっと開いていた窓から小風がぴゅうーっと吹いて、太陽に反射した白いショートがサラブレットみたいに横になびく。まるで漫画のヒロインみたいだ。
そんな魅惑に流されて、私は無意識のうちに彼女と握手をしていた。
彼女は私の手を掴むと、私のを覆い隠すように左手も出してきて優しく包んでくる。
それはまるで彼女の心の温かさを伝えられているようだった。
「じゃ、じゃあ無事文化祭実委員は二人に決定したということで」
その後も意外にも順調に係決めは続いていった。
あいつらと言えば……私たちが委員になることに対して少しイラついている態度をしていたけれど、クラスの雰囲気と自分がその役をやりたくないためか、結局、静観を貫いていた。
私は彼女の手の感触が忘れられなかった。
五年前の、あの差し伸べられた光と同じだった。
風は少しだけリズム良くなびき、私の耳を通過していった。
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